3社に分社したGEが重視、経営と統合したブランド戦略
最後に、B2B企業の巨人、GE(ゼネラルエレクトリック)の基調講演に注目したい。Linda Boff 氏 (Chief Marketing Officer, VP, Learning & Culture, GE
President, GE Foundation)は、基調講演にて、GEが置かれる大きな変革について言及した。GE主要な事業を3社に経営分割し、その新しい経営体制を世に発信する必要があった。
結果、効果的なマーケティングを実行するためには、事業戦略を理解し、それと整合させることが重要であると強調している。ブランド戦略は、包括的な事業目標と絡み合うように綿密に設計されており、特に、テクノロジーとイノベーションに対するGEの歴史的貢献を強調するストーリーテリングを行っている。
経営戦略と密接なブランド戦略の設計に取り組む中、その実行は堅いB2B企業としては大胆なアプローチを取っている。GEは、ハリウッドのプロデューサーであるロン・ハワードとブライアン・グレイザーと提携し、ロボット工学と神経科学へのGEの貢献を紹介するドキュメンタリーを制作するなど、クリエーティビティが高く、創造的な取り組みを推進している。伝統的なマーケティング・チャネルと最新のマーケティング・チャネルを融合させ、魅力的なブランド・イメージ創出を推進しているのだ。
昨年のPOSSIBLEはイーロン・マスク氏の基調講演が目玉となっていたが、それととは違い、リテールメディアの最新ケースや大規模小売事業者による発信、GoogleのPrivacy Sandboxとサードパーティークッキに関わる基調講演、生成AIとクリエイティブ、テクノロジーや経営、経営のKGIと連携するブランド戦略など、マーケターにとって実践的で示唆的なセッションにフォーカスされていたように感じる。
著名なアーティストであるAshantiの基調講演などセレブリティセッションも、内容はマーケテターにとって示唆的なものであった。昨年に引き続き、全体としては、ブランドとマーケティングに関する米国のCMOたちや広告業界のキーパーソンの関心事とチャレンジを集中的に聞くことができる魅力的な場となっていたと感じた3日間であった。
森 直樹氏
電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエーティブ・センター
エクスペリエンスデザイン部長/クリエーティブディレクター
光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。2023年まで公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)を務める。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。