プログラミングは多少できたが、かんたんなクソゲーしかつくったことがなかった。ボールの運動・衝突・慣性・重力の計算式がまったくわからなかった。こちとら私立文系・しかも偏差値37からのビリギャルである(この話はまた後日)。
しかも、バナー広告には細かなルールが厳格に決まっており、たとえば使えるデータ容量が20KBしかなかった。20KBというのは、普段みんなが写メしているデータが2.6MBほどなので、その130分の1である。絵素材も、非常に軽量に作られていたが、画像データをFlashに配置したところですでに17KBだった。
使えるスクリプトの、命令の種類も限られていたが、これはもう無視させてもらった。衝突判定の命令などがすべてNGになっていたので、ルールに従っていると、そもそもゲームなんかつくれなかったからだ。
「すみませんやっぱできませんでした」とは死んでも言えない。
レゾンデートルが崩壊してしまう。
上司の取り計らいで、なんとか〆切は伸ばしてもらった。
ここから先をあまり覚えていないのだが、2週間かけて、んもう死に物狂いで、なんとか形にした。分厚いFlashの教則本を片手に。物理をもう一度勉強することは不可能だったので、とりあえずボールの物理運動は、かけ算と割り算による「なんちゃって物理」で誤魔化した。もう少し規模の大きいコンテンツになると、途端に破綻するタイプ。
足りない容量は、「インスタンス」といって、同じ形をしている絵素材を複製させたり、鏡面のように反転することで、17KB→13KBまで削れた。7KBぶんプログラミングできたというわけだ。
いったん検品に出した。
ピンボールゲームとしてきちんと動作している(かろうじて……)バナー広告のデータを見て、ヤフー側でも規制の調整をしてくれた。
本来、Web媒体の中でヤフーはもっとも厳格だ。実際、「認可されていない命令をはじく」ための入稿チェックツールにかけたところ、このプログラムだけで1,600回「禁止された命令」を使っていた。
しかし、おそらく根性で作ったゲームを見て「面白そうだし、完成度高く作られているから、通す言い訳を考えてやるか」と検討してくれたのだろう。「これはページごとスポンサードの特別なバナー広告枠だから、特別なレギュレーションでやりましょう」と規制を緩くして、掲載を許可してくれた。
とりあえず納品できた。
何徹もしていたぼくは、安堵して発泡酒を飲みながら泥のように眠りについた。
1カ月後。