黒須美彦×長久允「黒須さんのCMと現場は、まさに『映像の学校』でした」

黒須:それにしても長久くんのいまの立ち位置は面白いよね。電通にいながら脚本家と映画監督をやって、旧世代的なCMやグラフィックとは違うコンテンツ領域を切り拓いている。

長久:今の立ち位置で監督業をやらせてもらっていることで自分自身が安定するので、作品により没頭して、クオリティを上げていくことができると感じています。ちなみに黒須さん、僕が演出したGUCCIの「KAGUYA」見てくれました?

黒須:あ、まだです。

「Kaguya by Gucci」で、長久さんは2023年ACC賞フィルムクラフト部門監督賞を受賞。

長久:これは75周年を迎えたGUCCIの「バンブーハンドルバッグ」のショートフィルムなんです。曲は渋谷慶一郎さんが、歌詞は僕とAIの共作でつくりました。美術は霊柩車をモチーフにした作品などをつくっている美術作家の江頭誠さん。映像の一部は、ゲーミングCG作家の浮舌大輔さんにお願いしています。久しぶりに広告らしい映像をつくりました。これはうれしいことに、売上にも貢献できたと聞いています。

黒須:きちんと商品が動いたというのは素晴らしいことです。映像を見て商品が動くというのは、やはり心に触れるものがある、ということだから。長久くんの映像を見ると毎回思うんだけど、全カット楽しみながらつくっていますよね。そして、こういう映像が好きなんだなーというのがよくわかります。

長久:そうですね。僕はとにかく映像と言葉が大好きで、脚本を書くのも好きで、時間があればずーっと書いていますね。いま7本くらい書いていて、それ以外にも長編のアンビルド脚本がたくさんあります。

黒須:本でも紹介しているけど、かつて山内ケンジさんでこんなことがあったんです。ある企画会議で、山内さんが「できた!」と言うから、「何?」と聞いたら、「ストーリーもキャストも全部頭の中でできて、MAまで終わったから、これでもうつくらなくていい」って(笑)。さすがにすごいなと思ったけれど、長久くんはアンビルドにしておかないで、つくったほうがいいよね。

長久:そうですね。長編映画をきちんとつくれる人生でありたいなと思っています。

黒須:今年は何か公開されるんですか。

長久:AppleTVで配信されるA24制作の海外ドラマのエピソードの1話を演出したのですが、それが7月から全世界で配信されます。そのドラマの舞台が京都で、アメリカやオーストラリアの監督が来日して撮影していたので、現場を見学させてもらったんです。日本で映像の話をすると、すぐ「ハリウッドが…」と言われがちですが、僕が見た感じでは日本の現場は全然負けていない。現場を見て、自分たちのやっていることに自信がつきました。

7月からApple TVで放映となるドラマ「Sunny」、長久さんが演出したエピソード9より。

黒須:2023年に公開された『蟹から生まれたピスコの恋』では、サンダンス映画祭 短編部門の監督賞を受賞したんですよね。

『蟹から生まれたピスコの恋』予告。本作で、長久さんは第40回サンダンス映画祭の短編部門にて最優秀監督賞を受賞。

長久:はい。この作品はテレビ朝日のバラエティ番組「トゲトゲTV」の「短編映画をつくってみよう」という企画に呼ばれて製作したのですが、120%の本気を出してつくって良かったと思っています。

黒須:サンダンスでの受賞は3回目?

長久:『そうして私たちはプールに金魚を、』『WE ARE LITTLE ZOMBIES』に続いて3回目です。いまアメリカのCAAともマネジメント契約していて、そこ経由でプレゼンを行っています。

黒須:なんかうれしいですね。長久くんがCMを超えて、これまでと違うところに行っているのが。もっといろんなところに行ってほしい。

長久:日本でもいろいろとつくりたいのはもちろんですが、こういう賞をきっかけに海外でのものづくりにもう一歩踏み出していけたらいいなと思っています。

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黒須美彦

1975年慶應義塾大学工学部卒業後、博報堂入社。PlayStasion、カゴメ、資生堂など数々のCM仕事を経て、2003年に佐々木宏氏らが設立したシンガタに参加。2018年独立して、クロロス設立。サントリー/金麦・金麦のオフ・-196℃ストロングゼロ、明光義塾/YDK・サボロー、NTTdocomo/ドコモダケ、AEON/Singing AEON(山口智子)・お客さま感謝デー(武井咲)・AEON CARD(蒼井優)、ローソン/それいけ!ローソン物語、ロッテ/小梅・ガーナチョコレート・ザッカル・ヨーグルト100他、日本テレビ/日テレちん、ディー・エヌ・エー/いい大人のモバゲー、WOWOW/いいものゴロゴロ、森永製菓/ダース・inゼリーなどを手がける。カンヌライオンズ銀賞ほか受賞多数。

長久允

電通 コンテンツビジネス・デザイン・センター 映画監督
1984年生まれ、東京都出身。2017年、監督作品「そうして私たちはプールに金魚を、」がサンダンス国際映画祭で日本人初短編部門グランプリを受賞。受賞歴にTCC新人賞、OCC最高新人賞、カンヌライオンズヤングライオンFILM部門メダリスト他。代表作に長編映画「WE ARE LITTLE ZOMBIES」、「デスデイズ」、WOWOWオリジナルドラマ「FM999」、「オレは死んじまったゼ!」(柳楽優弥主演)、GUCCIによる短編映画「Kaguya By Gucci」、羊文学「FOOL」MV など。脚本家、舞台の演出家としても活動している。

『門外不出のプロの技に学ぶ 映像と企画のひきだし』
黒須美彦著
定価 2,530円(税込み)

サントリー、PlayStationなど話題のCMに数多く携わり、現在も活躍中のクリエイティブディレクター 黒須美彦氏。本書では、自身がかかわってきたCMの企画や制作方法を中心に、広告などコミュニケーションの仕事に携わる人が知っておくべき基礎にも触れています。また、時代の空気や感覚をどのようにつかみ、それを企画に活かしていくのか、黒須氏ならではのテクニックも明かします。CMはもちろん、オンライン動画など、映像コンテンツをつくる人にとって、また広告やコミュニケーションにの企画に携わる人にとって教科書となる1冊です。

 

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