映画『笑いのカイブツ』は、死相が出るほどの過酷な撮影だった(岡山天音)【前編】

『笑いのカイブツ』は笑いに取りつかれた男の一代記

中村:2024年の1月に、天音さんが主演を務める映画『笑いのカイブツ』が公開されまして(監督:滝本憲吾)。

これは伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキさんの私小説というかほぼ実話である『笑いのカイブツ』(2017年、文藝春秋)という作品が原作とのことなんですが、改めてどんなお話なのか、天音さんから説明していただけますか。

岡山:一言で言ってしまうと、笑いに取りつかれた男の一代記ですね。実際に原作者のツチヤタカユキさんもそうだったらしいんですけど、5秒に1本、1日起きてる間はネタを書き続けるっていうノルマを自分に設けて、ひたすらネタを生産し、当時あった大喜利番組にそれを投稿し、採用されていくごとに自分の番組内での位みたいなものが上がっていくんですけど、登り詰めていくところからお話が始まります。

彼は…何というか、人類とディスコミュニケーションというか、うまいこと自分以外の他者と繋がれないモビルスーツで生まれてきてしまった男なんですよ。そこでお笑いに全振りして、何とか社会と接点を見出そうとする。そうして必死に生きていた男のある一時期を描いた作品ですね。

『笑いのカイブツ』予告編

中村:ありがとうございます。そうですね、このツチヤタカユキさんっていう構成作家さんがあまりにもネタに対してピュアで、それゆえに人間関係がうまくいかないという半生と苦悶を描いたものすごい熱い映画だなと中村も感じたんですけど、初めて原作を読んだときの印象って覚えてますか。

岡山:もう数年前になってしまって、かつ今作に関してはそこからの過程がもうとにかく濃かったので、ファーストインプレッションのイメージはおぼろげなんですけど、実在する方の、ほぼ実話のようなお話で、ツチヤさんってラジオの放送作家をやられてた時期もあって、僕そのラジオのリスナーだったので、彼の存在は知ってたんですよね。ただこんなマグマだとは思っていなくて。原作を読んだときはどう映像のエンタメにするのか未知数なところがあって、楽しみでありつつ、これからこのカイブツと格闘していかなければならないのかって怯む気持ちも若干あったと思いますね。

権八:実在する人だってところがやっぱり面白い。これはもともとcakesでの連載ですよね。

岡山:そうです。

中村:あ、そうなんだ!

権八:本当にラジオリスナーの方たちからすると、「あ、あの人のことだ」みたいな。ラジオリスナーの間で有名だったり、あるいは「大喜利番組とかで優勝してた人だ」となったり。実際に起こっていることにすごい近くて、ちょっとパラレルワールド的というか、映画を見てるとみんなよく知ってるあの人があの俳優さんで…とか、これはあのことなのかな…という楽しみ方もできますよね。現実と重なっていくのが面白いんですよね。

中村:昔の史実のドキュメンタリー映画とかはありますけど、わりと最近でみんな生きてて、みんなトレースできる映画ってなかなかないですよね。

権八:そうそうそう。

岡山:確かに。

権八:その面白みが他にはない魅力というか、フィクションなんだけどノンフィクションっていうか。

岡山:そうですね。

権八:そう。なんか不思議なね。


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