玩具メーカーのピープルは2023年9月、公式noteで赤ちゃん人形「ぽぽちゃん」の生産終了を発表する記事を公開して話題化、1200スキ以上を集めました。生産終了の決断は、企業の売上としてはマイナスになるはず。どのように伝えたことで企業の好意的な印象につなげたのか、その背景に迫りました。
※本記事は、広報会議2024年6月号(5月1日発売予定)特集「オウンドメディア 企業の“リアル”を届ける 距離感が縮まる広報戦略」 から一部転載した内容です。
開設日:2022年2月
担当部署:コーポレート広報チームの社員・代表など4名
コンセプト:ステークホルダーに、計画ではなく企業変革
の様子をリアルにお届けし応援してくれる人を増やす
制作体制:全て内製
更新頻度:週1回程度
総記事数:約80本
効果測定(評価の方法含む):PV数、SNSでのリアクショ
ン数や言及数、記事公開本数
子ども向け商品・サービスの企画開発を行うピープル。2022にパーパスを設定してから、企業変革の様子をありのままに伝えようとnoteの運営を本格的にスタートした。記事数を着実に積み上げる中、2023年9月に公開したひとつの記事が大きな転換点に。
27年もの歴史のなかで580万体以上を売り上げた、ロングセラーの赤ちゃん人形「ぽぽちゃん」の生産終了に関する記事が1200スキ以上もの反響を集めたのだ。
一見、ネガティブな文脈で捉えられそうなテーマに見える。しかし、企業のパーパスに基づいて生産終了に至った経営判断をさらけ出して伝えることで、ポジティブなリアクションを得た好事例といえる。
「会社の思いへの共感を超え、次の新商品への期待感が醸成されるなど、ひとつの記事が企業ブランディングへの大きな貢献につながりました」と語るピープル コーポレート広報チームの川端麻美氏。
経営判断をさらけ出す
記事執筆のきっかけは、ぽぽちゃんの生産終了を発表するにあたり「まず愛用者である皆さまに伝えたい」と考えたこと。プレスリリースではなくSNSで発表したところ、ロングセラー商品であることからユーザーの間でも話題となり、取材依頼が届くように。
しかし取材では生産終了の理由について、「少子化による市況の影響」や「経営不振」などと捉えられることも。「私たちはすでに未来を見据え、新事業に取り組んでいましたが、その裏側を取材の限られた時間の中で伝えるのは難しいと感じました。そこで自由に発信できるnoteで、パーパス経営に基づいた判断であることを伝えました」。
記事の内容では、まず2022年に「子どもの好奇心がはじける瞬間をつくりたい!」というパーパスを設定したことを発表。そこから、市場の成熟により他社製品との差別化が必要なコモディティ化が起こり、「本来は子どもの好奇心に向き合いたいが、消費者である大人の側に向いた商品維持に努めてしまっていた」とありのままに語っている。そして最後に、初心であるパーパスに立ち返ったモノづくりを続けていきたいと強い意志を表明した。
また、スピード感も大切にしたという川端氏。「生産終了をSNSで発表したのが9月4日。直後よりメディアや社会から予想以上の反響があり、9月7日に記事を公開しました。代表の桐渕が『自分が下したこの大きな決断への思いを直接伝えたい』と、数時間で書いたものです」。
共感と期待が数字に表れた
そして、9月末にnoteを読んだウェブメディアから取材があり、自社の意向に沿った記事が掲載される。その記事がヤフーニュースに転載され、記事内のリンクを経由して多数のユーザーがnoteへ流入。
note内の「本日の注目記事」に選ばれたことでX上でも話題となり、記事投稿から1カ月ほどで“バズ” が生まれた。その結果、さらなる取材依頼や代表への講演依頼も増えたという。
「正直、ここまで記事が広がったことに驚いています。公開時に想定していた読み手は、パーパス経営の話に興味がある経営層の方でした。しかし昔ぽぽちゃんで遊んでくれていた20~30代のビジネスパーソンの方々がSNS上で話題にしてくださったり、一般消費者層であるユーザーさんから感謝のコメントやDMが届いたり。記事をきっかけに株主になってくださった方もいて嬉しい限りです」(川端氏)。
ロングセラー商品を手放してまでパーパス経営を目指す姿勢に胸を打たれ、「この思いを抱える会社が、次にどんな商品をつくってくれるのか」と新作への期待が集まった結果が、1200スキという数字に表れたのだろう。
ネガティブをポジティブへ
今回の事例から、メディアではネガティブに取り扱われやすいテーマも、オウンドメディアならポジティブな文脈へ変換できる可能性があると分かった。その要因を川端氏に聞くと…
続きは広報会議2024年6月号 特集「オウンドメディア 企業の“リアル”を届ける 距離感が縮まる広報戦略」からご覧ください。
広報会議2024年6月号
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- 距離感が縮まる広報戦略
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- 共感醸成し「協業・共創」目指す
- CASE 2
- カルビーへの愛着を醸成
- 社内を巻き込み、note運用4年目へ
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- 1カ月で50記事の公開へと導いた
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- 「ぽぽちゃん生産終了」本音綴ったnote
- 共感が呼び1200スキ以上集まる
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- 企業ブランディング起点でリスナー来店の動線に
- CASE 3
- 投資家、求職者、足場への無関心層など
- 各ステークホルダーに記事を届けるASNOVAの工夫とは
- CASE 4
- 「リハビリ体験記」ほか生活密着の切り口で
- 理学療法士の普及とプレゼンス向上
- CASE 5
- 「世の中が知りたいこと」起点の企画で
- 立命館大学と社会つなぐ架け橋に
- 明確なロードマップを描き成功へ導く
- 成果を出すまでの5ステップ
- 中川順司 Faber Company
- DATA
- 担当者117人に聞いた
- オウンドメディア運用の現状
ほか