炎上プロジェクトを立て直すには?プロジェクトドリル10「危険生物駆除キャンペーンを成功させよ」

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本コラムでは、プロジェクトマネジメント力を高めるために必要な思考の型・原則・技法を身につけるドリル(練習問題)を、「プ譜」という共通フォーマットを使用して提供します。出題のネタは、古今東西のビジネス事例、歴史上の出来事、SNSで話題になった事例、マンガなどから幅広くピックアップ。すきま時間で楽しく取り組みながら、プロジェクトの計画立案や意思決定の力を高めることを意図しています。今回は最初に立てた計画にヌケモレがあって炎上してしまった逸話(コブラ効果)を例に、炎上プロジェクトの立て直し方法を考えます。

今回のドリルで鍛える力(ドリルの狙い)

  • ・プロジェクトに必要な「要素」を事前に洗い出す力
  • ・起きてしまった出来事を「素材」として活用する力

こんな問題に心当たりがある人にお薦め

  • ・考えが浅い、短絡的。対応が場当たり的
  • ・当初の計画にこだわってしまう


 

プロジェクトドリル10問目「危険生物駆除キャンペーンを成功させよ」難易度★★★

ドリルのシチュエーション

みなさんは大英帝国支配下で植民地になっていたインド政府で働いています。あなたが仕えるイギリス人知事は市街地によくいる大道芸の蛇使いのコブラが大嫌いで、市内からコブラを一匹残らず駆除するために、「コブラを捕獲して役所に持ち込めば報酬を与える」というキャンペーンを実行することにしました。

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しかしこのキャンペーンは、インド市民の間に「コブラを持っていけばお金がもらえる=ラクに稼げる」という認識を生んでしまいました。インド市民はコブラで稼ぐためにコブラの養殖を始め、育てては政府に売りに行くということを始めてしまったのです。どんどん持ち込まれるコブラに予算は底をつき、当初確保していた予算では足りなくなり、いったんキャンペーンを中止したところ、コブラ養殖業者が「このまま終了したら養殖したコブラを放逐する」と圧力をかけてきました。

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問題

予算は減っており、持ち込まれるであろう養殖コブラを放逐させないために、下記から最も良いと思われる対応を選択してください。

  • A. さらに予算を調達する
  • B. 買取金額を引き下げる
  • C. ペナルティを与える
  • D. 勝利条件を変更する

解答と解説

Aを選んだ方は、認識が甘いと言わざるを得ません。現実のプロジェクトでも予算が足りなくなったので追加するのはかなり難しいことです。また追加できたとしてもプロジェクトの構造が改善されていなければ、同じ結果を繰り返すだけになってしまいます。

Bを選んだ方は、予算が少なくなっているという現状をふまえてのことと思います。しかし残り少ない予算で増えているコブラの買取を賄えるかどうかはわかりません。

Cはこのキャンペーンが開始される前に実行しておきたかった施策です。ペナルティを与えるという施策を実行することで、「不正・抜け道を許さないルールになっている」という状態をつくり、市民の「ラクして稼げる」という認識のあるべき状態を維持することができたかもしれません。

解答と解説の図

Dを選んだ方は、起きてしまった出来事を素材として編集(活用)する力をお持ちかもしれません。筆者が行う研修でこのドリルを出すと、下記のように勝利条件を変更する人が稀に出てきます。

  • ・コブラを食材として活用する
  • ・コブラグルメの大会を開催する
  • ・増えたコブラの皮などをファッションアイテムに加工する
  • ・「闘蛇」「競蛇」のようなアニマルスポーツを開催する

これらのアイデアに共通するのは、勝利条件を「コブラの駆逐」から「コブラの活用」に変更し、予算を使わず市民自らがお金を稼げるようにするというものです。

細かいことを突っ込めば、グルメ大会の賞金は政府予算から出すのかといったことや、コブラを食用やファッション用に活用することは文化的に許されるのかといったことが気になります。「闘蛇」の人気が出てテレビ中継などされたら、知事の目に触れる機会が増えてしまわないかなど、当初の目的が果たせなくなることがそもそも知事に受け入れられるのかといった問題が残りますが、一番発展的な可能性が高いのはDの選択肢です。

ドリルの教訓

このドリルで起きた問題は、インド人の気質や文化についての無理解が招いたともいえますし、報酬を与える上での考えの浅さが招いたともいえます。プロジェクトはルーティンワークと違って未知の要素が多い仕事です。その未知の種類や量が多いほど、問題が発生し炎上につながってしまうため、できるだけ事前に情報を収集してヌケモレのない計画を立てる必要があります。

しかし、起きてしまった問題に対応するため、当初の計画にこだわっても根本的な解決はできず、お金や時間や人というリソースをいたずらに浪費してしまいます。そんなときは思い切って勝利条件を変更することが、問題の状況を打開することにつながります。

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このドリルで参照した書籍・Webコンテンツ

『予定通り進まないプロジェクトの進め方』(宣伝会議)

『プ譜』についての詳細はこちら

『予定通り進まないプロジェクトの進め方』 (前田考歩・後藤洋平著)

ルーティンではない仕事はすべて「プロジェクト」である――独自のフレームワーク「プ譜」を使って、プロジェクトの状況や諸要素の関係性を構造化し、成功に導くための方法を解説。プロジェクトの全体像を俯瞰し、進行の技術を身につけるための実践書。

「プ譜」の解説動画はこちら


バナー 「プロジェクトマネジメント基礎講座」リンク

 




前田考歩(プロジェクトエディター)
前田考歩(プロジェクトエディター)

1978年三重県生まれ。平日8:00〜10:00のみ開業の、問いかけと構造化でプロジェクト進行を支援する『プロジェクト・クリニック』を運営。
自動車メーカーの販売店支援・CSR事業、映画会社のeチケッティング事業、自治体の防災アプリ、保育園検索システム、夫婦の育児情報共有アプリ事業、魚の離乳食的通販事業、テレビCM制作会社の動画制作アプリ事業など、様々な業界と製品のプロジェクトマネジメントに携わる。
プロジェクトに「編集」的方法を活かした、プロジェクト・エディティングを提唱、実践中。
著書に『紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本』(翔泳社)、『予定通り進まないプロジェクトの進め方』『見通し不安なプロジェクトの切り拓き方』(宣伝会議)、『ゼロから身につくプロジェクトを成功させる本〜はじめてのプロジェクトマネジメント〜』(ソーテック社)など。

前田考歩(プロジェクトエディター)

1978年三重県生まれ。平日8:00〜10:00のみ開業の、問いかけと構造化でプロジェクト進行を支援する『プロジェクト・クリニック』を運営。
自動車メーカーの販売店支援・CSR事業、映画会社のeチケッティング事業、自治体の防災アプリ、保育園検索システム、夫婦の育児情報共有アプリ事業、魚の離乳食的通販事業、テレビCM制作会社の動画制作アプリ事業など、様々な業界と製品のプロジェクトマネジメントに携わる。
プロジェクトに「編集」的方法を活かした、プロジェクト・エディティングを提唱、実践中。
著書に『紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本』(翔泳社)、『予定通り進まないプロジェクトの進め方』『見通し不安なプロジェクトの切り拓き方』(宣伝会議)、『ゼロから身につくプロジェクトを成功させる本〜はじめてのプロジェクトマネジメント〜』(ソーテック社)など。

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