「一生懸命新しい政策・事業をつくっても、都民に伝わらないと、その効果が十分に出ることはありません」。小池百合子都知事は、職員を見渡し、こう語りかけた。
都が扱う広報テーマは、実に幅広い。環境、テクノロジー、防災、教育、スポーツ、観光、都市づくり。多くの広報活動を行うが、全ての都民に公平に情報を届けることを意識してしまい、各事業のターゲットに「知られていない」という状況もあった。そこで都では2022年、広く、深く、迅速に伝わる広報に取り組むため、各部署が行っていた広報活動について、全庁横断で支援する戦略広報部を設立。発信力の強化を図っている。
戦略的な広報への進化
戦略広報部は、必要な人材の採用・育成にも積極的だ。民間で広報や広告の業務経験がある人材を公募し、都の重要テーマに関する広報活動を実施。また、各部署の広報・広告活動の伴走型支援をするとともに、都庁全体の広報力の底上げのため、2年間で延べ約6400人の職員に研修も行った。
各部署の職員とともに新たなクリエイティブ、発信の工夫にも取り組んでいる。その一例として、脱炭素社会の実現に向けた節電の呼び掛けでは、電力をH(へらす)T(つくる)T(ためる)ことを表す「HTT」をキーワードに設定。都民が複数のタッチポイントで接触するよう様々な媒体で発信している。広報紙「広報東京都」も大幅リニューアル。漫画家・イラストレーターなどとコラボした紙面も実現している。
左:HTTの認知度を高めるため、予備校講師・タレントの林修氏を起用したコミュニケーションを継続して行っている。
右:広報東京都2024年2月号では、アニメ「グレンダイザーU」を表紙に起用。行政とは思えない思い切った表紙はSNSでの反響が大きい。
©Go Nagai/Dynamic Planning-Project GrendizerU.
優れた広報事例を表彰
都で生まれている広報事例を共有し「一つひとつの政策を一人ひとりの都民に届ける」ことを目指そうと、2023年度に新設したのが、職員表彰「伝わる広報大賞」だ。
2023年1月~12月に実施した広報活動を対象とし、全126件の応募の中から審査を経て大賞と部門賞あわせ9作品が選ばれた。
2024年2月、表彰式を開催。出席した小池知事は、トロフィーを授与し、職員にエールを送った。「広報は、大義と共感をセットで伝えていくことが重要です。私たちは『平和を守りましょう』『水を守りましょう』と大きなテーマを提示しています。一方で都民の皆さまには『あなたにできることもありますよね』と問いかけ、共感を生み、行動につなげていく。そうすることで大きな目標達成につながります。受賞作は、誰に何をどう伝えるものなのかを熟考したからこそ生み出されたもの。その姿勢をもっと磨いて、都民の皆さまに『都民で良かった』と思ってもらえるよう、これからも頑張りましょう」(小池知事)。
「伝わる広報大賞」第1回の大賞に選出されたのは、総務局・政策企画局の「人権週間 2023」。人権を考えるきっかけづくりとして、複数のイラストレーターや声優を起用したショート動画を6種類展開した。
同局では、毎年、人権週間のタイミングで広報活動を行ってきたが、施策前後の調査で「人権に対する考えや行動」に変化が見られない、という課題があった。そこで「人権週間を知ってもらう」のではなく「人権を考えるきっかけづくり」に焦点を当てる広報活動にシフト。人権問題に関するファクトを整理したうえで、メッセージを推敲し、視聴者の態度変容を促した。2週間で約2億回の広告表示を行い、SNSでも反響を呼んでいる。
大賞を受賞した総務局人権部 主事渡部かや氏は「関係各局と何度も議論を重ねて丁寧に制作を進めました。各局がそれぞれの視点から知恵を出し合い、チームとして力を発揮できたからだと思います」と振り返った。
2023年度「伝わる広報大賞」受賞作
大賞「人権週間2023」総務局・政策企画局
人権問題を「自分や自分の身近な人にも関係ある問題」と捉えられるよう、6つの具体的事例を想起させるショート動画を制作。6人のイラストレーターを起用し、若年層を中心に目を引くクリエイティブに仕上げた。オンラインに加え、テレビ、サイネージなどで展開し、SNSでの話題拡散や視聴者の態度変容を促した。
PR戦略賞「TOKYO強靭化プロジェクト」政策企画局
普段目にすることができない地下トンネル(調節池)などの防災施設を紹介するメディア向けツアーを実施。大型のメディア掲載を実現した。また防災意識が低い層を含むターゲットごとに防災対策を伝えるコンテンツを制作。プロジェクトの認知度向上に貢献した。
PR戦略賞「デフリンピック 大会エンブレム制作プロジェクト!」生活文化スポーツ局
2025年東京で初開催のデフ(耳のきこえない)アスリートの国際スポーツ大会のエンブレムを、デフの学生や都内中高生が協働して制作・決定。制作過程をメディアに公開するなどし、大会の気運醸成や認知度向上を図った。
オール都庁で広報マインド醸成
部門賞では、訪日観光客向けの動画施策や、夜間の動物園来園を促すグラフィックなども受賞しており、多岐にわたる広報活動が評価されている。少ない予算でありながら職員のアイデアによる斬新な発想で活動を行い、成果を上げた取り組みを表彰する「インハウス制作・企画賞」も設け、それぞれのチャレンジを称えた。
都では「伝わる広報大賞」を、オール都庁で広報マインドを高める機会と位置付けている。先進的な取り組みに挑みながら「伝わる広報」を活性化させていきたい考えだ。
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東京都 政策企画局 戦略広報部 企画調整課
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