天使のはね×どん兵衛 チャレンジを続けるロングセラーブランドのコミュニケーション戦略とは?

宣伝会議では、2024年3月1日(金)に浜松町コンベンションホールにて「アドタイ・デイズ2024(春)東京」を開催しました。当日合計23セッションの講演、展示ブースでのプレゼンテーションなどを実施しました。
本レポートでは当日、行われたセッションの中でも、注目度の高かった企画を選んでディスカッション内容を紹介。ここでは、「天使のはね」と「どん兵衛」という異種のロングセラーブランドが、どういった挑戦をしているのか対談し、共通項を探りました。本稿ではその対談セッションをレポートします。

セイバン 代表取締役社長 泉貴章氏(写真中央)、日清食品 食どん兵衛ブランド統括責任者 中村洋一氏(写真右)。

――自己紹介と、自社ブランドの最近のコミュニケーション事例の紹介をお願いします。

中村:中埜酢店(現 mizkan)、日本コカ・コーラで営業、ブランドマーケティング・ショッパーマーケティングを務めた後、2018年に日清食品ホールディングス入社し、事業会社明星食品にマーケティング役員として出向していました。2023年度からどん兵衛のブランドの統括責任者を担当しています。

どん兵衛は、いろいろとコミュニケーションでチャレンジしていますが、最近で最もバズったのが、ファイナルファンタジーとのコラボです。SQUARE ENIXのクリエイターと当社の宣伝部が協力し、ディテールに非常にこだわりました。例えば、セリフが少し変わったらキャラクターの口の動きを全て作り直すとか。その結果、ゲームファンに刺さり喜んでいただけているのだと思います。このようにデジタルコンテンツ系コラボでは、絵面や音楽を真似るだけの表面的なコラボにならないよう、そのコンテンツ自体のストーリーやファンが好きなポイントを必ず捉まえるよう意識しています。

どん兵衛×FINAL FANTASY VII REBIRTH 「片翼のどん兵衛篇」。

:2000年にサントリーに入社し、ビールの商品開発や製造に携わっていましたが、セイバン前社長である父の持病から2010年にセイバンに入社、2011年から代表取締役社長を務めています。

社長就任時、2003年誕生の「天使のはね」は売れ行きが良かったのですが、販売数以上に大量生産されて余った流通在庫が、インターネットで安く叩き売られる状況にありました。このままではブランド価値が下がると判断し、生産を大胆に絞って綿密な在庫管理を開始。前職のサントリーでも、ビールブランドのプレミアムモルツが3年連続モンドセレクション受賞したことからブランド価値の重要さを学んだので、セイバンでも天使のはねブランドを大切に扱っています。

天使のはねのコミュニケーションは、テレビCMに精力的に取り組んでいます。キャストは体操のお兄さんこと佐藤弘道さんから始まり、最新はイモトアヤコさんを起用。基本的な音楽や、元気で活発なテイストは一貫して変えていません。

ブランド鮮度を保つための、「伝統」と「革新」のバランス

――ブランドの鮮度を維持するために、コミュニケーション方法を変えた事例はありますか。

中村:どん兵衛は若年層を取り込むために、星野源さんと吉岡里帆さんを起用したCMで「ムズキュン」の世界観を作り上げていました。しかし、2022年からアニメーションCMに変更。なぜなら、まだまだ続けられるコミュニケーションでしたが、ある程度成功が続くと、あえて辞めて新しい刺激を生むべきタイミングが来ると考えたからです。

ロングセラーブランドは「変わらず続ける」ことと「変化し刺激を与える」ことのバランスが重要です。具体的に前者は「味」のことで、1976年から愛されているどん兵衛はもはや日清だけではなくお客様のものでもあるため、ひとりよがりなリニューアルはしないように心掛けています。もちろん、出汁の深みを増させたり、麺がモチモチにしたりと変革は続けていますが、大きくは変えていません。一方、コミュニケーションは時代・世代ごとに感じ方が異なるため、積極的にチャレンジして良い点と考えます。

:『天使のはね』という名前は、ランドセルを背中にフィットさせるために、肩ベルトの付け根に羽の形の樹脂パーツを入れたことに由来します。このブランド成立ストーリーを重視したコミュニケーションは一貫して続けています。加えて、一生に一度、お子様が小学校入学のタイミングで購入されるランドセルを、家族の愛情が表現された象徴的な商品と捉え、そのことを強調したコミュニケーションも並行して行なっています。

なお、過去にお母様目線を強調したコミュニケーションを試しましたが、やはり従来の音楽とダンスを用いたコミュニケーションの方が良いと判断し、元に戻したことがあります。ただし中村さん同様、時代によってお客さまに何が響くかは変わるので、コミュニケーション方法も適宜変えつつ対応すべきだと考えます。

ロングセラーゆえに直面する商戦期の変化

――ブランドの商戦期を増やすためにコミュニケーション方法を工夫した事例などはありますか。

中村:どん兵衛をはじめとする「和風どんぶり」が売れるタイミングは大きく変化せず、冬場が年間売り上げの多くを占めています。ただ、近年SNS普及に伴い、お客さま自らが発信したどん兵衛アレンジ法が話題になり、販売数も伸びる事例が登場しています。例えば2024年1月には、どん兵衛を耐熱容器に移してお湯を注ぎ、電子レンジで温めると麺がもちもちになるという「レンチンどん兵衛」がXで話題になりました。

そして、こうした盛り上がりを企業発のコミュニケーションに活用した事例もあります。過去には「お湯を入れて10分待ったどん兵衛が美味しい」とネット上で話題になったことを受け、日清が「10分どん兵衛のことを知りませんでした」と謝罪形式の広告を出して反響を呼びました。このように、メーカーの思惑を超えた、お客さまの反応に応えながら共にブランドを創るのも一つのやり方です。

――ランドセルの商戦期や売り方に変化はありますか。

:従来扱っていたランドセルのカラーは黒と赤のみで、小学校入学前の年末が商戦期でした。しかし2000年以降、その他カラーが展開されるようになると、人気カラーは手に入れづらくなり、希望カラーを確実に手に入れたいお客さまの購入時期がどんどん前倒しになっています。現在は、入学1年以上前の年中さんが2・3月からランドセル選び(いわゆる「ラン活」)を始める人も増えています。コミュニケーションのピークも以前は年末でしたが、今はゴールデンウィークに変わりました。

時期によってお客さまのニーズも異なっています。早く購入する方は、お子さまの祖父母が高品質なものを求めることが多く、実家に帰省するお盆休みが商戦のピークです。一方、入学前の年末に買うお客様は比較的、ブランドや品質よりも価格を重視される方が多いです。

ロングセラーブランドの挑戦に共通すること

――ブランドの変えてよい点、いけない点は何でしょうか。

中村:「変えていけない点」を極力つくらない一方、ブランド毎にどこまでの変化ならお客様に受け入れられるかの見極めは必要です。例えば、当社のカップ焼きそば「UFO」は、どん兵衛と真逆のエクストリームな世界観が特徴です。しかし、もしどん兵衛も同様の世界観にまで変化したら、「私のどん兵衛がどこかに行ってしまった」とお客様に失望されるでしょう。

とはいえやはり、受容される変化のラインの見極めは簡単ではないため、致命傷にならない限りはトライアンドエラーして良いと思います。1日に接触する情報量が激増している今日のメディア環境では、細かく新たな刺激を重ね続けるコミュニケーションでブランドを創ります。

:中村さん同様、最重視している天使のはねブランドストーリー以外は積極的に変えていいと考えます。実際にセイバンでもデザイン重視、軽さや容量などの機能重視など、ニーズに合わせた多様なサブブランドランドセルを展開しています。

くわえて国内の少子化を受け、2020年に大人向けバッグブランド「MONOLITH」、2023年に中国向けの通学バッグブランド「SPRINGLOBE」の立ち上げなど、国内ランドセル以外の市場拡大も行っています。特に後者は、中国の小学校に視察したところ、教室にロッカーがないためバッグを机の中に入れたり椅子の後ろにかけたりしており、日本のランドセルでは嵩張って不便だと気づきました。そこで、薄く折りたためるようにしたバッグがSPRIGLOBEになります。

「マスorデジタル」ではなく「マスandデジタル」へ

――ビックブランドは現在のメディア環境でもつくれると思いますか。

中村:つくれるし、つくらないといけないと思う一方で、難易度も高いと考えます。どん兵衛が生まれた1976年は目に見えて充足されていないニーズが非常に多く、広告もテレビか新聞で流せば良いシンプルなスタイルでした。一方メディア環境が多様化している現在は、どこでどういった広告をどれだけ流すのか、やり方が多様だからです。

ただし、「テレビの時代は終わった」や「これからはデジタルが全て」といった意見には疑問を覚えます。私は、今日の広告は「マスorデジタル」ではなく「マスandデジタル」であり、そのどちらを重視するかの不等号が商品カテゴリ―やターゲットによって変わると捉えており、マスが終わったとは思いません。例えば、スマホゲームがデジタルだけでなくテレビCMも打っているのはなぜか?それは、テレビのようなマスだからできることがまだあるからですよね。

:多様なメディアを通してお客さまと接触しやすくなった現在の状況をチャンスと捉えています。ただし、闇雲に広告を打つのではなく、お客様が何を求めているのかを考えてコンテンツをつくり、適切な発信が重要です。

例えば、昨年天使のはねのコミュニケーションとして「キミが好きなの、キミが選ぼう。」という、ランドセルを買う保護者とお子さんのコミュニケーションにフォーカスしたドキュメンタリー動画が話題になりました。

お子さんが自主的に選んだランドセルは実は保護者の意向を汲み取って選んだもので、お子さんが本心で欲しいのは別のランドセルだったという内容です。このようなコミュニケーションを続ければ、ロングセラーブランド・新ブランドのいずれも今後も成長が可能と考えます。

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