「当初、まさか佐藤卓さんにお願いできるとは思わず新聞広告を提案していましたので、自分の想像以上に強いものに仕上がり多方面から反響をいただけたのは良い流れでした」と前田氏。
その翌年、同社の課題を再度整理し、テレビCMの検討を始めることになった。
「本当にCMなのか?は、常に念頭におきながらプロジェクトをスタートしました。浄水器は水道水を安全で美味しくするというライフライン的な要素もあるので、『認知度』が重要なのは肌感としてはありましたが、そもそもこの時の広告費全体がマス広告をするような規模ではなかったので、費用感の共通認識が課題でした」
CMとなると、制作費もメディア費も新聞に比べてかなり高額になる。どうすべきか、議論を重ねて出した結論は、関西エリア限定で1ヶ月だけオンエアするというトライアルCMだった。KPIは、その時の「検索率を上げる」こと、そこでの「学びを得る」こととし、企画はあえてそれに合わせてクリンスイのイメージを伝えつつも販促的な内容にした。
シンプルな企画だったが、想像以上にCMの効果はあり、関西エリアでは大きな営業支援にもつながった。久しくマス広告を経験したことがなかった同社だが、少しずつCM効果の理解を深めていった。
そして3年目を迎え、再びテレビCMの話が浮上。
しかし、予算の話がクリアしたわけではない。どう広告費を生み出すか、社内調整、社内承認までのプロセスをクリンスイ担当者、ブランドディレクター、前田屋の3社で徹底的に議論。前田氏も、いろんな部署から賛同を得る必要があり各事業部署に個別にヒアリングを開始した。そこで課題を聞くことで、CMプロモーションを本当に実施する必要があるのか、フラットに意見交換をする場にもなった。そして2023年秋、ようやく各部との話し合いが終わり、各部が個別で抱えていた課題も明らかになった。そこで着目したのが、クリンスイの飲料用の浄水器には必ず入っている「中空糸膜」と「活性炭」という2つのフィルターだ。
「このダブルのフィルターを通すことで『残留塩素』や『雑菌』を除去し、安全に美味しい水になります。そこで、ひとまず企画するならこのダブルのフィルターを根っこにしよう、と。これを中心にCMをやっていけば、社内承認も進められるだろう、という思いでした」
これまでの制作過程において広告会社は入っておらず、CDも営業も不在。前田氏がすべてを理解した上でまずはタタキをつくり、クライアント、ブランドディレクターと議論を重ねて、コミュニケーションを設計している。
そして本格的に制作が決まり、クリエイティブチームを編成。まずつくったのが、コミュニケーション全体をまとめる「Cleanと、Cleanで、クリンスイ。」というキャッチフレーズだ。コピーライター 小藥元氏に依頼し、この1案でプレゼン。2つの「Clean」は、「中空糸膜」と「活性炭」を表現している。
「このコピーだけでは『Clean』が『中空糸膜』と『活性炭』とは伝わりませんが、今後のコミュニケーションの中でこのコピーを育てていくことで、クリンスイが他商品と差異化しながら成長できると説明しました」
そして認知度を上げるために、著名人を起用したCMを提案。ブランドディレクター 福田さんから候補として名前があがったのが、水川あさみさんだった。役者としての知名度や人気だけではなく、食生活を大切にしていることが決め手となり、前田氏が直接交渉。企画を見せながら話し合いを進める中で、「水博士の水川あさみです」の企画にまとまっていった。