小売とメーカーが協力して課題に向き合う
――望月さんは小売の立場でトレードマーケティングについてどう考えていますか。
望月:今はテクノロジーも進化し、トレードマーケティングの世界は広がっているので、今だからできることにチャレンジしたいですね。
小売とメーカーの関係も変わりつつあります。例えば食料品については、少子高齢化と人口減少によってマーケットが縮小せざるを得ない状況です。そうした課題に対して、カテゴリーのくくり方から見直してマーケットを大きくしようとか、隣接するカテゴリーを育てていこうといった発想で、メーカーと一緒に取り組んでいく姿勢が必要です。
既存のマーケットでメーカーとゼロサムゲームをしても仕方がありません。そういう意味ではリテールメディアも同じで、小売もメーカーも一緒に消費者に向き合っていくために話をすることが肝なのではないでしょうか。
井本:まったくその通りですね。トレードマーケティングの手法はどんどん増えています。ただ依然として、実態は値引き、リベートが主体でメーカーがいかに納品数を増やすかをゴールとしているので、営業の現場での売り方、コミュニケーションの仕方はほとんど変わっていないという課題がありました。それがリテールメディアの登場によって、メーカーは単なる「納品最大化」を目指すのではなく、小売と同じ顧客(ショッパー)を志向し、手に取ってもらうための方法を積極的に考えるようになったのは、非常に大きな意義だと捉えています。
また、10年前と今では小売の環境もまったく違いますし、消費者も変わっています。当然、バイヤーが抱える課題、悩みや経営に対するアジェンダも変化しているので、それぞれの商品が貢献できるポイントや解決の方向性も変わるべきです。だけど、肝心の「トレードマーケティング」という概念に明確な定義がなく、こんな大きな環境変化を前にして、未だに営業の延長線上で語られるものでしかない現状を課題に感じて、本にまとめたという経緯もあります。
最近はDtoCブランドの支援を手がけることが増えていますが、消費者にとってはもちろん、小売にとっても単価やロイヤリティの高さなどでメリットがある、良い商品がたくさんあります。ですが、その自分たちの価値を小売、バイヤーにうまく伝えることができていません。
ここにトレードマーケティングの助けがあると、良い商品が適切に店頭に並ぶ世界をつくることができると思っています。これまで「営業力」みたいな属人化した話で終わっていたことを体系化して、良い商品を届ける環境づくりをできるようにすることがトレードマーケティングの本質です。望月さんが指摘した、食料品分野の市場縮小 の解決策としても機能してくれると確信しています。