黒須美彦×長久允「黒須さんのCMと現場は、まさに『映像の学校』でした」

「ここから来たか!」と驚かされる長久さんの企画案

長久:黒須さん、最近映像や音楽で気になったものってありますか。僕は最近、音楽家の窓辺リカさんの歌にはまっています。初音ミクを採用したものや、歌詞が素晴らしくて。それから、今年のR-1グランプリのトンツカタン・お抹茶さんの「かりんとうの車」の歌。

黒須:かりんとうの車?

長久:かりんとうの車にずっと乗っている…という人の歌なんですが、雨が降るからかりんとうが溶けちゃう。ワイパーはない…という。

黒須:それ、無意味でいいですね。

長久:「お風呂で考えました」みたいな歌を、人生がかかっている勝負の大会で歌って戦っているかと思うと、すごくしびれるんです。

黒須:最近話題になったドラマ『不適切にもほどがある』を見ていたのですが、最初はそんなに好きじゃなかったんです。でも、河合優実さんの目つきと存在とセリフが素晴らしくて、どんどん引き込まれました。ダメな父親をちょっと愛しながらも、どこかでバカにしている、あの目線が本当によかったですね。ご本人のキャラクターももちろんいいんだけど、やはり脚本の力も大きいのかな。

長久:ちなみに最近のCMはどうですか。

黒須:どうなんだろう…。問題解決型というのか、サービス名を連呼する、ちょっとうるさいCMが増えたような気がします。商品名を連呼するCMって昔から存在するのですが、いまのCMは本当にただ連呼しているだけで…。昨年リメイクされましたが、佐藤雅彦さんがつくった湖池屋「スコーン」なんて、ずっと商品名を連呼しているけど、リズムがあるから見ていて絶対にいやな気持ちにならないでしょう?そういう違いがあるんですよね。

長久:そういえば、佐藤雅彦さんがいま所属している映像チーム5月で、BEAMSのWebムービーをつくったり、NHKのドラマを演出なさっていたり、あらためて注目しています。BEAMSにしても、NHKのドラマにしても、佐藤さんはいまだに映像の思考実験をしている。それがすごいなと思いました。

黒須:CMもかつてはいろんな方向で試行錯誤して、時には映像の実験もできたけれど。最近はなかなか難しい。

長久:同じ佐藤で言えば、佐藤雄介くんは僕の同期で、一時期二人でプランナーユニットを組んで、カンヌのヤングライオンに挑戦したりしていました。彼は、日芸(日本大学藝術学部)で黒須さんの教え子なんですよね?

黒須:そうなんです。佐藤くんと長久くんは同じプランナーですが、企画の作り方とか、全然違いますよね。佐藤くんはCMの目標に向かって、最短距離のアイデアをビシッと提示する。長久君のアプローチの仕方は、他の人とは全然違っての意外性だらけ。あっちもこっちも「お。そこからかい!」と驚かされるんです。

長久:僕はいつもあちこちにいって収束できないんですよね。以前に、佐藤くんと一緒にプレゼンしたことがあるのですが、僕の企画はちょっと意味不明で影があるから、確実にメジャー感のある佐藤くんの案が通っていく……(笑)。

黒須:長久くんの企画は確かに散らかっていて、収束はしていないかもしれないけれど。でも、決して悪い意味じゃないんです。この表現コンセプトなのに「そこを掘るのか」というのもあれば、テーマのはるか裏側のような世界で漂うものもある。でも、ポンっと商品を置けば、意外と相対的にまとまってみたりする。散らかりというか、長久くんのA案B案C案は全く違う方向になっているから、いつも楽しみなんです。

長久:先日も脚本を書いて海外でプレゼンしたのですが、「企画書はストロングだと思っていたけれど、脚本を見たら支離滅裂すぎてご一緒できません」という返事が…(笑)。本当に散らかっているんですよ、もうそれは性分だから仕方がないなと思ってます。

黒須:それは長久くんの頭の中のフィールドの散らかりだから、きっとどこかでまとまったりするんですよ。それに長久くんの映画を観ると、いろんな発露があるというか、仕掛けがあるのはすごいなと感心します。おそらく骨子やプロットを見ても、そこはなかなか理解できないんでしょうね。

長久:脚本読んでも分からない、とよく言われるので、僕は映画を撮る前に自分でまるまるVコンつくるんです。それも、黒須さんの元でVコンつくっていた経験が活きています。スタッフで全部セリフを話して、現場では役者さんにVコン通りに読んでもらってはめていくだけという。

黒須:Vコンの絵は自分で描いたコンテ?

長久:最初は全部自分でコンテを描いていたのですが、『そうして私たちは~』からロケハンのときに全部iPhoneで撮って、カット割したものをつないでつくっています。でも、それをやることで無駄を省けたり、撮影しなくていいものやつくらなくてもいい美術とかもわかるようになって、予算を押さえることができたり。ジャッジが早く、明確になりました。

『そうして私たちはプールに金魚を、』予告編

黒須:いま一緒に仕事をしているディレクターの皆さんもVコンつくっているけど、検証用だから僕にはあまり見せてくれない。

長久:それは黒須さんに見せると、いろいろ始まっちゃうからですよ。

黒須:ディレクターチームが検証してくれているから、もちろんお任せしてるんだけど、ちょっと見たい気持ちはあるんですよね(笑)。


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