デザイナーのゴールは「デザインをすること」ではない

人をマネジメントするより、企画を1つでも多く

──2023年からは、Head of Creativeとしてチームを率いています。

カオナビのデザイン組織は3つあります。ブランドデザインチーム、プロダクトデザインチーム、マーケティングデザインチームです。各チームはその役割にふさわしい部署に設置されていて、僕がリーダーを務めるブランドデザインチームはコミュニケーションデザイン室の中にあります。コミュニケーションデザイン室は、ブランドデザインチームと広報チームからなる部署。その役割は「全てのステークホルダーにファンを作ることをミッションに掲げ、カオナビブランドの思想を具現化すること」です。

ブランドデザインチームは6人のチームで、クリエイティブディレクターである僕、そしてプランナー、コピーライター、アートディレクター、制作ディレクターが在籍しています。つまり小さなクリエイティブブティックのように、プランニングから実行までトータルでできる組織です。

ただ、僕はこのチームのリーダーですが、実はメンバーの評価はしていないんですよ。

──どういうことでしょうか?

自分がクリエイティブディレクターとして価値を発揮できるポイントは、メンバーのマネジメントよりも、企画力や推進力だと思っているんです。メンバーも経験と実績を積んできた人たちですから、みんな自走していますしね。会社として必要な人事評価はコミュニケーションデザイン室長でもある執行役員に預け、僕はクリエイティブの仕事に時間を使っています。

──すごい。キャリアコンサルタントの仕事をしていると、クリエイターが事業会社に入った後、管理業務が忙しくてクリエイティブに没頭できないという話も耳にします。カオナビは、長谷川さんのスペシャリティを最大限活かせる組織になっているのですね。

わがままを言って、執行役員やいろんな人に迷惑をかけているので、あまり堂々と言える話ではありませんが…。ヘッドという肩書がある方が、社内外に対して影響力を持てる。でも、リソースはできる限り企画に使いたい。そういう僕の考えを会社が理解してくれて、このような形になっています。

──長谷川さんのチームは、どのようなプロジェクトにかかわるのですか?

「デザイン」を広くとらえ、社内のさまざまな課題にアプローチしています。コーポレートブランディングをはじめ、インナーブランディングや新規事業のブランディングに取り組んでいます。他のデザインチームと連携して、テレビCMやDM、営業ツールのコピーをつくることもありますし、ユニークなものでは、全社総会や部活動などの社内コミュニケーション施策、自社オリジナルの研修などもデザインします。

──「経営陣がクリエイティブに期待している」というお話が出ました。そういったアプローチを会社が長谷川さんに求めたのでしょうか?

というよりは、自分たちがやるべきだと思ったことを提案しています。もちろん、トップダウンでオーダーがくることもありますが。また、「こういうことをやりたいんだけど、どうしたらいいと思う?」と、ふわっと相談されることもあります。最近は重要プロジェクトが動くときは僕らがアサインされるようになってきました。切り札のように使ってもらえています。

──長谷川さんの企画書は図解もユニークですし、すごくわかりやすいと感じます。自主的な提案も多いとのことですが、経営陣に納得してもらうために、試行錯誤されたのでしょうか。

せっかく生み出したアイデアを、意図を理解されずに捨てられるのがイヤなんです。だから、一発でわかってもらうために、相手が知識ゼロでも100パーセント伝わるように資料を設計しないといけないなと。伝わらないのは、伝える側の問題だと僕は思います。「伝わってくれ!」じゃなくて、受け取り手のことを考えて、伝えにいかなくちゃいけない。

そう思うようになったのは、外資広告会社でグローバルの仕事をしていたときでした。クライアントのなかで企画書が独り歩きすることがすごく多くて。僕たちが直接、企画を説明した担当者はその良さを理解してくれたのに、企画書だけを見たその上司や経営層にはじかれてしまい、悔しい思いをしたことが何度かありました。

だから、伝える努力には、これからもちゃんと汗をかいていこうと思っています。

それに、僕が20代のころに師事していたアートディレクターの永井一史さんに言われていたんです。「いいデザインをつくるのは当たり前だ。それを人々に届けて、興味をもってもらうところまでを設計できるデザイナーになろう」と。

──そのためにはどんなスキルが必要でしょうか。

キャリアについて考えるとき、適性をスペシャリストとゼネラリストに分けて考えることがあります。クリエイターは多くの場合、スペシャリストに分類される。でも、商業クリエイターは、両方の特性を持っているべきだと思います。

商業クリエイターこそ良いモノをつくるには広い知見が必要ですし、チームで制作をしますから、コミュニケーション能力が欠かせません。推進力、決断力がないとプロジェクトは頓挫してしまう。デザインを細部まで突き詰める、一種の近視眼的に見る力と、組織やプロジェクト、社会という大局を見る力をうまく使い分けながらやっていく。「ゼネラリストマインドをもったスペシャリスト」こそ、今求められる商業クリエイター像だと思います。永井さんが言っていた「デザインすることがゴールではない」という意味が、ここへ来てすごくよくわかったような気がするんです。

──最近は、クリエイティブのインハウス化が進み、広告業界から事業会社へ活躍の場を移すクリエイターも増えています。その一人である長谷川さんが、水を得た魚のように生き生きとクリエイティブに取り組めているのは、まさに、ゼネラリストマインドを持ち合わせているからだったのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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荒川 直哉
マスメディアン 取締役
国家資格キャリアコンサルタント

マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名を超える方の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。


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荒川 直哉(マスメディアン 取締役 国家資格キャリアコンサルタント)
荒川 直哉(マスメディアン 取締役 国家資格キャリアコンサルタント)

マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名を超える方の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。

荒川 直哉(マスメディアン 取締役 国家資格キャリアコンサルタント)

マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名を超える方の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。

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