「メディアの要望には極力応える」ライオンズ広報の基本姿勢
前回のコラムでもお話しましたが、私はこれまで、ホテルや鉄道、不動産の広報を担当してきました。プレスリリースを書き、何十枚も印刷して、霞が関の国土交通省の記者クラブまで持って行き、各社ブースにいる記者さんに各事業のオーソドックスな企画でも事前にいくつも切り口を考え訴えかけてきました。それはなんとかして記事掲載につなげたいからです。
しかし現在の「球団広報」の場合、かなり乱暴な言い方をしてしまえば、その必要性を感じなくてもやっていける仕事です。
番記者さんは一言で表現すると「球団の応援隊」で、プロ野球が盛り上がるようにチームが勝っても負けても基本的には前向きな記事を書いてくれます。スポーツ新聞であれば、野球だけで二、三面はありますし、毎日必ず原稿を出していただける人たちと一緒に仕事ができているのです。そのぐらいプロ野球は強力なコンテンツだという裏返しではありますが。。。
取材依頼をかけるとき、「さすがにこれだと集まらないかな」と思うネタもあります。そんな時、企業広報は必死でアイデアを考えます。ですが、球団広報の場合「球場に居るので来てくれるでしょ」という感覚の人もいると思います。
メディア側も紙面には載せられないけど、取材しにくくなるから顔は出す。こうなると広報も「取材させている」と勘違いしてしまう可能性すらあると感じました。
ファンあってのプロ野球ですから、自分たちの情報を伝えるために「メディアの要望には極力応えていこう」というのがライオンズ広報のスタンスです。取材が自由にできたコロナ前の状態に12球団で最も早く戻し、選手のぶら下がり取材も復活させました。
これは前広報部長が社内のキーパーソンにマスコミ取材の必要性を説き、何年もかけて風土醸成してくれた賜物です。よって他球団よりは取材がしやすい環境でもあるため、マスコミ各社は経験を積ませたい若い記者をライオンズの番記者として送ります。
当然、経験が少ないので、ベテラン記者のように選手の話をうまく引き出せないことも間々あります。囲み取材の場合は、マスコミ各社が共通に聞きたい問いを代表質問として聞きますが、それが若い記者で上手くいかないと「彼、無理だから変えてよ」と言ってしまうことが起こってもおかしくない業界です。
ところが、もしもそれで担当を外されてしまったら、その記者は腹に一物抱えることとなり、無用な敵を作ることになります。インタビュアーに不安がある場合、私は選手に「まだ若くて話をうまく引き出せないから、質問に対してプラスアルファで回答してあげて」と事前に伝えるようにしています。
自分たちはメディアの人たちを介して、ファンに様々なことを伝えたいのです。それができないのであれば「自分たちから話していけばいいじゃないか」という発想です。
広報と記者は、双方の若手を鍛える社外の上司や先輩という間柄だとも思っています。自分もベテラン記者さんに指導いただき育てられましたし、今後も一緒に成長していきたい同志だと思っています。