2023年度TCC賞の受賞作品や審査通過作品を収録した『コピー年鑑2023』。今回の特長のひとつは、読み応えのある審査選評です。一般部門の「TCCグランプリ」「TCC賞」の計15作には、3人の審査委員がそれぞれ800~900字の選評を寄せています。その一部をアドタイで紹介します。
今回は、TCCグランプリを受賞した日本マクドナルド「ビッグマック」(受賞者/麻生哲朗)への、三島邦彦さんの選評です。
かっこ悪いということはなんてかっこいいのだろう(三島邦彦)
「広告から大人の男がいなくなった。」たまたま手に取った1970 年代の広告業界誌にそんな言葉が書かれていた。大人の男がいなくなったと言われてから50 年。このビッグマックの広告には大人の男がいる、と思った。
この広告で描かれている大人は、決してかっこよくはない。そこがとってもかっこいい。『かっこいいことはなんてかっこ悪いのだろう』という古いレコードがあったけれど、この広告を見ると、かっこ悪いということはなんてかっこいいのだろうと思う。やせがまん、強がり、それこそが大人のかっこよさの源なのだということを思い出させてくれる。
「ビッグマックなんて、ペロリだよ。」という一行。ビッグマックという商品は本来、その食べごたえを価値とする。商品の存在意義を揺るがすような言葉が広告として機能する逆説がここで起きている。
そもそも、ペロリという言葉を聞いたのはいつ以来だろうか。その商品に独自の単語を探したとして、ペロリという言葉にたどり着くことは決して普通の道ではない。この言葉が世に出るのは簡単なことではない。ただ、このペロリという言葉こそが強がる大人の愛嬌と、この言葉を受け入れるブランドの度胸を同時に感じさせる唯一無二の鍵になっている。
ビッグマックとの古くて新しいつながりを生み出すための一行。そんな難しいことを、こともなげにやっている。だってそれが、大人だからと言うかのように。15 秒と30 秒という潔さ。考え抜かれた先にある凝縮感。言葉数は多くない、しかし、一つひとつが印象に残る。そこにもまたこのCMの人格が現れている。
そして、商品カットに“REMEMBER, BIGMAC.”という言葉があることに気がつく。それはビッグマックという選択肢を思い出す、ということだけではもちろんない。ビッグマックがかっこいい食べ物であることを思い出すことであり、自分の中の活力を思い出すことでもある。そして、かっこいいとはどういうことかを思い出すことでもある。大人が大人と語り合う。刺激的に、挑発的に。かっこいい大人が世の中に必要なように、かっこいい広告が世の中には必要だと信じたい。人を励ますものは、やさしい言葉だけではない。懸命に生きる大人の姿のかっこよさ。それ以上の励ましはない。
コピー年鑑2023
2023年度のTCCグランプリ、TCC賞、TCC新人賞をはじめ、5000点超の応募作品の中から90人のコピーライターが選んだ広告645点を掲載。受賞作品とファイナリスト作品には、審査委員の眼力と筆力の集積ともいえる充実の審査選評を収録しました。今年の広告は、世の中に何を問いかけたのか。「言葉を読む、コピーを読み込むための年鑑」から、コピーライターたちの熱いエネルギーを体感してください。
編集/東京コピーライターズクラブ 審査委員長/太田恵美 編集委員長/麻生哲朗 アートディレクター/関戸貴美子 発行/宣伝会議 定価:22,000円(税込)