【前回コラム】映画『笑いのカイブツ』は、死相が出るほどの過酷な撮影だった(岡山天音)【前編】
今回の登場人物紹介
![写真 人物 岡山天音、澤本嘉光(すぐおわパーソナリティ)、権八成裕(すぐおわパーソナリティ)中村洋基](https://cdn.advertimes.com/wp-content/uploads/2024/05/daihonn.jpg)
※本記事は2024年1月14日放送分の内容をダイジェスト収録したものです。
滝本憲吾監督は、人間を「小数点以下」の解像度で見られる人
権八:監督の滝本憲吾さんは今回(『笑いのカイブツ』)が長編デビュー?
岡山:そうですね。
権八:滝本さんって、もしかしたら会ったことあるかも。
澤本:だって、中島哲也さんの映画にいるって書いてあったから。
権八:ですよね。だからお会いしたこともあるかなって気はしつつ。ずっと助監督をされてたんですよね。中島哲也監督とか。
岡山:井筒(和幸)さんとか。もうそうそうたるメンバーの。
権八:そうですよ。怖い人たち。
岡山:そうそうたるカイブツたち。
権八:あはは。確かにカイブツだ。監督の演出はどうでした?
岡山:そもそも監督ご本人がすごくファニーな方というか、あまり出会ったことない、自分の中でジャンルにくくれないような方なんです。もともと僕も滝本さんが応援の助監督で入ってる現場でお会いしてたり、テレビドラマの監督もされているので、オーディションでお会いしたりはあって。
話した時間は一瞬でも、すごい記憶に残る方で、とにかく面白いし、人間をとても解像度高く、小数点以下のところまで見てるんだなって演出から感じますね。現実の人間の生態をフィクションに落とし込む時に大抵の人の手からはこぼれてしまう、顕在意識ではキャッチできない人間の機微まですくい上げて言語化して、演出に落とし込んでくださいます。だから彼のつける演出は、針の穴に糸を通すような感じなので難しくもありつつ、とってもゾクゾクしますね。「確かにな、人間ってそうだよな」みたいな。
でも、今回僕が演じてるツチヤは、映画の性質としても、鎖で繋がれるのではなくてとにかく暴れ回る役だったので、登場人物たちのなかでも放し飼いしてもらった感じはかなりあります。その分、周りの方にめちゃめちゃ細かく演出されてましたね。僕が暴れさせてもらう分、周りの方が細かくコントロールされたお芝居をして、バランスを取ってるというか。
権八:なるほど。
岡山:エキストラの方一人ひとりにも、すごく細かいストーリーをパスしてカメラ前に立ってもらってたので、本当に「人間のおかしみ」みたいなものが画面の隅々まで敷き詰められた作品になってると思います。
権八:この映画って、コロナの影響もあって撮影が中断したりして、もともと2018年とか2019年くらいから動いてた作品なんですよね。あの居酒屋に(松本)穂香ちゃんと菅田(将暉)くんと3人でいるシーン、すごくいいじゃないですか。あそこが結構変わったって聞いたんですけど、最初はどうだったんですか。
岡山:最初は居酒屋じゃなかったですね。あと3人でもなくて、防波堤みたいなところでの2人のシーンでした。内容は大きくは変わってないです。ツチヤが発信しているメッセージも変わってないですけど、室内でやるのか、そういう開けた場所でやるのかだと、肌に触れる空気の感じも変わってきますよね。新しい台本を見た時「あ、こうなったんだ」っていうのはありましたね。
澤本:それって初稿から結構変わってくるんですか。
岡山:結構変わっていきましたね。今回は主演ってこともあって早い段階からシナリオを読ませていただいてたのもあると思うんですけど。ラストとか物語自体はそんなに変わってなくて、でもそれをどう表現するかは台本が第何稿って段階経るごとに変わっていきました。どんなふうになるんだろうって僕も読み重ねながら思ってましたし、本当にいろんなパターンがありました。
役作りは常に「理詰め」で行っている
中村:天音さんご自身は、俳優の道に足を踏み入れたとき「俺はこの道に全フリしてやっていくぞ」って決意はあられたんですか。
岡山:めちゃめちゃありましたね。やっぱり他の周りの人と比べて、自分のなかで圧倒的に足りない何か欠落したものがあるって感覚があったんですよね。だからそこを埋めるためにも、とにかく人よりも時間を注がないといけないって強迫観念みたいなものがあって、だから遊んでる暇があったら、とにかく台本読むっていうようなことをずっとしてました。
最近はそれだけだと、自分から出てくる表現が狭くなって幅がなくなる気がして、それ以外のことをすることで自分から出てくる表現が変わってくるんじゃないかってモードに切り替わって。休みの日は遊んだりするようになったんですけど、当時はツチヤに近かったかもしれないですね。
中村:そういうときって役者のレベルはドラクエみたいに見えるわけじゃないから、高め方や経験値の積み方とかってわからないんじゃないかなとかって思って。天音さん自身はどうやって高めていらっしゃるんですか。台本読むとか、人生の経験の幅を広げるとか、そういう感じなんですかね。
岡山:でも一応、理詰めでやってはいます。じゃないと再現できなくて偶然に頼るしかなくなってしまうので、ベースはそれですかね。でも感覚でやられてる方、できてしまう方もいるんでしょうけどね。
中村:理詰め。面白いですね。
岡山:ある程度自分でよしとできる部分は毎回出したいなってやっぱり思うので、基本言語化するようにはしてますね。
澤本:映画もそうですし、ドラマもそうだと思うんですけど、最初に脚本があるじゃないですか。それを読んで「これでいこう」ってある種全部組み立てていって、1回監督にボンって出すタイプなんですか。
岡山:そうだと思います。
澤本:人によっては監督と話したりしながら作りますって人もいるじゃないですか。
岡山:現場に入る前に「たぶんこういう役だろうな」っていう、ノルマというか、タスクというか、果たさないといけない役割を掴んだら、そこから外れないなかで、役割を最大限果たすための役作りをしておきます。その上で現場に入って、監督がどんな発注をしてくれるのかなって楽しみにしつつ、それを受けて+αで自分が載せられるものを考えています。
澤本:ちょっと違っているかもですけど、受験のときに「誰々の気持ちを述べよ」とかって問題があるじゃないですか。受験のときってすごく一生懸命文章読むから、自分でそいつの気持ちになって考えたりするけど、普段何となく小説読んでるときってそこまできちんと考えて読んでないですよね。でも脚本読む時って多分その人になりきって、自分のなかで「この人はこういう人間だ」って構築して読まれてると思うから、読み方が半端ないんじゃないかなって思って。
岡山:俳優部って、台本をもらうのが一番最後じゃないですか。監督だったりプロデューサーさんだったりスタッフ陣は、0→1のときからずっと親しんできてて、それぞれの部署ごとにディスカッションを重ねて解釈を深めていってるなかで、俳優部は最後にもらう。でも表に立ってチームを代表しないといけないので、読解は頑張りますね。チームのなかで一番台本を読む力を持っていないといけない部署なんじゃないかなと昔から感じてます。
澤本:だからその力がすごい人が、演技が上手いとか言われるんじゃないかなと思うんですよね。
岡山:たしかに。
澤本さんが「この人すげえや」と感じた岡山さんの役作り
澤本:僕が書いたのに出ていただいたとき(2023年、テレビ朝日『やっぱそれ、よくないと思う。』)って、最初に監督が現場に来て岡山さんと話をしたら、「もう澤本さん、これ岡山さんの方ができてますよ」「今できてるものを最大限伸ばしていったら良くなりますね」って話をしてくれてたんです。だから書いたものについて、ちゃんと自分で解釈して、受験だと文章で書いてくるようなものを答えとして「これですか」って出してくるような回答の仕方をされる印象はあって。すごい人だなと感じてました。
この間の僕がドラマを書いたときの岡山さんは本当にそうだった。書いてるときって「こんな感じ」って思って書いてるけど、ト書きっていっぱい書くと「長い」って怒られちゃうのよ。たとえば、この人は歩くときに気持ち右足を遅めに出すって思って書いてても、それ書いてると「うるせえ」とか「それは監督の領分だ」とか言われちゃう。
岡山:難しいですよね、確かに。
澤本:それってでも監督の領分というより、実は役者さんの領分だったりもするじゃないですか。
岡山:はい。はっきり区切られてるわけじゃないですからね、そこはすごく気を遣います。
澤本:あと僕どうしても癖として台本が長くなっちゃうんで、「削れ削れ」と言われて削るんですよ。それをポンと持って行ったときに、これで書いたときの気持ちってどれくらい伝わるもんかなと思ってたら、すごいわかってくれてて「この人すげえや」って。
岡山:いやいやいや。
澤本:お世辞じゃなくてそう思った。で、その時の監督の伊勢田世山くんも「澤本さん、ちょっと思ってたよりも動きが大きいんですけど、こっちの方が良くなりそうな気がするって初っ端のテープ見て思ったんですけどいいですかね」って感じで、僕も全然いいですよって。
岡山:『やっぱそれ、よくないと思う。』のときは『ヴァンプ・ショウ』(2022年、脚本:三谷幸喜)をやってる最中だったんで、表現がダイナミックになってたかもしれないです。
全員:あはははは。
岡山:舞台中だったんで。まあそれはシャレですけど、ファンタジーに振り切ってしまうと絵空事になってしまうというか、見ている人と隔たりが生まれてしまうけど、一方でリアルにやってMAX面白さが出るお話なのかなとも、本読ませてもらった時から思っていて。なので、両方のいいとこ取りができたらいいなと思ってました。澤本さんの台本が文字の時点でコメディとしてもめちゃくちゃ面白かったので、3次元にしたときに劣化したらやだなってところは難しかったですね。
澤本:でもね、こういう人いるんじゃないかってぐらいの調整をしてくるんですよ。アニメっぽくすると、ちょっと派手すぎたり「こんな人いねえよ」ってなったりするけど、実在感をめちゃめちゃ残してきてくれてた。
岡山:難しかったですけど、すごく面白かったです。その両方の面が浮世離れしつつ、めちゃめちゃ浮世みたいな。矛盾してることをどれだけ矛盾させられずに演じられるかっていう、ダイナミズムとリアリティみたいなものをシームレスにやる面白さがあって。他にもいろいろあったんですけど。
澤本:そのときの役作りと今回、まったく違うわけじゃない。
岡山:そうですね。『笑いのカイブツ』はまた面白みが全然違いました。その瞬間のテイクでしか生まれない偶然みたいなものにどこまで瞬時に反応していけるか、どれだけその場でその瞬間の相手役の人と生まれるスパークをカメラに収められるかがすごく面白かった気がしますね。だからアクシデント大歓迎というか、家で前の日に考えてきたこととかがちょっとでもあると、自分が一観客だったら「つまらないな」「冷めるな」って思って。それがツチヤって生き物を演じる上で自分が最初に思ったことだったし、『笑いのカイブツ』というお話に対して考えたことでもあったので、澤本さんとご一緒した時とはまた全然違う感じでしたね。
澤本:その集大成がこのポスターのこの顔だったりするんだよね。
権八:そうですよね、この笑いのカイブツのポスター。でも劇中の顔はもっとすごいです。
澤本:もっとすごいよね。
権八:もっとすごいです。
今後の目標はヘリに乗って夜景を見ること……!?
権八:僭越ながら今思い出したんですけど、主人公のツチヤはすごく若いじゃないですか。だから若い人はどう感じるかなんだけど、僕がCMクリエイターとしてやっていくときに、当時大先輩の白土(謙二)さんって先輩というかレジェンド的な人がいて、「ヨーイドンで始まって最初の5年ぐらいのうちの、特に最初の2年ぐらいを死ぬ気でやれば、絶対頭一つ抜けられるから」って言われたんですよ。それを真に受けて、とにかくそのつもりでいたというか。程度は全然違うんだけど、同期とかに「俺もう違うからお前らと」みたいな。
全員:あはは。
権八:そういう嫌な感じが出てて。それを今急に思い出した。
岡山:若さもありますしね。
権八:若さもあって、感じ悪くて。あとさらにもっと上のレジェンドの小田桐(昭)さんって人がいて、澤本さんが「CREATOR OF THE YEAR」っていう賞をもう何度も獲られてるんだけど、僕は学生のときに、「君は20代で『CREATOR OF THE YEAR』を獲れるから獲れ。そのつもりで最初からやれ」と言われてて。最初から焦れって言われて、ずっと焦ってたんですよ。「それやんなきゃいけないんだ」と思って。で、結局1回も取ってないんです。27くらいで会社を出ちゃったんで、取る資格がなくなっちゃったんだけど。
そのある種の若さというか、ある時期の「絶対にものにするんだ」っていう熱、おこがましいんだけど、共感できるところもできないところもいろいろあるんだけど、その部分では、ちょっとエンタメを志す人たちと我々の雰囲気が近いのかなと感じるところがあって。だから余計に見てて辛かった。「こういうのあったな」と思ってしまって。
岡山:そうですよね。ほとんどの方がそうだと思いますけど、全然違う仕事をされてるとまた見え方も違ってきますもんね。
権八:違ってくるね。
岡山:お子さんがいる方は片岡礼子さんが演じられたおかんに感情移入して見られるのかなと思いますし、見え方によってはツチヤに対して「なんやこいつ」って方もいらっしゃると思いますし、逆にツチヤと同期しちゃう人もいると思いますし。
中村:Web野郎中村は、前原滉さん演じる氏家。先輩の構成作家なんですけどバランス取り役で、あっちに私はわりとなんか「ああ、つらい!」って胸を刺されることが。
権八:でも確かにそうだね。グッときますよね、バランサーっていうか、(仲野)太賀くん演じる西寺からは「あいつがいるとうまくいくんだよ」って言われるような。
澤本:そうそう。
権八:それも大事じゃないですか。生きてると。
中村:そうなんですよ。そういう人もいっぱいいるじゃないですか。「なんであの人いるの」って感じだけど、「でもあの人がいるとうまくいくんだよ」みたいな人。
権八:そういうのがツチヤからすると許せないわけですよね。
岡山:監督も最初から、誰か悪い人がいてツチヤが追い詰められてるというよりも、ツチヤが見る世界、尖った色眼鏡というかそういうものによって、ある種ツチヤが勝手に追い込まれていくようなものにしたいっていう話をされてました。わかりやすく「こいつが敵です」ってことではないので、やっぱ氏家は大事な人だと思いますし、ああいう立ち回りができるってそれはそれで本当に才能だと思います。だから本当に面白いですよね。ビビッドで極端なキャラクターが真ん中にいる映画なので、見る人の意見もまたビビットになるんじゃないかなと思います。
中村:そんな『笑いのカイブツ』、もうぜひ見ていただきたいです。そしてせっかくですので、今年新たにチャレンジしてみたい分野とかやってみたい目標があれば教えてください。
岡山:毎年のことなんですけど、去年よりも楽しくしたいです。
全員:あははは。
岡山:難しいですよね。それはそうだと思うんですけど、時期によって短期間で周りにいる人だったり環境が変わっていくので、時期によってモードや気分が左右されやすい仕事だというか、固定されたチームがない仕事なんですよね。だけどそれにあまり踊らされず、キャッチャーとしての腕を磨きたいというか、どんな球が来てもキャッチできる、こっちの手腕次第で面白がれるような引き出しや見聞を深めていきたいですね。あと最近都内でヘリコプターに乗って夜景が見れるってことを知ったので、ヘリには乗っておきたいですね。
全員:ははは。
岡山:夜景大好きなんですよ。この間も地方に行ったときに見て。夜景ってやっぱり山から見下ろすのがベストなんですけど、車がないとなかなか夜は行けないので。この間は県庁みたいなところから夜景見下ろしたんですけど。地方に行くときは毎回夜景スポットを調べて、でもたいてい山なので悔しい思いをしてます。で、ヘリって夜景フェチからすると最高だなと思って。だから目標はヘリに乗ることですかね。
中村:それ20秒自己紹介とかで言ってほしかったですけどね。夜景フェチだったんですね。面白い。
岡山:それだったら20秒以上喋っちゃいましたね。
中村:というわけで、そろそろお別れのお時間が近づいておりますが、改めまして『笑いのカイブツ』、ぜひ観てみてください(編集部中:2024年5月現在「目黒シネマ」で公開中)。まだ見てないリスナーにワンプッシュということで、岡山天音さんからメッセージを一言お願いします。
岡山:とにかくマグマのような映画だと思います。僕の血液だったり、いろんな体液をスクリーンにぶつけたつもりですので、2024年を走り抜けるガソリンをチャージしていただけたらなと思います。お願いします。
中村:いやでもまさにそんな映画になってそうな気がするんですよね。しますよね、なんか「俺もやんなきゃまずいな」みたいな。
岡山:うれしいです。
権八:ね、熱量がすさまじかったですね。
岡山:ありがとうございます。
中村:そして、映画『ある閉ざされた雪の山荘で』(2024年、監督:飯塚健)も同時期に公開されております。こちらは?
岡山:これはまた全然違うお話で、東野圭吾さんのわりと昔の作品の実写化なんですけど、ある劇団に所属する俳優たちの密室ミステリーというかサスペンスというか、そういうお話で、こっちも同世代の俳優さんたちが集まってるワンシチュエーションの群像劇ですね。こちらでもかなりアクの強い役を演じてます。
中村:面白そうですね。これ聴いて改めて岡山天音ファンは『笑いのカイブツ』も見て、この映画『ある閉ざされた雪の山荘で』もチェックしてみてくださいませ。今夜のゲストは映画『笑いのカイブツ』主演俳優の岡山天音さんでした、ありがとうございました。
岡山:ありがとうございました。
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