【はじめに全文公開】『言葉からの自由 コピーライターの思考と視点』(三島邦彦著)

「宣伝会議のこの本、どんな本?」では、当社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。

今回は、新刊『言葉からの自由 コピーライターの思考と視点』(三島邦彦著)の発売を記念して「はじめに」を紹介します。
書影 『言葉からの自由 コピーライターの思考と視点』
著者:三島邦彦
発売:2024年4月1日
定価:2,200円(本体2,000円+税)
ISBN:978-4-88335-593-8
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コピーライターとは文字通り「コピーを書く」という職業です。

コピーライターが書く言葉には、商品のキャッチフレーズ、CMのナレーション、ブランドステートメント、ネーミング、店頭ツール、ウェブ広告、企業スローガンやミッション・ビジョン、さらに経営者のスピーチなどさまざまな形があります。そしてそのすべてを僕はコピーだと考えています。コピーとは「誰かのためにコピーライターが書くもの」のすべてです。逆を言えば、言葉にできることはなんでもやるのがコピーライターという仕事です。

「誰かのために書く」その「誰か」は第一にクライアントです。企業、自治体、学校、商店、この世界にはさまざまなクライアントがあります。そして、「誰かのために書く」その「誰か」はクライアントがその言葉を届けたいと思っている「誰か」でもあります。それはクライアントの商品を買ってくれる人々であったり、クライアントの中で働く人々だったり、投資家であったり、これから一緒に働いてもらいたい人々であったりと、さまざまです。

誰かのために自分の言葉を使う人、というのが僕の考えるコピーライターの姿です。決して特別な人間ではない自分の言葉がなぜ誰かのためになるのか。そこにコピーライターの妙味があります。他の誰でもない、自分の言葉。その言葉にクライアントが価値を感じたとき、言葉はコピーになります。「価値を感じる言葉」がコピーであり、「価値を感じる言葉」を書くのがコピーライターです。

コピーを書くということを仕事にする中でずっと、言葉を書くとはどういうことか、価値ある言葉を書くにはどうしたらいいのかということを考え続けてきました。しかし、万能の方法が存在しないのはもちろん、正しい手順や作法のようなものさえないということに気づきました。

「どうやってコピーを書いているのか」という質問に僕はいつもうまく答えることができません。「一生懸命考えています」と答えてガッカリされることも多い。それでも、誰にでも使える技術や方法論はないとしか言えないのです。あるとしたらそれは後付けの整理から生まれたものであり、実際にその方法論に従って書いているわけではないはず。まだない言葉を書くためには、まだない書き方で書くしかないと思うこともあります。

クライアントのために一生懸命考える。その愚直な営みの果てにコピーがある。言葉というものは、とても身体的なものです。頭と手と眼と、その人に固有なものがその人の言葉になる。言葉は身体を通じて出てくるもので、人によって身体が違うから、頭だけの方法論よりも、全身を使ったフォームが大事なのだと思います。

いいコピーを書きたいんじゃなくて、いいコピーを書けるような人になりたい。コピーライターになりたての頃にふと、そんなことを考えました。偶然ではなく継続的にいいコピーを書くための眼や手を持ちたい。それはきっと方法というよりは、人間をつくっていく道のりなのだと思いました。人間をつくっていくのだから、時間がかかるのは当たり前だと。短くても10年はかかるだろうと。そしてあっという間に10年以上が経ちました。

「書くことは思い出すことに似ている」

それが今の僕の考えです。方法と言えるようなものではないですが、僕なりのフォームと言ってもいいかもしれません。僕は何かを書く時に、何かを思い出している。大事なことを思い出そうとしている。楽しかったこと、うれしかったこと、愛を感じたこと。それだけでなく、悔しさや怒りや悲しみも含めた、人生の大事なことを思い出している。

コピーを書いている時の頭の中は、何かを思い出そうとしている状態に近い。見落とされていたこと、忘れられていたこと、そうしたものを思い出すこと。記憶の中に散乱する言葉を丁寧に拾い集めるようにしてコピーは書かれる。コピーが生まれるその一瞬はほぼ呼吸を止めている状態のため記憶がほとんどないのですが、その直前には何かを思い出すような感覚があります。それは作法や方法というよりは、心構えに近いものです。

作法はない。方法はない。それでも、心構えはある。そして、心構えで言葉は変わる。

この本は、コピーを考えること、書くこと、読むこと、それぞれについての僕のサンプル(=断片)の集積です。いわば、白紙に向き合うまなざしのサンプルです。

これからコピーライターを目指す人、コピーライターになりたての人、言葉を考えることが好きな人、言葉に悩みを抱える人、そんな人たちのためにこの本は書かれました。諸先輩におかれましては、どうか大目に見てください。

『言葉からの自由 コピーライターの思考と視点』(三島邦彦著)

商品のキャッチフレーズ、CMのナレーション、ブランドステートメント、ネーミング、店頭ツール、Web広告、さらにはミッション・ビジョン・パーパスや経営者のスピーチなど、広告コミュニケーションの領域の広がりと共に、コピーライターが任される領域やその役割も広がりつつあります。
そんな中、三島氏は「コピーとは、誰かのためにコピーライターが書くものすべて」であり、それは「価値を感じる言葉」であると定義します。そして「言葉にできることはなんでもやるのがコピーライター」と、そのスタンスを明確に示しています。
そんなスタンスで書かれた本書は、「言葉を考える」「言葉を読む」「言葉を書く」「そして、言葉を考える」という4つの章から構成されています。これらについて、三島氏は日頃考えていることを惜しみなく書き綴りました。しかし、そこに書かれているのは、コピーライティングの作法でも手法でもありません。さらに言うならば、書き方の技術でもありません。コピーライターとして16年のキャリアを積んだ現在の三島氏ならではのフォーム、そして言葉に向かうときの心構えです。

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