今回は、TCC賞を受賞した大和ハウス工業のCM(受賞者/多田琢)への、太田恵美さんの選評です。太田さんは2023年度の審査委員長でもあります。
広告にあふれる「家族」。そして「かぞく」。(太田恵美)
難しいことに挑戦している。今回の受賞作はシリーズ3作目4作目。前の2作もそうだが、敢えてどこか不具合な家族とその気まずさを拾って、短く編まれている。「よくある家族」に当てにいっている様子がない。マーケの調査で言うところのN=数が少なすぎるのだ。
「ここに私はいない」と多くの人に弾かれる恐怖に負けてしまうところだ。実際、私はこの「かぞく」の像には全く被らない。じゃあどうだろう、「ここに私はいない」のか。答えははっきりしている。ここに流れる時間と空気は、自分が体験したアレを思い出させる。ここに私はいるのだ。それは、ここで炙り出されたのが結びあう「家族」ではなく、曖昧さしかない「かぞく」だったからだ。
「かぞく」のズレで生じた隙間にリアリティがあるということだろうか。
そもそも「よくある家族」など不確かで、「よくありそう」なだけ。
家族といえば、私にとってはファミレスだ。仕事場として長時間居座り続けるので、もはやその店の装置の一部となり、はからずも観察を続けることになる。聞いてもいない3歳児に備え付けの絵本を読む30代の父親。配膳する猫ロボットを追っかける姉弟。おうちの事情を報告しあう複数の夫婦。彼らを「よくある家族のかたち」にカテゴライズすることは簡単にできる。ここを相手に当てにいくのが、マス広告の役目だと思われているふしがある。
しかし、考えてみれば「結びあう家族像」の呪縛に囚われているのは、広告と教科書くらいなものかもしれない。映画や小説を持ち出すまでもなく、TVやWebのコンテンツは極端な愛憎だらけ。広告と番組は違う?そうだろうか。広告主が姿勢を問われるのであれば、どちらも同じだ。広告はイイ話でなければいけないと規制をかけ、むしろそこに寄り掛ってラクをしていたのは我々制作者だったのかもしれない。
もちろん、これまでも家族を被写体にしながらも不自由さに抗ってきた制作者はいたし、今も多い。彼らの道具は「笑い」だ。今、そこに新たな道具を持ったチャレンジャーが出現した。4作目の最後に入ったコピーが示唆的だ。わたしたちは“自由”を持っている。うまくいかなくてもいい、という“自由”を。なんかいいな。
コピー年鑑2023
2023年度のTCCグランプリ、TCC賞、TCC新人賞をはじめ、5000点超の応募作品の中から90人のコピーライターが選んだ広告645点を掲載。受賞作品とファイナリスト作品には、審査委員の眼力と筆力の集積ともいえる充実の審査選評を収録しました。今年の広告は、世の中に何を問いかけたのか。「言葉を読む、コピーを読み込むための年鑑」から、コピーライターたちの熱いエネルギーを体感してください。
編集/東京コピーライターズクラブ 審査委員長/太田恵美 編集委員長/麻生哲朗 アートディレクター/関戸貴美子 発行/宣伝会議 定価:22,000円(税込)