DearOne 執行役員
グロースマーケティング部
ゼネラルマネージャー
石黒智基氏
広告代理店、衛星放送会社を経て、2004年にヤフー株式会社にてプロダクトマネージャーを務めた後、サブスク系の会員サービスを統括。2014年からは海外Martech企業の日本事業立ち上げを複数社行い、2020年よりDearOne。
グロースマーケティングとは一言で言うと、顧客を知り、強固な関係性を構築することによって、商品・サービスの持続的な成長を実現するための手法です。要は新規獲得に重きを置くのではなく、すでに獲得している既存顧客を活性化させ、ロイヤル顧客を増やすことが目的。サービスから離反する顧客を減らしていくことで、一過性にならない成長を図る戦略です。
言うなれば、価格主導型プロモーションのような「買わせる」ことを目的とした“攻めの販促”ではなく、「顧客の離脱を防ぎ、ブランドへ使う生涯的な金額を増やす」ことを目的とした“守りの販促”です。
すでに獲得している既存顧客をどう定着させるかを重視
「顧客を活性化し、離反を防ぐ」ことがグロースマーケティングの肝です。しかし、ここで重要なのは、グロースマーケティングの実行には、顧客データが取得できる環境が整っていて、そのデータを分析できることが大前提だということ。
なぜなら、「どこで離脱をして、どんな人がリピートしていて、どんな人が休眠顧客となり得るのか」はデータを見て初めてわかることだからです。このことは、グロースマーケティングを説明する際によく用いられるバケツの図からも読み取ることができます。
図1はグロースマーケティングの実行プロセスの説明に使われる「AARRRアーモデル」です。グロースマーケティングは、この図内のバケツの中にある「Activation(ユーザー活性化)」と「Retention(継続)」を重点的に行うことで、施策全体の循環を活性化させていきます。
他のマーケティングモデルと異なるのは、「Acquisition(新規獲得)」が開始点ではないことです。グロースマーケティングは、既存顧客(=バケツの中に溜まっている水)を増やすことで、自ずと商品が紹介され、結果的に新規顧客が積み重なることを見込む作戦。なので、起点となるのも、施策として重視するのも、「Activation(ユーザー活性化)」「Retention(継続)」の2つになるのです。
「バケツの穴」はデータで知る 塞ぐことが離反防止に
では、この「Activation(ユーザー活性化)」「Retention(継続)」を促すために必要なのは何でしょうか。そもそも「Activation(ユーザー活性化)」とは、顧客との関係性創出を指しています。例えばアプリをインストールしてもらったり、会員登録してもらったり、といったことです。
その次に重要なのが「Retention(継続)」。ここを促せるかどうかでバケツに水が貯まり続けるかが左右されます。例えば、前のステップである「Activation(ユーザー活性化)」で会員登録してもらった後には利用を継続してもらう必要がありますよね。これらを促すために行うのが、顧客がサービスを利用する際の心地良さや、使い勝手の良さを感じてもらえる顧客体験の提供です。
メルマガの配信やクーポンをはじめとしたお得情報のプッシュ通知も販売促進では大切ですが、そもそも「そのアプリが使いやすいかどうか」がバケツの穴を塞ぎ、継続率を上げるためには重要です。
とはいえ、プッシュ通知を送るタイミングや配信対象の最適化も常に求められます。そのためにはデータを見て、「顧客と繋がり続けるための最適解」を見つけ続けなければなりません。つまり、この「Retention(継続)」を促進するときこそ、データが必要になるのです。もう一度、図1に戻って説明します。
例えばこのバケツに穴が開いていたら、水が漏れ出てしまいますよね。これがいわゆる「顧客が離反」している状態。こうなれば、継続を促すために穴を塞ぐための施策が必要になることは想像がつくはずです。そこで、重要なのがデータ。すなわち、穴の場所や、穴から出た水の正体を解明するための証拠です。
先述のアプリの例で言うと、「アプリの利用方法がわかりづらい画面のデザインになっていて、特定の画面で離脱している=バケツの穴」となります。施策実施の大前提として、データが必要になるのはこの穴を見つけて改善するためです。
LTVが高い顧客の行動パターンの可視化に繋がる
実際にデータを取り続けていくと、バケツの穴(=課題)が明確化するわけですが、同時に顧客の行動パターンや大まかな数値も見えてくるようになります。
図2はそれを表した例です。アプリをダウンロードした人が、その後会員登録してくれる確率は60%、残りの40%は離脱。そして会員登録した60%のうち、1度でもアプリを訪れてくれる顧客は〇割、そしてその後も継続的に利用してくれる人は〇%……、という具合にデータを取得・分析することで行動パターンが見えてきます。この図におけるバケツの穴は、離脱と休眠。そして、これらの割合を低減していくことが、穴を塞ぐ施策です。
同時に、離脱しないLTVの高い顧客のパターンもわかるはずです。要は、離脱の穴を塞ぐための施策を実行するだけではなく、LTVの高い顧客を再現性高く育成するための施策立案にも繋がります。
これがわかってくると、「Retention(継続)」をあと数%上げれば成長する。そのためには購買頻度を〇%高めて、併売は〇%上昇させれば達成」というように、今何をすべきかが見えるようになるはずです。
これがグロースマーケティングの実践例ですが、ここまでの話を振り返ってみると、新規獲得を重視した“攻めの販促”ではなく、長い目で見て販売促進を実現する“守りの販促”として使えると捉えられるのではないでしょうか。
「いま、LTVに向き合う理由」をテーマにした記事は、月刊『販促会議』6月号にてお読みいただけます。
月刊『販促会議』2024年5月号
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