コピーライターとしての現在地を教えてくれる「地図」―『広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉』に寄せて(うえはらけいた)

「まるで真っ暗な獣道に放り出されたような気分だ。」新卒でコピーライター職に配属された時、僕はそう感じた。何もかもが手探りで、書けども書けども、自分がどの方角に進んでいるのかわからない。というか、そもそもこれは前に進んでいるのか…?

『広告コピーってこう書くんだ!読本』は、そんな獣道を進むにあたって心強い味方になってくれる「優れた地図」だと思う。広告コピーという世界の歩き方がわかるという意味ではもちろんだが、それだけではない。なぜならこの本は読み返すたびに自分の的確な「現在地」を教えてくれる存在でもあるからだ。

ちょうど実力が伸び悩みはじめた3年目の頃、信頼の置ける先輩から「『広告コピーってこう書くんだ!読本』をちゃんと読んでいるか」と問われたことがある。「もちろん読みました」と答えると、「違う、一度読むだけじゃダメだ。あの本は何度も定期的に読み返してこそ意味があるんだ」と返された。

 

広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉
4月11日発売/谷山雅計著/定価2,200円(税込)

 

確かにその通りなのだ。この本は何度も「わかったつもりになる」不思議な本である。谷山さんの文章が実に明快で分かりやすいものだから、書かれている内容はするすると頭に入ってくる。読み終えた後にはまるでコピーの全てを知り尽くしたような万能感すら抱かせてくれる。しかし本当に大事なのは、そんな万能感を粉々に打ち砕かれる経験を何度も現場で積んだ後、改めて本書を読み返す瞬間である。その時初めて本書に書かれている理論に「奥行き」があることに気付かされる。「あ、自分はわかった気になっていただけだったのか」と思い知らされる。そしてまたもう少しだけ、コピーのことをわかったつもりになって荒野へと繰り出す。この本とともにコピーを学ぶということは、そのくり返しなのだと思う。

まさに、読むたびにコピーライターとしての現在地を教えてくれる「地図」である。これから広告コピーという荒野へ踏み出す方も、今まさに迷子になりつつある方も、この強力な地図を携えてほしいと思う。

…ちなみに僕はコピーライターから漫画家という職業に転向した身だが、久しぶりに本書を読み返したところ、漫画づくりにも通じる話があまりにも多くて驚いた。「受け手が存在するものづくり」すべてに通ずることが書かれていたのだな、と改めて本書の偉大さを思い知らされた。伊能忠敬もびっくりの偉業である。「ちょっと地形が変わってきたので、加筆することにしました!」と言うかのように、今回の増補新版を執筆する谷山さんの姿を思い浮かべ、静かに敬服の念を抱きました。

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うえはらけいた

1988年、東京都生まれ。漫画家。コピーライターとして勤務していた株式会社博報堂を2015年に退職。翌年に多摩美術大学グラフィックデザイン学科に編入し、以降マンガを描き始める。2020年4月にマンガ家として独立。現在はマスナビで「ゾワワの神様」を、ダ・ヴィンチWebで「うぶこへ!」を連載中。著書に「コロナが明けたらしたいこと(アスコム)」など。

 

コピーライティングのベストセラー教本、待望の増補新版
広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉
谷山雅計著/定価2,200円(税込)

2007年に発売された広告コピーのロングセラー書籍『広告コピーってこう書くんだ!読本』が、増補新版になって新登場。デジタルやSNS時代のコピーのあり方についても言及した、約2万5000字の新テキストを収録しました。「人に伝わる」「伝える」広告コピーを書くためのプロのエッセンスを学べる一冊。


 

 




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