2023年度TCC賞の受賞作品や審査通過作品を収録した『コピー年鑑2023』。今回の特長のひとつは、読み応えのある審査選評です。一般部門の「TCCグランプリ」「TCC賞」の計15作には、3人の審査委員がそれぞれ800~900字の選評を寄せています。その一部をアドタイで紹介します。
今回は、TCC賞を受賞した日本放送協会(NHK)「TAROMAN」(受賞者/藤井亮)への、谷山雅計さんの選評です。
「想像力の暴走」こそ最強だ。(谷山雅計)
まずはこれをTCC賞審査委員として「広告」ととらえていいのか、というところから評価を始めるべきでしょう。動画の中に「岡本太郎展の告知」が入っている点で、ぼくは「広告セーフ!」と判断しましたし、審査委員長はじめプロジェクトもそう考えたからこそ最終審査まで残っているのだとすれば、あとは良し悪しについて考察するのみです。
そこでぼくが下した結論は「ことしの応募作の中でだんとつ最高!」。迷わずにグランプリ審査で一票を投じました。作者の藤井亮さんがこの仕事で(そしてTCC年鑑には掲載されていない数多くのクリエイティブも含め)世の中に発信している「とてつもなくバカバカしい想像力の暴走」は、他のジャンルのあらゆる創作物と比較してもちょっとばかり突出していて、「バカ界の大谷翔平」と呼ぶべきMVP級の達成であると感じます。
「ちょっと褒めすぎてる?」と、いまふと冷静になってみましたが、いや、やはりその通りです。先ほどからバカ、バカを連発してしまっていますが、実はそれを支える完成度の面もかなりのものですね。審査会場でアルバイトをしていた若者は、この「タローマン」という謎のヒーロー番組が70 年代に本当に放送されていたのだと完全に信じ切っていました。
サカナクションの山口さんが出てきて真面目にコメントするあたりで、同じNHKの「プロフェッショナル」のようなコンテンツなのだろうと理解したようです。まさに、大嘘つき。けれど、世の中の多くのひとを、これほど(ちょっと呆れさせつつも)幸せにできる嘘をつける方はめったにいないと思います。
タローマン主題歌歌詞の「♪うまくあるな、きれいであるな、ここちよくあるな~」は、われわれ広告制作者へのある種の警鐘だ、と言うとさすがにこじつけになってしまいますが、個人的にかなり身につまされたこともまた事実。アートを広告にもちこんだ先例としては70 年代のパルコ、80 年代のサントリー・ランボオなどが挙げられると思いますが、2020 年代にその文脈が思ってもいないかたちで帰ってきたのではないか。
作者の藤井さんもさすがにそこまでは計算していないかもしれませんが、ほぼ50 年間広告と意識的に接しつづけた人間からすると、そうした感慨をも持たせてくれた仕事でした。
コピー年鑑2023
2023年度のTCCグランプリ、TCC賞、TCC新人賞をはじめ、5000点超の応募作品の中から90人のコピーライターが選んだ広告645点を掲載。受賞作品とファイナリスト作品には、審査委員の眼力と筆力の集積ともいえる充実の審査選評を収録しました。今年の広告は、世の中に何を問いかけたのか。「言葉を読む、コピーを読み込むための年鑑」から、コピーライターたちの熱いエネルギーを体感してください。
編集/東京コピーライターズクラブ 審査委員長/太田恵美 編集委員長/麻生哲朗 アートディレクター/関戸貴美子 発行/宣伝会議 定価:22,000円(税込)