言葉が立ち上がるそのプロセスをさらにまた言葉にすることにこれほど成功した文章がほかにあるでしょうか。整理されたコピーやプランニングのハウツー本はあれど、それを読んでも料理のレシピのようにはすぐうまく作れないのがコピーであります。著者もそのことを誰よりも理解し、だからこそ「心構え」を書いています。言ってしまえば書き方なんてこの本のどこにも書いていない。だけど不思議です。この本を読むとコピーが書ける。そして、なぜだろう。楽しくなる。書いてみようという気になる。自分のやっていることが、仕事が、とても意義深いことだと思わせてくれる。自信をくれる。そういう本であります。それは時に著者が自身に言っている言葉のようにも感じますし、応援してるからもっと頑張るんだとこちらに言っているようです。
言葉からの自由。
三島邦彦さんのいる時代にコピーライターとして生きていられて良かったなと思います。本書で語られているように三島さんにはたしかに信じるものがあり、書くことへの愛情や喜び、希望、そして怒りがあって、白紙を前にもがく弱さがあり、それは同時に途方もない強さでもある。大先輩に対して「弱さ」とは失礼かもしれませんが、それでも弱さを感じられない人間などいいコピーなんて書けるわけがないというのもまた真実でしょう。三島さんみたいになれたらと思います。幸いその手立ての一つはもう見えていて、まず三島さんの言葉を、この本を読めばいい。信じたいことを信じている人を、信じていたい。今この世界で一緒に「書く」という行為を共有できることが嬉しく思います。それはこの本の読者の方々に対しても思うことです。
このやわらかな小さな緑の本をとなりに置くことで、書くという孤独から少しだけ解放された心地がします。
『言葉からの自由 コピーライターの思考と視点』
三島邦彦著
定価:2200円(税込み)
この本に書かれているのは、「コピーライター」という名刺を持った日から現在に至るまで、「コピーライティング」について三島氏が考え、実践してきた数々の「思考のかけら」。「言葉を考える」「言葉を読む」「言葉を書く」「そして、言葉を考える」という4つの章から構成されています。これらについて、三島氏は日頃考えていることを惜しみなく書き綴りました。しかし、そこに書かれているのは、コピーライティングの作法でも手法でもありません。さらに言うならば、書き方の技術でもありません。コピーライターとして16年のキャリアを積んだ現在の三島氏ならではのフォーム、そして言葉に向かうときの心構えです