「stera terminal(ステラターミナル)」は、三井住友カードが開発・提供する決済端末機で、「1台ですべての決済手段に対応したオールインワン決済端末機」をうたう。この「stera terminal」に、再来店(リピート)を促す機能を追加できるのが「stera ads(ステラアドズ)」だ。「stera terminal」のディスプレイで会員アプリやカードの登録促進、次回来店のきっかけとなるセールやイベント告知ができるほか、レシートの券面にクーポンや、ポイント付与へつなげる二次元コードなどを印刷して手渡すことができる。
支払い・決済のタイミングでの来店者とのコミュニケーションが、ファンの定着、再来店にどんな好影響をもたらすか。「自ブランドが提供する価値の見極めと、デジタルを活用したCRM」の2つの方針を掲げ、着任後1年経たずして、プレミアムキャンディブランド「PAPABUBBLE」をV字回復に導いた、PAPABUBBLE JAPANの越智大志CEOが、「stera ads」を提供する三井住友カード 前田将宏氏と共に語りあった。
PAPABUBBLEを復調させた店頭体験
前田 将宏氏 2023年4月にPAPABUBBLEのCEOに着任後、1年を待たずして、23年7〜11月の売上が前年同期比で136%となったとのこと。回復を導いたポイントについて教えていただけますか。
越智 大志氏 ひとつは、「PAPABUBBLE」が提供する価値、強みは何であるかを見直し、それを前面に押し出すこと。もうひとつは、デジタルを活用したCRMです。
前田 PAPABUBBLEで印象に残るのは、やはりキャンディをつくる際のパフォーマンスですよね。どんな改善をされたのですか。
越智 私たちが提供するのはキャンディだけではない、体験を提供しているんだ、というふうに意識を変えるということですね。
店舗や制服、ショッパー、店員の振る舞い……一つひとつの体験が、ちゃんと楽しいもの、ワクワクするものであるべき。そこで改めて「ワクワクしなくちゃお菓子じゃない」というタグラインを掲げました。
特に店頭に立つスタッフは「パフォーマー」と呼ぶことにしました。私たちは毎日、街なかでテーマパークのパレードをしている、そんな気持ちでお客さまに接してほしい、という話もしました。
もともとキッチン設備のないお店には大型のデジタルサイネージを導入して、キャンディをつくるようすを流したり。「PAPABUBBLE」は、TikTokの公式アカウントのフォロワーが20万3000人近くになっていて、コンテンツとしてもかなり目を引くもの、楽しさを提供するものだと自負しています。
楽しい経験を得ると、もう一度訪れたくなるものだと思います。さらに言えば売上だけではありません。店舗を改修する、制服を刷新する、店頭で楽しさを提供する、そうすると、そこで働きたい、という方が増えてきます。優秀な人材の獲得につながって、それがまた、店頭体験をより良いものにしてくれます。接客が良くなり、居心地が良くなって、ファンが増えて、また店が活気づいて……というサイクルが理想的だと考えています。
「やらないこと」はテクノロジーで処理する
前田 もうひとつが、デジタルを活用したCRMであると。
越智 はい。それはすぐに着手しました。私が入社した時点では、お客さまが、何を買っているのかがデータとして残っていない状態でした。会員プログラムも用意したり、オンラインサイトを整備したり。お店やECで購入してくださったお客さまのデータをしっかりと把握し、CRM(顧客関係マネジメント)施策で長くお客さまとつながれるように環境整備を続けています。
前田 店頭、店頭外の顧客体験を重視されているのですね。パフォーマンスは、ある意味では情緒的な価値、対照的にCRMは合理性、数値的な側面も強いものですが、絶妙なバランスを取られているように感じます。それをCRMで可視化、マネジメントしていくということですね。
越智 店頭体験が重要だ、ということに振り切ってだんだん手応えが出てくると、ではどれくらいがファンとして定着してくださっているのか、ということが知りたくなってくるものです。このお客さまは前回のご来店時に何をお買い上げになって、累計でどれくらい手に取っていただいてきたのか。そういった情報をもって、どのように接客すれば、喜んでいただけるか。
CRMにおいて、関係構築の元となるのが店頭体験とすれば、お客さまとつながるための事務作業、たとえば会員登録の作業や、そのお勧めですけれども、そうしたことはできるかぎり省力化したいものです。
やらないことを決め、その「やらないこと」はテクノロジーで処理する。それは、効率化を図るためというよりも、最大限お客さまの接客に集中するための投資でもありますね。PAPABUBBLEのパフォーマーを、店頭体験や接客にフォーカスさせてくれる効果もあると思います。
ワンツールでレジのストレスを減らす
前田 特に「やらないこと」としてテクノロジーで処理したいことはなんですか。
越智 たとえばお支払いの際に、「ポイントカードはお持ちですか」「スマホアプリはダウンロードされていますか」「いまSNSでフォローしていただけると特典が――」といったコミュニケーションは、できるだけやりたくないですね。
店舗経営上も問題で、お支払いが1分伸びるだけで、全体の所要時間は100分増、200分増、ということになってきます。大きな機会損失です。
前田 我々が提供している決済端末「stera terminal」の追加機能のひとつ、「stera ads」ですと2つの方策が考えられます。
ひとつは、「stera terminal」に搭載したディスプレイのうち、お客さまに面したほうに、会員アプリやカードの登録を促す画面を出すというものです。クレジットカードやスマートフォンでのキャッシュレス決済のタイミングに同期して画面を出せるので、目にふれる可能性が極めて高いのが特徴です。
たとえば、期間限定のキャンペーンの告知はもちろん、会員になることでどんなメリットがあるのか、などの告知に活用することができます。画面は、待機中に表示するスタンバイ画像、決済処理前に表示する画像、処理後に表示する画像の3種類の出し分けが可能です。
各店舗でのオペレーションは基本的に不要で、配信する画像や期間の設定は、本部などが遠隔で設定する仕組みになっています。
スタッフの方が、支払い処理をしながらご説明する必要のあることを、画面で補足、補完、代弁するというイメージです。狭い意味での“広告”ではなく、コミュニケーションを補完する存在として利用いただければと考えています。
もうひとつは、レシートを用いる方法です。券面にアプリをインストールしたり、LINE公式アカウントの友だち登録をしたりする二次元コードを印刷できます。このレシートは出力時にちょっとした工夫がありまして。
越智 というと。
前田 お客さまに渡す部分と、店舗控えの部分の間に出てくるようになっています。店舗控え部分だけを切り離して、お客さま控えとプロモーション部分の2枚を渡せばいいので、渡し忘れをなくすことができますし、スタッフトレーニングもかなり軽減できると思います。
レシートでは、クーポンはもちろん、くじであったり、入会キャンペーンであったり、レコメンド商品やプレゼントの応募券であったり。店舗施策に合わせて自由にデザインすることができます。
ディスプレイでもレシートでも同様ですが、告知物の制作や配送、張り変えというのは、一つひとつは小さいようであっても、費用、時間の面で見逃せないコストです。
ディスプレイに表示する画像とレシートは、どのようなデザインにするかのテンプレートも豊富に用意しているので、作成にかかる時間も抑えることが可能です。
越智 「LINE」で登録、などのレジ周りのPOPスタンドなど、際限なく増えていってしまいますよね。ワンツールで、レジの負担、ストレスを減らせる、というのが大きいと思いますね。あまり面積のない店舗でレジが1台しか置けない、という場合や、イベント時などにも良さそうです。
また、レジでお並びいただいて、お待ちいただく時間がもったいないと感じることが少なくありません。そうした時間でのアプローチは可能ですか。
前田 「stera terminal」は、Bluetoothによる近距離無線通信が可能ですので、列にお並びのお客さまのスマートフォンに通知を出すことができるんです。すでにアプリをお持ちの方は、そのアプリを探していただかなくても通知から直接開けるようにする、といった活用ができます。
越智 それはとても興味深いですね。スマホ開いて、LINE開いてとお客さまにお願いするのが本当に申し訳ない。スマホを開いて…といった手順のご説明も、スタッフの業務から外したいんです。 「PAPABUBBLE」ではPOSレジアプリを導入しているのですが、すでにあるPOSレジアプリとの連携はできるのでしょうか。
前田 はい、連携できます。外部レジとの接続で気を配ったのが、金額の二重入力を防ぐ、ということです。レジで打ち込んだ後に、さらに決済端末でもう一度入力して、というオペレーションを敷いているケースがあるかと思いますが、本来お待たせせずに済む時間ですし、誤入力などのリスクを最小限にできると思います。
越智 単体でもレジとして機能するんですか?
前田 「stera terminal」用の、いわばアプリストアと言えるプラットフォームを構築していて、そこから欲しい機能を追加できるようにしています。「stera ads」もそのうちのひとつです。業態向けに特化したレジアプリのほか、ポイントサービスの接続認証や、勤怠管理などがあります。
越智さまのお話からは、店頭でのコミュニケーション、体験価値を、とても重視していることがわかりました。決済タイミングにおける体験についてはどのようにお考えですか。
越智 実際に計測したわけではありませんが、仮に買い物中に“ドーパミンが出る”瞬間があるとすると、まずは商品を選ぶとき。そしてお金を払うときです。
前田 「お金を払うとき」というのが、まさに決済のタイミングですよね。
越智 はい。同時に、決済時は、とてもストレスがかかる時間帯でもあるのが現実です。しかし、本来は、幸福感や充実感がもたらされる時間であってほしいわけです。本当にファンになるかどうかの最後の勝負といって過言ではないと思います。
PAPABUBBLEが提供するワクワク感、エンターテインメントとしての体験価値を気に入っていただき、また来たいと思ってくださったお客さまと可能なかぎりストレスなくつながりたいと考えています。それが、店頭の「パフォーマー」が、接客に集中するための投資にもなります。
支払い・決済まわりは、大きな行動変様のあった分野でもあります。手をこまねいているうちに、世の中、お客さまのほうが変わっていってしまうので、そうした動きをすばやくキャッチアップしつつ、体験の質を高め続けていきたいですね。