70年前の宣伝担当者は何を考えていた?1954年の『宣伝会議』創刊号座談会を公開

ことしの薬業界の特殊事情とにらみあわせて

久保田:ところで、ことしの薬業界の一つの傾向は、御存じのように特売をやつて小売屋へ押しこむことが強行されている。これは、毎年、毎年、ひどくなつている傾向ではあるが、ことしは、年頭から、特に、ひどい。大衆むけ宣伝費を減らしてまでこの特売費に当てている。中には、3割ぐらいも、宣伝費を減らして特売サービスに当てているところもあるという。むろん、小売屋へ押しこんだ商品は、それだけでは、売れたことにならない。ただ、小売屋に預けただけにすぎない。集金に行けば、返品される。ひどいのは、景品だけ取りこんで、返品するのもある。そこで、どうしても、消化しなくてはならない。それが、ことしはたいへんなんだ。つまり、通常以上に押しこんである。いうまでもなく、不景気だから、そういうことになつているんだ。それであるのに、その消化のための大衆宣伝費は特売費に食われて通常よりひどく少いときている。このジレンマに非常な危険がひそんでいる。

まあ、そのことは、別として、こういう一般薬業界の情勢下において、この水虫薬も、いま、有力な問屋にまで行つており、これから小売屋へ押しこもうとするところなんです。が、商売は、非常に、むずかしい。巧みな宣伝のバックアップがなければならんのです。さて、植田さんから、このプリントの原案を検討してもらいましょう。まず、4月から5月までの宣伝費のウェーブのうたせかたは、これでいいですか。あなたは営業課長だから、宣伝人とは、また別な意見があるかも知れない。

植田:大体、これでいいと思うんですが、しかし、4月は節約して、6、7月にかけたいと思う。水虫の薬というものは、1シーズン、ポッキリの勝負なんです。そういうものの広告は、去年、大いに、やつたからといつて、ことしへの累積効果というものは、あまり期待できない。ことし、きかせるための広告は、もつぱら、ことしになつて新たにやるものでなければならない。その、ことしやつたものでも、たとえば、4月にやつたものが、6、7月の最需要期にきくというわけにはいきにくい。むろん、需要者は水虫の薬がほしくなつたときに買う。これは、わかりきつた話ですが、そこで、この広告は、その、ほしくなつたときに、やるのが、一番きくわけです。

そういうわけで、私は、この商品にあつては、広告の連続効果をねらわないで、消費最盛期の集中効果をねらいたい。私の考えでは、おおざつぱだが、4月は250万、5月150万、6月350万、7月450万、8月300万、こういうことにしたい。もつと具体的に言えば、4月の北海道はいらん。それを、5月へまわす。雑誌は、4月と8月をきつて、5、6、7月を厚くする。つまり、消費の多いときにシワ寄せをする。

久保田:そうすると、4月、8月は、主として新聞で訴え、5、6、7月に総力をブチ込む、というわけですね。

植田:そう。そして、8月は最後の消化をつく程度にしたい。この考えかたの基礎は、水虫の薬は一シーズンきりのものだということにあるのです。

椎橋:私も、植田さんと、大体、同じ、考えだ。が、4月は、はじめからやらないで、15日ごろからやる。そして、北海道もとつて、これを5月に入れる。また、6月の北海道は8月へもつていく。7月はそのまま。特売で押しこむ期間は4月が絶頂で、5月のはじめまでに押しこんでしまう。6月、7月は、大々的に大衆宣伝をする。8月はストックをコナすために、北海道の、4、5月分からとつた36万円を、販売状況とにらみあわせて、大体、8月へもつてくる。

大衆広告もまた販売店へのデモンストレーション

村上:水虫薬の需要期についてのデータはあるの?

若林:いろいろ調査されていてね、そのデータは、メーカーによつて、いろいろ違うと思うんですが、うちで調べたのによると、大体、こうなつています。(指で下図のような山形を示す)4月ごろから、ポツポツ出して、ツユすぎの7月10日ごろから、非常に多くなつてきます。8、9と下りますが、ハッキリ下りきつて終るというのではなくて、そうとう余韻をひきます。ここの予算では、9月はぜんぜんやらないことになつていますが、9月も、いくらかやらなければ、いけないのではないですか。

椎橋:8月を最後の線として、ストックをコナしてしまうというハラなんだ。9月の声をきくと、まだ水虫のなおっていない人も、もう買わない。そのうち、水虫もひつこむと思つてね。

奥田:8月で最後の収拾をつけるのは尚早ではないかね。そこで、私の案はね、宣伝というものは、言うまでもなく、見込客が困つているときにこそ、的確に、きくわけなんですから、6、7月の水虫最盛期には、それぞれ、500万円ぐらいを、つぎこむ。4、5月は、事前印象宣伝で、記事中、突出しなどの雑報、および、販売の押しこみ援助のために業界紙、こういつたもので、150万ぐらいずつに押さえる。そして、8月が200万コ売れ行き状態によつて9月の宣伝費も組む。これは、どうでしよう。

椎橋:それは、4月、5月が、手うすだ。大体、4、5月に小売屋へ押しこむんだが、小売屋の傾向として「このメーカーは、この商品に対して、どの程度、力を入れているか」といつたことを、宣伝の出足などで判定している。そういうとき、雑報なんかじや、しようがない。「これは、そうとう力を入れて、やるんだな」と小売屋に思わせ、熱意をもって商品を引き取らせるには、どうしても、もつと、ドカンと、やらねばならん。

若林:だけど、有力問屋から、まあまあ、品物は挿しこめるんでしょう。そういうことだとすると、4、5月は、小スペース広告でもよい。

吉田:それには、大反対だ。予算割りの検討ということは別として、スペースの問題だけからいうと、最初は、1回でもいいから、デカいのを出すべきだ。この会社では、まあ、半五段ぐらいだな。

村上:新発売なんだからな。この新発売広告の印象が、小売店を左右する。

久保田:対大衆宣伝といえども、また常に小売店へのデモンストレーションでもある、というわけだな。むろん、デビュー広告は、特に、そうだ。

奥田:小売店で、薬の名前を指名して買いにくる人とそうでない人とがある。その指名客をふやすためにも、また、指名しない客に対して、小売店から、すすめさすためにも、むろん、最初は大きい広告の方がよい。小売店の注意をひき、熱意をもたせるためには、やはり大きな広告が必要だ。

次ページ 「1シーズン予算1000万円以下では有効限界線を切るか」へ続く


※記事内には具体的な広告媒体名や金額なども出てきますが、1954年当時の記事をそのまま使用しています。当時の広告業界の価格帯、媒体事情を基にした議論、数値である旨、ご理解ください。


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