【JR東日本講演】社内データを活用した顧客体験の向上と人材育成
JR東日本は、従来の鉄道輸送事業に加え、エキナカ、駅ビル、ホテルなどの生活サービス事業にも注力している。そこには、データを使ったマーケティングが不可欠だ。現在は、SuicaやJRE POINT、えきねっとなどで得られた顧客データをデータ活用基盤CDPで管理し、「ヒト」起点のマーケティングを行っているという。
社内データマーケティング人材の育て方
人材を育てるためには、自社で必要としているデータ分析人材をしっかり定義することが重要だ。データサイエンティストには、開発を中心とする「技術系」とビジネスへの適用を考える「ビジネス系=シチズンデータサイエンティスト」の2種類があり、JR東日本ではマーケティングで活躍してもらう人材を後者として捉えている。さらに、社内マーケティング分析人材は自社で抜擢、養成していこうとしている。
人材が正しく育つために、分析レベルとスキルを段階に分け、シチズンデータサイエンティストとして目指すべきゴールを明示。渋谷氏によると、Excelを使える「普通のビジネスパーソン」をはじめ、TableauやGAなどで「BIツールを使ってデータを参照できる」、「必要なデータを入手し、読み解き・活用ができる」までをマーケティング分析ライトユーザー、「予測分析などを指示でき、施策を立案できる」、AutoMLツールなどを使って「自分で予測分析ができる」までを高度マーケティング分析人材と設定しているという。
JR東日本におけるデータの活用事例
具体的な業務として、ライトユーザーはSuicaデータを用いて定期券販売の混雑時期の把握や、利用属性のデータから駅ナカ店舗の決定を行っている。データを駅社員にも展開し、レポートを活用した取り組みなどを社内SNSで共有しているという。高度マーケティング分析人材は、Suicaデータを使って予測分析モデルの作成まで行い、キャンペーン作成にも取り組む。例えば、JREポイントを駅ビルで利用していただくためのターゲット設定や、買い回りキャンペーンに参加していただけそうなお客さまの選定など、予測モデルを活用した取り組みで成果が出てきている。こうした取り組みを通じて社内に「予測モデルって使える!」という意識が醸成されてきたことが一番の成果であるという。さらに、全社員向けデータマーケティング教育も実施し、渋谷氏自ら出前授業も開催。駅社員と交流し現場の声を拾うことで、データ分析の改善にもつなげている。
「データ分析はあくまでも手段で、マインドは常にビジネスパーソン。その心持ちで活躍できる人材を育てていきたいと思います」と渋谷氏はしめくくった。
【六甲バター講演】顧客に愛されるブランドづくりのヒント
神戸市に本社を構える六甲バターは、2022年にQ・B・Bベビーチーズの発売50周年を迎えた。ベビーチーズの売上規模は年間2億本以上でシェアナンバー1を占めるが、近年は購買層の高齢化や、純粋想起でのブランド認知率の低さ、プライベートブランドの台頭によるシェア率の低下が課題だった。そんな課題解決に向け、「次世代のファンを創る」ことを目標に50周年事業に挑戦した。
商品の特性を再認識し、周年施策のコンセプトへ
六甲バターは周年を記念ではなくバージョンアップへの節目と捉えて、「未来への第一歩」をコンセプトに未来のファンとの新しい関係づくりを意識したという。ベビーチーズの「ベビー」(=小さい単位)に着目し、従来の「小さくて食べやすい」から「BABY ENERGY 小さなエナジーフード」へ意識の転換を図り、夢中で頑張る人を応援する企画へ展開した。従来のベビーチーズのイメージを変えるために、メッセージ性のあるWebサイトや動画の制作を行った。子どもを対象としたリアルイベントにより、未来のファンとの関係づくりにも取り組んだ。
そのほか、ラベルの豊富さという特性を活かし、チーズ売り場以外での接点作りにも取り組んだ。商品の単価の安さから、親しみやすいというイメージがあるため、キャラクターを制作し、POPUPストアでグッズを販売。芸能人のSNSで紹介されたことをきっかけに、コラボ商品も展開した。
顧客の本当の課題を理解するために
ロイヤルカスタマーの調査により、商品との最初の接点は親から与えられたことであるが、第2のピークは、妊娠の際に助産師から勧められたことだと判明。さらに調査すると、妊婦の抱える課題に、妊娠中にチーズを控えないといけないという認識があること、食の楽しみが減っていくことがあるとわかった。これらの課題を解決するため「妊婦さん応援企画」を実施。妊婦の不安、不満、不便など「不」を解消することを目標にnoteを開設し、妊娠中でもQBBチーズを楽しんで食べられると発信した。さらに妊婦専用のノンアルコールカクテルバー「ニンプバー」も開催。会場に「ニンプノート」を設置し、来店したお客さんから感想を書き込んでもらい、声を拾う機会にした。メディアでの反響や行政から評価されたこともあり、販売にも結び付いたという。
「自社商品でも、お客さまが感じている魅力に気付かないことが多い。だからこそ、直接声を聞いてアクションすることが必要です。また、商品の機能的、情緒的価値に加えて、未来的価値に目を向けてください。今回の例のように、妊婦さんにとって“寄り添ってくれるブランド”と認識してもらえるような価値提供ができると、ずっと愛されるブランドに近づくのだと思います」と黒田氏は強調した。