世の変化とともに「言葉の表す対象」は日々進化し続けており、それに合わせて言葉そのものの意味も進化している。PRという言葉の意味も、1.0から2.0、3.0と進化してきた。略語であるPRの元がパブリックリレーションズであることの説明は不要であろうが、その日本語訳である「広報」という言葉の意味も進化し続けてきており、昨年6月に日本広報学会では、時代とともに進化してきた「広報」という言葉の意味の変遷とともに現在の定義を発表している※。この定義が、本書の提示しているPR4.0の方向性とも合致しているのは、世の変化を同じように読み解いたということで、偶然ではないだろう。
直近の新しい動きとして、社会課題に対して主体的に意思表明する視点を、本書ではブランドアクティビズムとして提示している。私の言葉では、これを「もの言う広報」と称している。政治的な意見や人権問題などのデリケートなテーマに対してニュートラルな事なかれ主義を貫くことは、美徳でも賢明でもなく、むしろ新たなリスク要因になりつつある。ここにはパーパスとの連動も求められてくる。
ステークホルダーの声を「傾聴」することの重要性とともに、ソーシャルコミットメントという概念も提示され、PR4.0の重要なテーマとされている。本書を通じたPR4.0の問題提起を受け、情報発信は量から質へシフトし、さらには発信よりも受信を重視する方向感が伝わってくる。そして、傾聴を通じて、自身に対する「期待」をどれだけ的確に受信し、それに応えていくような自身に進化できる力量を備えているかどうかが、次なるPR5.0への方向感として見えてきた気がした。読者のみなさんのPR5.0仮説までをも想起させる読み物になっている。
柴山慎一(しばやま・しんいち)
社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科教授
日本広報学会 理事長
日本電気(株)から(株)野村総合研究所へ 経営コンサルティング部長からコンサルティング事業本部長、広報部長など歴任。NRIデータアイテック代表取締役社長、NRIみらい代表取締役社長として企業経営を経験 。2019年~2023年 シダックス(株)取締役専務執行役員として同社の再生で実績。 現在は企業広報、特にインターナルコミュニケーションやIRについての教鞭をとりながら、上場企業の社外取締役などに従事している。
『新しい「企業価値」を創出する PR4.0への提言』
編著:株式会社 電通PRコンサルティング
本書は、電通グループ内のPR領域における専門会社である電通PRコンサルティングが2020年8月から3年間、月刊『広報会議』(宣伝会議発行)において連載した「データで読み解く企業ブランディングの未来」をベースに、現在、そして来るべき広報の未来に向けて加筆しました。
『PR4.0への提言』は、序章と7つの章で構成されています。序章では、まずPR(パブリックリレーションズ)の進化について振り返ります。PR1.0は情報拡散を目的としたPRとして位置づけ、その後はPRの効果測定の指針として世界的に採択されている「バルセロナ原則」(※)に照らし合わせ、2.0(アウトプットからアウトカム)、3.0(インパクトの評価)としています。そして来るべき「PR4.0」はどこに向かうのかを、本書を通して考察していきます。
定価:2,200円(本体2,000円+税)
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