そんな同社ではマーケティング部門にも顧客理解をベースとした新たな体験価値の創出が期待されています。解像度高く顧客を理解し、いま世の中に存在しない「あったらいいな」を実現するアイデアを形にしていく。データも活用しながら、まさに“マーケティングの高度化”が同社のマーケターに求められる役割です。『宣伝会議』編集部では、そんな挑戦を続けるセブン銀行のマーケティングチームと連携。編集部も企画に携わり、外部のマーケターやプランナーとの対話を通じて、新たな価値創出を目指す「みんなの宣伝会議@セブン銀行」プロジェクトをスタート。本連載では3回にわたり、本プロジェクトに参加しているセブン銀行メンバーが担当となって現場の様子をレポートしていきます。
主役であるお客さまに価値を届ける。橋渡し役としての役割がマーケターにある。
荻原:私たちは2021年に「お客さまの『あったらいいな』を超えて、日常の未来を生みだし続ける。」というパーパスを策定し、社内への浸透を実感しているものの、お客さまが我々の想いに共感してサービスを選定する段階には至っていないと考えています。そういった課題を抱いているなかだったので、第4~7回のゲスト講師との対話には大きな学びがありました。データを活用し、顧客を理解することや、適切な「なまえ」をつけることで、伝えやすくすることなど。個々の専門領域を持つ講師の方々のお話に、現在の課題を解決する道筋を多数見つけることができました。
金田:形のない金融サービスは他社との差別化が難しく、結局は「何かを買う」「どこかへ行く」といったお客さまが本来の目的を達成するサポートまでしかできない。だからこそ、なおさら競合他社との比較ではなく、「お客さまにとってどのような価値を提供できる存在になりたいのか?」という視点が重要だと気づけました。
少し油断すると「私たちが、こんなにもお客さまのことを考えてつくったサービスです」という、提供者側の押し売りのようなコミュニケーションをしてしまいがちですが、「そのサービスを使うことでお客さまにどうなっていただきたいか」を熟考し、名前を含むメッセージを考えることが大事だと気づきました。
越田:イメージのしやすさを重視しすぎるあまり、奥行きのないサービス名やメッセージになっている部分もありますよね。これまで、私たちはATMの機能や利便性でお客さまに選んでいただいてきた側面が大きいので、機能の訴求に意識が向きがちだったように思います。小藥さんの提唱された『なまえデザイン』のように、利用シーンやその先の体験までセットで訴求できるような名付けをすることで、お客さまとの距離すら変えることができるし、それを活用しない手はないと感じています。
丹保:この考え方は対お客さまに限らず、いろいろなところに通じますね。部で新しくできたチームの名前を考えていたのですが、メンバーとともに何を目指していきたいかという観点を名前に入れることで、もしかすると軌を一にしたチームをも、つくり出すことができるのではと可能性を感じています。
いろんな観点を盛り込もうとすると、それだけ名前を考えることが難しくなりますが。
芹澤:とはいえ、金融機関という業態やグループのつながりを考慮しなければいけない点は、私たちの共通の悩みですよね。名前にこだわって考え抜く遊び幅が少ないというか…。その結果、無難な言葉を選んでしまい、炎上はしないかもしれないけど結局、伝わりもしないという問題を抱えているなと感じています。
藤原:自分でも「優等生すぎる存在は退屈」と、わかっているのに、「自分たちは金融機関なのだから」と、枷を嵌めていることは多いですよね。そこはセブン・カードサービスでも課題だと思っていたので、渡辺さんの仰っていた「正しい言葉より楽しい言葉」は、もう本当にその通りだな…と。私たちに求められているのは、レギュレーションの中でいかに限界ギリギリを攻められるか? に挑戦することや、その精神だったと強く感じました。
酒井:枷の外し方でいえば、河西さんの「心の天井を外して考える」というマインドが必要ですよね。レギュレーションや金融機関であることも忘れて、まずは発想を広げる。その後に落としどころを工夫する。「受け手の感情を徹底的に動かす」に至るには、これができないといけないと感じました。
渡邊:私たちが提供するサービスは、どの部門も熱い想いを持って開発していると思うんです。そうやって機能の質に想いの丈を込めている分、伝えたいことが絞りきれずに、うまく響かない・伝わらないのは純粋に寂しいですよね。だから「何を言うか(言いたいことを絞る)、どう言うか(読んだ相手を楽しませる)」という言葉で、伝えることの本質の気付きと、悩みの解決の糸口をいただいて、渡辺さんには感謝しかないです。
河西さんも「情報に感情をかけあわせ」と仰っていたように、お客さまの感情に働きかけることが、まず第一なんですよね。そこで共感していただいた上で、情報に触れてもらい、「このサービスがあったら、こんな世界になるかもしれない」とお客さま自身が自然とストーリーを想像してサービスを選んでくださる。ゲスト講師の皆さんとの対話から、そんな道筋が見えてきました。
荻原:そうですね。あとは、As IsとTo Beを埋めるためには何よりお客さまの理解が必要なので、当たり前だけど徹底的にデータドリブンであるべきですよね。福吉さんの言うように一部の社員じゃなくて、全員がデータを触るべきだと強く感じました。データを通じてお客さま理解の解像度をいかに高められるかで、そのお客さまの感情を動かすための名付けも言葉も変わってきますからね。誰に、何を言うか、どう言うか、どういう感情に働きかけるべきか? をデータを基にして考える。そうすることで、よりお客さまの感情を動かす名付けができ、お客さまが我々のサービスを選定するきっかけになる。そう思えるようになりましたね。
みんなの宣伝会議@セブン銀行とは?
セブン銀行における、さらなるマーケティングの高度化を目指すことを目的に、マーケティング、販促、広報などのコミュニケーションを担う部門の担当者22名が集まり、実施されているセブン銀行の社内プロジェクト。社外講師との対話、またそこでの気づきを月刊『宣伝会議』の記事をはじめとするアウトプットの機会も持つことで、マーケティング思考を体得し、これまで以上にお客さまに愛されるセブン銀行のブランド確立を目指している。