70年前の宣伝担当者は何を考えていた?1954年の『宣伝会議』創刊号座談会を公開

1シーズン予算1000万円以下では有効限界線を切るか

久保田:9月を、やるか、やらないかという話は、どう、きめるかな。

植田:1500万円以下に限定されているから、9月は切らざるを得ないだろう。9月にやる分があれば、むしろ、6、7月につぎこむべきだ。スペースについては、いろいろ問題はあるが、全三か、半五くらいは、1回、ほしい。

若林:実際問題として、水虫の薬で、ドカンと大きなスペースのをやつているところはないよ。

椎橋:大体、水虫の薬は、どこでも宣伝予算が少なかつたんだ。この案のように1シーズン1500万円などというのは、普通の場合、最高だろう。A社では使いすぎるほど使っていたが、これは、勢いでいつてしまつたんだろう。それでも、こんなにはないと思う。一般に、水虫薬では、500万から1000万円ぐらいというところだろうな。それで、まあ、やつていた。

吉田:この場合は違う。新興会社なんだ。単価が高いから、その程度では、商売として成功するか否かの、有効広告限界点を割るんじやないか。

植田:新興会社では、1000万円ぐらいまででは、チェーンものなら売れるようにできるが、でない限り、指名でくる商品にすることは、むずかしい。

村上:自信がある商品なら、従来のものが、小スペース、あるいは小額予算であつたからつて、それにならう必要はないよ。大いに、うつて出るべきだと思うな。

植田:大体、従来のものは、あまり、きかないという定評があるから、これをくつがえすような方式でやらなければならない。

椎橋:完全にきく水虫の薬ができたら世界的発見だがな。

吉田:そんなのができたら、商売にならんことになるな。その翌年からは。(笑声)

村上:それが、人類の保険に奉仕するものとしての、理想なんだがな。

久保田:企業体としての理想とは食い違うわけなんだな。まあ、心配しなさんな。そういう薬ができたら、また、それに、うち勝つサイキンが出てくる。(笑声)

村上:まあ、あまり心配せずに、われわれは、宣伝のことだけ考えるとしましようかな。(笑声)

久保田:そうだな。それでは、各月へのウエイトの問題を、そろそろ結論を出してもらいたいんだがな。

椎橋:じや、ボクの具体案を出そう。大体、4月は15日すぎからやることにするから、原案のような予算は必要はない。4月分としては、原案5月分の178万円から北海道分17万円を引いて160万円くらいを当てる。5月には、原案4月の312万から同じく北海道をとつた295万くらいを当てる。つまり、北海道をとつて、原案の4月と5月とを入れかえたわけだ。6月は、原案の8月分311万をもつてくる。7月は、原案のまま。8月には、原案の6月分をもつてくる。つまり、6月、8月も、原案のを入れかえたわけだ。そこで、最初、4、5月から除いた北海道分が残るのだが、この額、36万円は、予備費としてとつておく。そして、各地の販売情勢に応じて、地方紙に使うなり、臨機の処置をとる、というのですが、どうでしょう。

久保田:皆さん、どうですかな。この案は、そうとう、考えられていると思うが、金額割りは、これでよいとしても、媒体の採りあげかたは、どうだろう。

ことしは水虫くすり決戦の年

土屋:椎橋君が、北海道をとるのは涼しいからか。

椎橋:そう。水虫発生が九州などより遅れるし、また、発生数も少い。

土屋:ボクの聞いたところでは、北海道、東北は、水虫にかかる人が少いといつてもそれが、ひどく少いということだ。つまり、われわれが、常識としている以上に少いというんだね。そこでね、ある権威のいうには、東北、北海道は、広告は、全然、やらんでもいいとのことなんだが、どうだろう。その分を、東京とか大阪とか、大都市にかけた方が賢明ではないのか。

村上:大都市中心でやるべき商品であることは、まちがいない。

久保田:北海道、東北は、全部とるという御意見については、どうですか。

椎橋:全部は、とれない。たいていのメーカーは、北海道に、支店、出張所がある。そういう舞台で、全然、広告をやらんということは、よくない。問屋も、文句を言うかもしれない。

土屋:問屋さんへは、東京以西、九州方面に重点をおくから、あしからず御了承願います、と頼めばいい。

植田:北海道では、全然、売らないことにして、品を、回さないようにすることもできる。

吉田:北海道は、全部、とつてもいいな。

奥田:大都市中心主義ということを、根本的態度とするのだな。

久保田:大都市中心、温暖地方優先といつた方針でゆくんだな。

椎橋:その原則には賛成だ。

土屋:東京、大阪、九州、こういう順で、ねらえば、よかろう。50万コという数字は、そう消化困難なものではないと思う。

椎橋:一昨年までは、20万コ売れた水虫薬はなかった。去年、大宣伝をやつて、やつと40万コ売れたのや、60万コ売れたのが出てきた。

植田:ことしは、決戦か。

久保田:去年の広告投資が、ことし生きないという説には、全面的には、賛成できないんだが、どうだろう。

土屋:去年、その薬でなおった人が、口宣伝してくれる場合が、いくらか、あるだろう。

村上:全然、生きないということはないが、まあ、受けつがれるものは半分くらいかな。

土居川:半分以下ですよ。まあ、そういうのは、あまり、アテにはしない方がいいでしようね。

奥田:菌の種類が30くらいもあつてね。なおる人もあるが、なおらない人も多い。なおらなかつた人に、口宣伝の期待をかけるわけにはいかない。期待をかけなくても、口宣伝する人もあるが、なおらなかつた人々のやるそれは、逆効果となろう。

土屋:違つた薬を、つぎつぎと、いろいろ使うのがいいとも言われているな。そういうことは、これから割りこむ新製品としては、いい条件なんだ。

次ページ 「編成コンナンな水虫ぐすり5月度宣伝予算」へ続く


※記事内には具体的な広告媒体名や金額なども出てきますが、1954年当時の記事をそのまま使用しています。当時の広告業界の価格帯、媒体事情を基にした議論、数値である旨、ご理解ください。


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