ナイルは、昨今話題の“○○ガチャ” の文脈と掛け合わせ、「面接官ガチャ」を回避する就活制度を発表。キャッチーなワードや分かりやすいキービジュアルなどから、多数のメディア露出を獲得しています。また月平均10本公開している「調査リリース」をきっかけに、メディアで紹介されるケースも増えています。
メディア側には日々多くの情報が寄せられる中、「メディア露出につながる」企画をどのように立てているのか。ナイルの広報術の裏側に迫りました。
※本記事は、2023年4月1日発売予定の広報会議2024年5月号 特集「メディア取材が増える 広報の秘訣」の転載記事です。
企業のDX支援や自動車のサブスクリプションサービスをはじめ、多角的な事業を手掛けるナイル。同社は、2025年卒業者向けの新卒採用において、「面接官ガチャ」を回避し採用の公平性を高める「選べる面接官」制度を開始すると発表した。
「面接官ガチャ」というトレンドワードや学生側の「不公平さ」を解消する制度の内容が話題を呼び、2023年10月の発表以降、NHKをはじめとする数多くの媒体に取り上げられている。
「面接官ガチャ」着目の起点
「選べる面接官」制度は、一次面接官を学生が選べるというものだ。
企画したのは、同社の執行役員・人事本部カルチャーデザイン室室長の宮野衆氏。「新卒採用は採用側と学生側に情報差があり、フェアではない」という思いを長年抱いていた中、「面接官ガチャ」というワードをSNSで目にし、制度策定につなげた。
近年、新卒就活生の間では配属先や上司の選定が運次第であることの不安を示す言葉「上司ガチャ」「配属ガチャ」が直近5年間でGoogle検索回数約2倍になるなど、話題を集めている。
付随して、採用選考でも自分の合否判断を委ねる面接官が運次第で決まるため、相性などで結果が変わることを不安視する言葉「面接官ガチャ」がSNSを中心に散見される。この文脈を制度に取り入れリリースした形だ。
加えて「短い言葉で分かりやすく印象に残るように伝えたかった」ことから、「選べる面接官」制度と内容を直観で理解できるネーミングとキービジュアルのデザインにもこだわった。ビジュアルは、テキストだけでは伝わりにくい新たな概念などを伝える際には特に、メディアや生活者の理解を助けるために丁寧に制作するという。
結果としてリリース当初から、ウェブメディアやHR系メディア、同社と関係性のあったラジオなどで話題化。年末にかけてはNHKからの取材も受け、通信社や地方紙でも取り上げられる機会が増えたという。
また制度のイメージが伝わりやすいように添えたビジュアルごと、テレビで紹介されるケースもあった。企業による説明会やプレエントリーの受付がはじまる「就活解禁日(3月1日)」前後から露出がさらに増加。3月5日時点では10以上の媒体に取り上げられ、「想定以上」と宮野氏は手ごたえを語る。
「昨年の同時期と比較し、当社へのエントリー数は1.5倍となっており、新制度も一部貢献していると考えています。リリース内容が就活生に届いている実感もあり、制度を活用した就活生・面接官双方から有意義な面接となったという声も聞こえてきます」。
一歩ではなく「半歩先」を
「面接官ガチャ」のリリース同様、同社のリリースはこれまでも数多くのメディアに取り上げられてきた。勝因を宮野氏は「基本的なことですが」と前置きしつつ「世の中の流れやトレンドを切り口として打ち出しつつ、自社の情報を発信することです」と語る。
ここで重要なのが「トレンドの一歩先でなく半歩先の関心を捉えること」だ。一歩先だと、先取りしすぎて情報が受け手に響かない。だが半歩先であれば、受け手が社会の流れなどと照らし合わせてイメージしやすく、情報も届きやすくなるという考えだ。
また同カルチャーデザイン室・採用広報の峰尾優里氏は「トレンドや社会問題を打ち出す際には、アンケート調査の結果などファクトやエビデンスを入れることを意識しています」と話す。
加えて、一歩引いて俯瞰する視点も欠かせない。「この内容は、メディアが報じたくなるか」を判断するため、同社では日常的に広報部門間で企画案を共有しながら、ブラッシュアップを重ねている。
「年末の断捨離ネタや4月の新生活ネタといった、メディアが毎年取り上げるテーマを想定し、取り上げられやすいタイミングに、その時々のトレンドなどをプラスアルファで掛け合わせて打ちだすことも心掛けています」(自動車産業DX事業部広報 今村和世氏)。
AI活用で「調査リリースのメディア露出は4倍以上」
同社では、調査リリースを月10本ほど、発信することにも注力している。
調査リリースとは、消費者の行動などをテーマに独自の方法でリサーチ・分析し、その調査結果を発信する内容で、調査は外部機関に委託するケースが一般的。
同社が発信したリリースでは、「【Z世代とカメラアプリ】『BeReal』利用者の約4割が、無加工の写真をSNSに投稿する頻度増えたと回答、10代男女947人のカメラアプリに関する調査レポート」をはじめ多数が、メディアで紹介されている。
ただ調査リリースの発信を担う、メディア&ソリューション事業部の広報部門の担当者は主にひとり。他業務と並行しながら、工数のかかる調査リリースを月10本配信するのは至難の業だ。
そこで同担当者が活用しているのが、生成AI「ChatGPT」。
「調査リリース作成において最も時間がかかっていた『調査設計』を効率化するため、ChatGPTを取り入れています。結果として作業時間は2時間強から20~30分と約70%の短縮化につながり、制作可能な調査リリース量の増加により活用前と比べメディア露出は4倍以上となりました」とメディア&ソリューション事業部広報の中村紘子氏。
具体的な活用法は、ChatGPTのAPI(アプリケーション プログラミングインターフェース:ChatGPTを外部システムから利用できる仕組み)をGoogle スプレッドシートに連携。大枠の「調査テ―マ」と「調査ターゲット」を打ち込むと、「調査ターゲットが抱えているであろう課題」といった調査軸のアイデア出しから、アンケート項目までが自動生成される。そのアイデアをもとに調査内容を定めている。
ただ生成AIが出したアウトプットを活用するかどうかの最終判断を下すのは人間だ。
今村氏は「社会性があるか、現在のトレンドに合うかどうかが判断軸です。世の中とリンクしていなければ、メディアにも取り上げてもらえずに情報は届かないまま。AIを活用しながらも、最後は広報視点を持った人間がジャッジしています」と語った。
企業としての存在感を高める広報を
同社は、2022年に広報体制を刷新し、現在の広報は5人。各事業部に担当広報を配置して、役割も明確化。担当者が事業部ごとのトピックなどを緻密に吸い上げられる体制を敷いている。またコーポレートリリースは5人が連携して発信する。
宮野氏は刷新の手ごたえについて「コーポレートから事業個別の情報まで、抜け漏れない発信体制を実現できている」と評価しつつ、現在の課題を「企業の認知度」とコメント。
「企業としてより存在感を出すことで、メディアから『ナイルに聞いてみよう』と名指しで相談されるような関係を築いていきたい」と先を見据える。
そのため「広報としては、情報提供やレスポンスの速さがカギとなるはず。企業のメリットに直結しにくい調査リリースの発信なども継続し、メディアに価値を提供し続けることが信頼獲得につながると考えています」と、地道な取り組みの重要性を語った。
特集「メディア取材が増える 広報の秘訣」ではこのほか、「メディア取材を呼び込む5つの要素」や、「常連企業に聞く、メディア露出の舞台裏」について、取り上げています。
広報会議2024年5月号
- 特集
- メディア取材が増える
- 広報の秘訣
- GUIDE 広報担当者が知っておきたい!
- メディア取材を呼び込む5つの要素
- 上岡正明 フロンティアコンサルティング 代表取締役
- CASE 1 メディアとの対話を重ねる 編
- 「メルカリが取り組む意味」を伝え
- 事業に紐づくメディア露出を獲得
- CASE 2 PRイベント 編
- 一足早いお花見や「いいちこ」ブランドを
- ビジュアルやPRイベントでメディアに発信
- CASE 3 トップが語る 編
- 「どんな取材でも受ける姿勢が大切」
- 高視聴率社長に聞くメディアとの付き合い方
- CASE 4 ロケ支援 編
- 番組制作者の記憶に残る対応で
- 1000件ロケ実現、熱海市のイメージ向上へ
- CASE 5 時流にあった情報提供 編
- ナイル「半歩先」のトレンドワードを切り口に
- AI活用で調査リリース作成時間は70%減
- メディアに聞いた 取り上げたくなる広報術
- ●フジテレビ『Live News α』
- ● TOKYO FM『ONE MORNING』
- ●『ハフポスト日本版』
- GUIDE 情報の優先順位を明確に
- 「瞬時に伝わる」広報ツールのデザイン
- 武田英志 hooop代表取締役
- COLUMN 情報の理解度を高める「デザイン」
- 広報担当者が押さえておくべき考え方
- 小杉幸一 onehappy_ 代表取締役
- COLUMN 掲載数測定から次なる段階へ
- メディアリレーションの効果指標を考える
- 藤村侑加 PReA 代表取締役
- 広報入門
- ● 新任広報担当者に伝えたい、先輩広報のエピソード
- ●『広報会議』メディアリレーション連載の読み方
ほか