この本を読まない、という選択肢について―『広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉』によせて(福里真一)

かつて「吉田学校」という言葉があった。戦後の名宰相と言われた吉田茂氏のもとから、池田勇人、佐藤栄作両氏をはじめ、その後日本を動かすことになる、多くの政治家や官僚が育ったことを意味する言葉だった。「ジャンボ軍団」という呼び名もあった。名ゴルファージャンボ尾崎こと尾崎将司氏のもとから、尾崎直道、飯合肇両選手をはじめ名選手が多数輩出したことを意味していた。「野村再生工場」という言葉もあった。プロ野球界において、他球団で戦力外と判断された選手たちが、野村克也監督のもとで次々と復活を遂げたことを表現していた…。

そしていま、広告界でひそかにささやかれつつある、「谷山クラス出身」という言葉…。宣伝会議で名コピーライター谷山雅計さんが主宰する専門クラス、通称「谷山クラス」出身者の中から、広告界で活躍するクリエイターが続出していることを意味する言葉だ。事実、谷山クラス出身者からは、毎年のように複数名が「TCC新人賞」を受賞。さらには、いま一番いけてる仕事をしているあのCMプランナーも、あのコピーライターも、実は谷山クラス出身、というおそるべき事態が進んでいるのだ。

そんな「谷山クラス」において学べることのエッセンスが、谷山クラスに通わずして学べる本。それこそがこの、『広告コピーってこう書くんだ!読本』なのである。いわばこの本を読んだすべてのコピーライターが「谷山クラス出身」。そう考えると、広告界における「谷山クラス出身」の勢力は、自民党の旧安倍派などとは比較にならない大勢力になっている。およそコピーライターを目指したり、いまよりももっといいコピーライターになりたいと思っている人で、この本を読まない、という選択肢はあり得るのだろうか?

この本には、コピーを書く上でのいくつもの大事なポイントが書かれているが、その中でも最重要と思われるのが、「コピーは描写じゃない、解決である」。これは谷山さんの一貫した主張である。が、もしかして、「コピーは解決」であることぐらいは、どこかで聞いたことがある、それぐらいは知っている、と思った方もいるのではないだろうか。しかし、この本が書かれた17年前の時点で、そのことをはっきり主張していたのは、谷山さんだけなのだ。


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