人々の最大のジョブは「自分らしく幸せに生きること」
─インテグレートの事業と、ウェルビーイングに着眼した背景についてお聞かせください。
藤田:インテグレートは、経営戦略領域からプロモーションの実行領域までワンストップで、企業のマーケティングを支援する企業として2007年に設立しました。当初はPRやプロモーション戦略の策定が中心でしたが現在、事業の7割は事業戦略や新規事業立ち上げのサポート。事業の領域は変化していますがそれでも創業当時から、変わらず当社の事業の根幹にあるのは、生活者のインサイトを突き詰めるという姿勢です。特にコロナ禍を経て、人々は何に対してバリューを感じているのか。生活者がいま、実現したい最大の「ジョブ」とは何か…検討を続けていました。そこでたどり着いたひとつの結論が、ウェルビーイングです。
ウェルビーイングとは、「個人が肉体的、精神的、社会的に満たされた状態」を指す概念です。変化の激しい昨今、人々の最大のインサイトは、「自分らしくいきいきと生きること」。すべての事業やプロダクトは、機能・価格を超えた、一人ひとりのウェルビーイングに貢献できるかという視点でとらえなおすべきだと考えたのです。
いま必要なのは、「関係性のリデザイン」
─今回の協業について詳しくお聞かせください。
藤田:海外のユニコーン企業の約3割は、何らかのウェルビーイングを実現するためのテック企業だといわれていますが、残念ながら日本では、ウェルビーイング=スピリチュアルなものという感覚が残っています。そこで私たちは、おそらく日本で初めて、ウェルビーイングをビジネスに落とし込むフレームワークを開発しました。これをベースにすると、事業戦略やパーパスの策定、サービス・プロダクトの戦略もつくることができる。「ブランドの売上が減少したのは、つまりお客さまに対する幸せ貢献度が減ってきたから。時代や環境が変わるなかでどんな価値があり、どんな価値が失われたのか」…こうして新たな存在価値を再構築していくことを、私たちは「関係性のリザイン」と呼んでいます。
この時、TOPPANさんが持っている商品・パッケージ開発のノウハウや、あらゆるタッチポイントのデータが加わることで、戦略から実装まで、一気通貫で提供できるのではないかと思ったんです。
梅川:私たちTOPPANでは「データの価値化」をコアバリューに、購買体験設計からデジタルマーケティング、商品・パッケージの開発などをサポートしてきました。現在はそこから発展する形でBX支援事業として、事業グロースのお手伝いをしています。いま多くの企業から聞こえてくる課題とは、DXに着手したものの上手くいかなかったという声。せっかく顧客データが蓄積されるようになったのに、CX向上につながらないという課題がありました。データを使っても、顧客の求めることにたどり着けていないなら、改めて顧客が何を求めているかに向き合う必要がある。そんなことを考えているタイミングで、藤田さんからすべての事業・商品をウェルビーイング視点からとらえなおすという考え方をお聞きしました。
藤田:いま、“DX機能不全”とも言える状況に陥っている企業は増えていますよね。ここで大事なのは、データは過去の集積であるということ。例えば、ヘルスケアに関わる人のデータが収集・蓄積できるようになっていますが、データをもとにその個人がどんな行動をすべきかは導き出せても、ユーザーに習慣づけする働きかけまではできていない。離脱を防ぐためにプッシュ通知で情報を発信するのではなく、続けたくなるためにどんな工夫が必要なのか?を考えるためにデータを活用すべきだと思うのです。
梅川:本来は顧客満足を目指して動いていたはずが、企業本位の最適化になってしまっているんです。DXで企業が目指すべきは、コストダウンのための最適化ではなく市場の創造。例えば健康やダイエットに関連する既存の市場においても、「何をするべきかわかっているけど行動に移せない」といった人々がたくさんいる。そこに対してパーソナルなデータを活用した習慣化促進などのアプローチが必要なのではないでしょうか。
ウェルビーイングは個人で実現するものへ
─今後の展開をお聞かせください。
梅川:海外の場合は、ウェルビーイング市場の財源は個人の支出です。一方で日本は「ウェルビーイング経営」といった企業の取り組みか、スマートシティなどの行政の政策が中心ですよね。
藤田:そうなんです。“ウェルビーイング”とは企業や行政が守ってくれるもの、という発想を私たちは変えていきたい。個人が生活の中で幸せの実現に向けた行動をしたくなる、BtoCの市場をつくっていくのがミッションだと考えています。
人々のウェルビーイングは1社だけでは実現し得ないものです。複数の企業が参画するコンソーシアムを形成して、各社が持つデータを集約した共同プラットフォームを構築するのが理想の姿です。
さらに、スタートアップで新たな事業体をつくってみたいとも考えています。ここまでの話はどちらかというと大企業で力を発揮するものに見えるかと思いますが、TOPPANさんが持っている様々なタッチポイントやデータをつかって、ゼロイチで組み上げることも可能。これまでにない新しいビジネスモデルをつくり出せると思っています。
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