地域貢献で新たな可能性を模索する、テレビ局の挑戦
昨今のテレビ離れとコロナ禍による広告収入の減少という逆風の中で、新事業への挑戦を求められていた日本海テレビは、地域連携室を設立したものの、地域貢献につながる新事業の立ち上げに苦慮していた。そのような時に、仲子氏は灯台の利活用を促す、日本財団の「海と灯台プロジェクト」を見つけ、新事業の一環として挑戦した。
「海洋文化を伝承する役割を担う灯台を地域の人々に根付かせるには小中学校への展開が必要になる」と考えた仲子氏。
しかし、学習事業となると専門外でどこから手をつければよいか分からずにいたという。そのような状況下で、マーケティング戦略の立案やコンテンツ制作を担うケント・チャップマンの大久保氏と出会い、タッグを組んでプロジェクトに取り組むことになった。
学習のアウトプットを活用した観光誘致
大久保氏は、「地域住民を対象とした地域ブランディング」という方針を打ち立て、教育と観光を結び付けることで子供たち自ら地域のブランディングに関わっていくという設計でプロジェクトを企画したという。
プロジェクト内容は、灯台を起点とする海洋文化を次世代へと継承するため、「青谷の誇り。未来への灯り。」をコンセプトに小学生・中学生・高校生・一般人のそれぞれを対象とした教育プログラムや観光コンテンツを制作。
小学生や中学生には、灯台訪問をはじめとした体験プログラムや地域の伝統産業を支える人たちへのインタビューを通じて灯台への興味を喚起。体験を通じて地域の魅力に気付けるようなワークシートを構成し、地域の魅力を表現するレポートになるよう工夫されている。
高校生向けのプログラムでは、生徒が全国や鳥取県内の灯台について体系的に学んだあと、青谷町の地域活性化に取り組む実行委員会に参画してもらい、青谷町の灯台の利活用に関する企画づくりに取り組み、それを地域の小中学生にプレゼンしてもらう。「若い人からさらに若い人へ、未来を語り継ぐことも本施策のポイントになっている」と大久保氏は話す。それを起点に子どもたちに地元の未来への期待感が醸成されること狙う。さらに「せっかく地域のことを学んだ小中学生にレポートを書いてもらうのであれば、それを観光コンテンツに落とし込めるのではないか」と考え、学習のアウトプットをウェブサイトにアップ。小中学生のリアルな声を公開し、観光誘客や地域振興も図る設計だ。
一般人向けには、まちの魅力を感じられる観光マップの制作やレンタサイクル事業を実施。レンタサイクルについては莫大な収益が出るとは考えていないが、プロジェクトの運営費にあて、持続可能なモデルとなることを期待すると語る。
今回のプロジェクトを振り返った仲子氏は「地元を好きになってもらうことが大切。地方から都市部に若い人材が流れてしまうのはある程度は仕方がないとも思うが、生活圏が変わっても自分の地元を自慢できる人を増やすことで、地域活性につながるのではないか。また、地元に誇りを持つ若い人たちが都市部から戻って、地元の未来を担ってもらえれば」と考える。大久保氏は、「青谷町の灯台のように、地域の人が当たり前だと思っているモノのなかにも面白い観光資源はたくさんある。地域住民が今まで気づかなかった地元の良いところを見つけられる点も外部パートナーが地域貢献施策に参画する意義だ」と話す。
地域との信頼性が企画進行をスムーズに
地域活性化において、テレビ局が果たす役割とは何なのだろうか。仲子氏は取材などのアポイントを取る際に、地元の人から「日本海テレビの人」という認識で接してもらえるため、スムーズに話が進みやすいのだと話す。大久保氏は「今回のプロジェクトについても、地方テレビ局という信頼性の土台があったからこそ、教育というセンシティブな課題に深くスムーズに取り組めた。地方テレビ局の情報の信頼性や企業としての信頼性だけでなく、個々の“人”に信頼性が蓄積されているからだ」と、地方局ならではの地域におけるテレビ局の価値を肯定している。
加えて「営業ではなく地域連携室という立場も信頼性の構築に貢献している」と仲子氏は話す。営業という立場だと、どうしても広告枠の金銭が発生するか否かを重視しなければならないが、「地域連携室の場合は、広告枠が絡まなくともネタとして持ち帰り、関係部署につなぐことで仕事として成立するし、地域活性化への貢献価値が結果的に利益につながる」と仲子氏。少なくとも地域とのつながりに寄与できることで会社としてはプラスになるのではないかと考察する。
プロデューサーとしての役割を担うローカルテレビ局
地域においてテレビ局の持つプロデュース機能は地方においてキーポイントになると大久保氏は語る。地方には総合広告代理店や総合商社やデベロッパーといったプレイヤーが少ない。そのため、情報収集や企画、発信や個々の人間性などを含めた総合力を持つテレビ局は、地域活性事業のプロデューサーという重要な役割を担うことが期待されるのではないかという。
これからの時代の地方テレビ局の可能性とは何か。小中高の子どもたちや、学校関係者、地域外の人々を今回のプロジェクトで巻き込みながら、青谷町の文化と歴史の継承に取り組んだことを踏まえ、仲子氏は「地域に入っていって、いろいろな人をつなぐ架け橋となること」だと回答。また「当社の系列局でも地域連携室のような部署が増えつつある。自治体間の広域連携が求められる中で系列のネットワークの活用や、地域の発展を主眼として系列にとらわれることなく地域課題の解決に向き合う姿勢が、これからのテレビ局に求められるのかもしれない」と語った。
最後に両氏は、本事業で得られたノウハウは他の地域でも活かせるはずで、企業や地域の中で閉ざさずに多くの方々に惜しみなく共有していきたい、と締め括った。