飛び出す3D広告は宣伝というより「会えた」という体験
近年、ダイナミックな視覚効果によって注目を集めているOOHがある。それが大型ビジョンによる「飛び出す動画広告」だ。クロス新宿ビジョンの「猫」を筆頭に、錯視によって見る者の足を止め、思わずスマホで撮影したくなる、魅力溢れる3D動画広告が少しずつ増えている。そんなブームの中でも、パス・コミュニケーションズは、アニメやコミックといった「平面データを使った錯覚3D表現」を得意としている。
同社 営業本部 第二営業部 マネージャーの五十嵐博子氏は、「人流が戻ったことで、感動体験スポットとしての飛び出す動画広告が活気を帯びている」と話す。
「現在の人気は、生活者の期待に応えて、どんどん面白いものをつくりたいというクライアント側の行動と、人々の『やっと実際に見ることができた』という気持ちとが合わさった結果だと考えています。飛び出す動画広告は、その場で見て楽しむことはもちろん、それを撮影・発信して体験を共有することで、さらに強い感動を味わえる仕組みがあるようです」(五十嵐氏)。
パス・コミュニケーションズが手がけた3D動画広告は数多い。『名探偵コナン』、『めざましテレビ』、『SPY×FAMILY』など、同社が関わった動画広告は常に話題の中心にあり、SNSでも広く人々の話題にのぼった。3D動画広告が人気を博する理由として、同社 メディア・制作部 制作管理の成川由希氏は、「2Dと違い、3Dの場合はキャラクターに出会う体験を提供できるから」と述べる。
「テレビCMやインターネット広告だと、接触回数が増えるに従って『しつこい』『イヤだ』といったマイナスイメージがつくことも多いと思います。しかし、大型ビジョンで3Dにした場合、『この場所で好きなキャラクターに出会えた』という体験に変わるんです。観る人に感動体験を受け取ってもらえるよう、制作に取り組んでいます」(成川氏)。
体験価値を高めるために媒体やロケーションの特性を活用
映像メディアを中心に、デジタルサイネージの総合企業として知られるパス・コミュニケーションズの強みは、各ビジョンが設置されている場所のロケーションを生かした演出を加えることで、体験価値を高める工夫をしているところにある。「時間と費用をかければいくらでもリアルな3D表現はできますが、ひとつのプロモーションにかける準備期間も予算も限られている中で、どのようにして『愛される広告』をつくるか模索しています」(五十嵐氏)。
他にも、アニメやコミックの案件に多く携わってきたからこそ、「平面のキャラクターの魅力を損ねることなく、3D映像として成立させる」ノウハウには自信があるという。
「当社はもともと、撮影から編集作業まで一気通貫して、自社だけで完結することができていました。それに加えて、梅田のdipビジョンのようなカーブ型の大型ビジョンを有することで、通常の制作会社では持ち得ない、3D映像制作の細かな知見も手にしました。今後、3Dビジョン用コンテンツを制作できる会社は増えていくと思いますが、『大型ビジョンの特性を知った上で見せ方を提案できる』という強みは、当社ならではのものだと考えています」(成川氏)。
大型3Dビジョンは臨場感ある映像配信が可能であるとともに、音響効果も発揮できるので、体験としての強度が非常に高い。しかし一方で、「無音の時間帯も必要」「広告掲出の事前告知ができない」などの細かい制限もある。映像の見え方についても、錯視を利用する関係上、放映するビジョンの特性を知り尽くしていないと想定通りの効果が出ないこともあり得る。そこで、媒体開発、広告営業、映像制作、編成作業、計測までワンストップでできるパス・コミュニケーションズの持つ安定感が生きるのだという。
注目度を高めることが媒体社としての使命
これまではアニメやコミックを始め、国内のエンタメ系分野を中心に3D動画の制作を続けてきたパス・コミュニケーションズ。「一方で、リアリティを追求する海外の3D映像を横目に、当社は『リアリティを高める以外にも、こんな感動のさせ方があるよ』という形で2Dを生かした錯視3Dを世界に広げていきたいです。例えば、浮世絵を立体的に飛び出させるようなことも面白いかも、とアイデアが膨らみます」(五十嵐氏)。
同社は、2024年4月以降にも2023年に好評だった『名探偵コナン』の3D動画広告の放映を予定しているほか、これまでの枠に囚われない映像表現による化学反応も期待しているという。
「3D映像」によってさらに媒体として注目されるようになった大型ビジョン。同社は自社の媒体を「公共の場所での情報端末」と表現しており、日々防災情報やコミュニティ情報を発信している。その役割を果たすためにも、注目度を高める努力をしているという。「それが、スポンサーや見る人にも評価していただければ嬉しいです」(五十嵐氏)。
3D動画広告が増え、リアリティを求める流れが加速している中で、パス・コミュニケーションズは企画段階からこだわって、より広告効果の高い表現を追求し続けていく。
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