購買起点でのテレデジ広告統合運用はどこまでできる?「データクリーンルーム」で加速する、新たな連携の形

デジタルからテレビをはじめとするマスメディア、さらには店頭行動までがデータで一本につながるようになったことで、メディア投資戦略にイノベーションを起こすような新たな取り組みが始まっています。本連載では、企業・メディア・広告会社に多面的な取材を行う中で、マーケティング・コミュニケーションの未来を探っていきます。今回は、楽天グループSenior Managerの深田淳氏、博報堂DYメディアパートナーズ 統合アカウントプロデュース局AaaSアカウント推進一部部長の佐々井美嘉氏の対談を通じ、データ・テクノロジーの活用がもたらすマーケティングの進化、その最前線を導き出していきます。
写真 人物 楽天グループ 市場広告部 広告運用課 シニアマネージャー 深田 淳氏、博報堂DYメディアパートナーズ 総合アカウントプロデュース局 AaaSアカウント推進一部 部長 佐々井 美嘉氏
左から)楽天グループ 市場広告部 広告運用課 シニアマネージャー 深田 淳氏、博報堂DYメディアパートナーズ 総合アカウントプロデュース局 AaaSアカウント推進一部 部長 佐々井 美嘉氏

購買に至るまでの複雑な行動を切り分けて可視化していく

――クライアント企業のマーケティング活動のニーズとして感じていることは何ですか。

深田:広告効果のより精緻な可視化が求められていることだと思います。私は楽天の中で、主に楽天市場の広告事業にかかわっています。もともと私たちが提供する広告商品は、国内だけで1億を超える楽天IDユーザーの方々に、楽天の多様なサービス群を活用いただくなかで蓄積される消費行動分析データをもとにした精緻なターゲティングに強みを持っていました。

この強みは今も様々な業種のクライアントに評価いただいていますが、ターゲティングした広告配信を行った後の広告効果はどうだったのか、購買にどのような影響を及ぼしたのかをより精緻に可視化することを求める声が強くなってきています。

佐々井:私は様々な業種のクライアントとお付き合いしていますが、ニーズとしては2つのパターンがあると捉えています。ひとつ目は広告が売上に与える影響、つまりは投資対効果のみを抽出して理解したいというパターン。2つ目は「出稿によって棚が取れる」など、売上以外の副次的な効果も含めて広告投資の意思決定をしているパターンです。どちらのパターンにも共通して言えることは、オフライン・オンラインにかかわらず、実購買をKPIにしたいという要望が強まっていることだと感じています。

深田:商品の売上には広告以外の多様な要素が関わってきますが、そこを分解していって「これだけの効果が出た」「今はこういう状態である」と可視化をしていく必要があります。私たちには、購買以前の行動を可視化できる楽天インサイトというマーケティングリサーチ会社もありますので、そことも連携し、オンライン・オフラインの垣根を越えて、どこにどれぐらいのポテンシャルのお客さまが滞在しているか、がわかるようなソリューションをつくっていきたいです。

佐々井:「購買に対する広告の効果を可視化してほしい」「効果の可視化をもとに購買起点の広告予算最適化を実現したい」というニーズが増している一方、価格や棚の位置など、複数の要因が絡まって購買に至っていることもあるので、そこの切り分けが難しいですよね。特に低関与商材に関しては、店頭だと非計画な購買行動が発生するため、クライアントからも「購買意向が上がっているのに、売上が増えていない」、あるいは逆に「購買意向は変わらないのに、キャンペーンのときに売上が上がった」といったお話をいただくことがあります。今後は、計画購買・非計画購買の層や、オフライン・オンラインで買い物する人をどう定義して戦略をつくっていくかということが重要になっていくと思われます。

深田:購買にはいくつもの要因が複雑に絡んでいるので、単発のキャンペーンで終わってしまうと知見が貯まらず、もったいないなと感じています。各回の結果を分析し、知見を生かしながら、長期的視野でのプラニングが実現できればと考えています。

――楽天グループと博報堂DYホールディングスのジョイントベンチャーである「楽天データソリューションズ」の設立を通じて、購買データを活用し、購買起点の広告メディアプラニングも提案していると聞きました。

深田:広告投資効果の可視化の精緻化に資する必要なデータアセット自体はすでに保有していたのですが、その価値をクライアントへ直接届けるところに困難がありました。そんな時、博報堂DYグループさんに「楽天のデータアセットがあれば、こんなことができる」と活用していただける形になったのは良かったですね。

また、ステークホルダーが多いこともデータ連携の妨げになっていたのですが、「データクリーンルーム」といった個人情報を保護し、異なる企業間でデータを安全に共有するための環境ができあがったことで、ようやくメディア接触と購買をつなぐという構想を実現できるようになってきました。

佐々井:楽天グループとの共同の取り組みの中では、購買起点でテレデジ横断の統合運用を可能にするTele-Digi AaaS for Purchase※というソリューションも開発しました。オンライン・オフラインでの購買をテレビ・デジタルのデータと掛け合わせることで、人・行動・結果の詳細を明らかにすることが、できるようになりました。

深田:購買している人が明らかになったことで次のアクションやキャンペーンにつながる提案ができるようになっていくと考えています。将来的には、短期的な投資対効果指標であるROASではなく、長期的なLTVに近いモデルを目指していきたいです。

佐々井:データの充実と技術進歩によって、「購買意向があるか、ないか」から始まって、「買う頻度」であったり、「買ったのは誰か」であったり、「どこで買ったのか」など、分けようと思ったらいくらでも細かく分けることができるようになりました。しかし、細かいターゲティングによる可視化が最終目的ではなくて、「それらを用いて、次のキャンペーンにつながるヒントを導き出すことがバリューである」ということは念頭に置いておく必要があると思っています。

――今後は、どのような価値をクライアントに向けて提供していきたいと思いますか。

深田:楽天グループが持つ、「楽天エコシステム(経済圏)」という基盤を生かしたソリューションを構築していきたいですね。楽天市場でやっている販売施策と、ブランド宣伝でやっている施策などがシームレスにつながり高い効果が実感できるようなプラットフォームにしていければと思います。

佐々井:今回の2社との協力で生まれたものを十分生かせるようにしていきたいですね。例えば、一貫性を持ってPDCAサイクルを最後まで回せるようなプランニングフローを実現したり、その上で、広告だけにとどまらず、棚を取っていくだとか、店頭施策であるとか、立体性を上げていけるようなプランニングができればと思います。

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編集協力:博報堂DYメディアパートナーズ


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