2023年度TCC賞の受賞作品や審査通過作品を収録した『コピー年鑑2023』。今回の特長のひとつは、読み応えのある審査選評です。一般部門の「TCCグランプリ」「TCC賞」の計15作には、3人の審査委員がそれぞれ800~900字の選評を寄せています。その一部をアドタイで紹介します。
今回は、TCC賞を受賞したIndeed Japan「Indeed」(受賞者/木村隆太、杉井すみれ、堀田さくら、田中賢一郎)への、東畑幸多さんの選評です。
「これでいいのか?」これからの広告(東畑幸多)
最近、広告が、カラダに悪い仕事になっている気がする。企業のDXが進む中で、広告もDXの波に晒されている。デジタルが広告に導入された頃は、一方的なマス広告とは違う、生活者と企業の対話が生まれるのでは、そんな期待もあった。でも、現実はちょっと違った。
「刈り取り」と「囲い込み」というワードが飛び交い、広告はますます短期的な数字を追う仕事になっている気がする。効率を上げるためのメソッドが進化していく中で、わざわざ自分を機械化している、そんな気持ちになることも多い。「これでいいのか?」と思わず問いかけたくなる。
「広告」の未来は、「広場」かもしれない。私が尊敬するコピーライターが言った言葉だ。バカボンのパパが、「これでいいのか?」と問いかけるIndeedの広告を審査会で見た時、彼女が言っていた「広場」とは、こういう意味だったのかと気づかされた。
企業が一方的にメッセージを伝えるのではなく。ブランドが「問い」を投げかけ、議論と対話を生み、生活者一人ひとりの「声」を集め、新しい当たり前を一緒に作る。
GWより短い育休。男性育休取得の約3 割が5 日未満。「カイワレすら育てられないよ…」馴染みのない日本語「妻の転勤で引っ越します。」「『お母さんの単身赴任』も聞かないね!」2382 年、女性経営者がやっと半数を占める予定。「人類、いるかな。」
データから生み出される、ショッキングなファクトと、皮肉の効いたチャーミングな一言。はたらくにまつわる、男女の不均衡。ジェンダーギャップというテーマに、バカボンのパパを掴みに持ってくるセンス。
ジャーナリズムであり、データクリエイティブであり、ブランド広告でもある。
広告は、今まで、生活者に対して、企業から情報を届ける役目を果たしてきた。でも、これからは、むしろ生活者の声を、企業へと届ける役割を果たしていくのかもしれない。「この社会に、意味ある変化を作る。」理想論かもしれないが、広告の未来には、そんな可能性があることを、Indeedの仕事は教えてくれた。
コピー年鑑2023
2023年度のTCCグランプリ、TCC賞、TCC新人賞をはじめ、5000点超の応募作品の中から90人のコピーライターが選んだ広告645点を掲載。受賞作品とファイナリスト作品には、審査委員の眼力と筆力の集積ともいえる充実の審査選評を収録しました。今年の広告は、世の中に何を問いかけたのか。「言葉を読む、コピーを読み込むための年鑑」から、コピーライターたちの熱いエネルギーを体感してください。
編集/東京コピーライターズクラブ 審査委員長/太田恵美 編集委員長/麻生哲朗 アートディレクター/関戸貴美子 発行/宣伝会議 定価:22,000円(税込)