「アリバイ広報」ではなく「伝わる広報」を目指し、限られたリソースで最大の効果を目指す 「自治体広報の仕事とキャリア」リレー連載(羽曳野市 辻村真輝さん)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているでしょうか。本コラムではリレー形式で、「自治体広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。

富山県南砺市役所交流観光まちづくり課の岩倉竜矢さんからバトンを受け取り、登場いただくのは、辻村真輝さんです。

写真 人物 辻村真輝氏

大阪府羽曳野市都市魅力部魅力づくり推進課 課長
辻村真輝

平成5年4月入庁。保険年金課・下水道総務課・大阪府文化振興財団出向の後、文化会館にて文化事業・イベントプロデュースに携わる。平成17年4月市長公室秘書課配属。以降16年間秘書課所属のまま各種プロジェクトチームを渡り歩き、この間、最大7部署の兼務をもちながら市の様々なプロジェクトを立ち上げる。令和3年2月新型コロナウイルスワクチン接種推進室配属。全国初となる1日2,000人が接種できる大規模集団接種体制を構築する。オンライン市役所を通じて全国の担当者にそのノウハウを伝授し、日本国内におけるワクチン接種推進の一助となる。令和4年4月生活環境部観光課配属。一般財団法人大阪はびきの観光局を立ち上げた後、シティプロモーションの更なる推進のために令和5年4月生活環境部を都市魅力部に再編する。現在は、魅力づくり推進課長として市の魅力発信に奮闘中。イベント業務管理士1級・観光士

Q1:現在の仕事内容について教えてください。

はじめに、羽曳野市のご紹介です。羽曳野市は、大阪府の南東部に位置し、人口は約10万7千人。市内には5つの鉄道駅や広域的な幹線道路を有しており、大阪市内まで30分以内でアクセスが可能で、大阪都市圏のベッドタウンとして発展してきました。

羽曳野(はびきの)という名前は、古事記・日本書紀に登場する古代の英雄ヤマトタケルの白鳥伝説に由来しています。没後、白鳥となったヤマトタケルがこの地に舞い降り、天高く飛び去った様子が「羽を曳くが如く」ということで羽曳野という名がつきました。

大阪唯一の世界遺産である百舌鳥・古市古墳群や、日本遺産に認定された日本最古の官道・竹内街道が市域を走っているなど、貴重な歴史資産を多く有しており、過去と現在を結ぶ歴史のまちです。


写真 風景 世界遺産である百舌鳥・古市古墳群

特産品であるぶどうは100年ほど前から栽培されており、昭和の初め頃は全国1位の収穫量を誇っていました。最近では大粒ぶどうの生産も盛んで、シャインマスカットも主力な特産品となっています。そのぶどうからワインの生産も盛んで、大阪府内には6つのワイナリーがありますが、そのうちの3つが羽曳野市に立地しています。


写真 特産品のシャインマスカット

写真 商品 ワイン

その他、関西で一番の収穫量を誇るイチジクや、当市の碓井地区が発祥の碓井豌豆(ウスイエンドウ)も特産品の一つです。また、130年の歴史がある食肉産業も盛んで、市内には新鮮なホルモンやハイクオリティなお肉を安く提供する焼肉店が数多くあります。羽曳野市は、神戸や京都、奈良のような有名な観光地ではありませんが、ご紹介したような観光資源と交通アクセスの良さが掛け合わさり、特別なポテンシャルを有するまちであると考えています。

私は、この羽曳野市の魅力づくり推進課長として、観光振興及び市の魅力創造・発信・向上に関する業務、ふるさと納税にかかる業務などを担当しています。

また、世界遺産・日本遺産に近接し、新たな観光・交流の拠点として位置づけた、築100年を超える古民家「旧浅野家住宅」の再生整備事業なども担当しています。

その他、直接の担当ではありませんが、全庁的にFacebook・LINEなど市公式SNSの発信やイベント企画などについてのアドバイスを行ったり、最近では「市の魅力なので」というとても素敵な理由で、部署の垣根を超えた様々な仕事が下りてくることが多くなってきました(笑)

Q2:貴組織における広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。

「広報」という言葉をどう捉えるのかによってその領域は大きく変わってくるとは思いますが、広報誌の発行やWEBサイト・SNSの管理、報道機関との連絡調整などは秘書課広報担当が、市の魅力的なヒト・モノ・コトを掘り起こし、それらを広くPRしながら観光施策やふるさと納税に活用していく事業を魅力づくり推進課が担当しています。魅力あるコンテンツを実際に活用し、ツアー造成を行うなどの具体的な観光事業については、令和4年に立ち上げた一般財団法人大阪はびきの観光局が担ってくれています。また、市政情報の発信については、秘書課広報担当だけが発信するのではなく、最近ではSNSを活用し、各部署の担当が直接発信を行っています。

これらのように「市政情報や魅力を発信する」広報業務は、良く言えば、各部署がそれぞれの思いにより広く発信できてきてはいますが、悪く言えば、特にSNSの配信などでは顕著に表れますが、各部署が「伝える」ことだけを目的にしてしまい、部署間の調整もなくバラバラに発信してしまっていることが多くなっています。

それらを危惧し、庁内のチャットツールを活用しながら、各担当者間で配信のタイミングや内容の調整などを行うようにはしていますが、なかなか意識的な改革にまでは至っていないのが現状で、実際に市民に「伝わる」広報ができていないと感じています。

このような状況をなんとかしなければいけないと、秘書課広報担当と協力しながら、これからの広報・シティプロモーションのあり方を考えているところです。

Q3:ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。

ただひと言「わかりやすく!」です。

ひと昔前の広報は、情報を余すことなく全て書き込み、役所側の「ここに書いてお知らせしました」という、いわゆる「アリバイ広報」が主流でした。広報誌を開いてみても文字、文字、文字の全く読む気になれない、そんな誌面づくりが多かったと思います。そんなことではダメだと、先進的な自治体では「伝わる広報」を目的に誌面改革などが進められてきています。

本市では、大々的な改革はまだまだ進んではいませんが、私が実践した事例をひとつ挙げると、消費生活センター業務の担当になった時のことですが、年に1度だけセンターの業務について広報誌に大きく掲載してもらえる機会があり、前年の記事を見ると数点のイラストがあるだけで、あとはほぼ文字だらけの状態でした。「これはなんとかしなければ!」という思いですぐに取り組み、そこで、事例を四コマ漫画風に紹介するのはどうだろうか?と考えました。広報担当に相談したところ、「誰がその漫画書くんですか?」と一蹴されてしまいましたが、「だったら写真で!」ということで、私と当時の担当者が出演してページを作成しました。

これがとても反響が大きく、「初めて消費生活センターがあるのを知った」というようなお声もいただきました。調子にのった私は、翌年にはカラー版を、そして最後には台本も書き、動画版まで作ってしまいました。もちろん全てに出演しました(笑)。

このように、どうしたらわかりやすく「伝わる」のか。そのことを最重要ポイントとして考えながら、今もいろいろな工夫を行うようにしています。

Q4:自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。

自治体広報の苦労は、すべての住民に必要な情報を伝えなければいけないということです。高齢者や外国人など、それぞれに適した方法が必要であり、効果的なツールやアプローチに悩むことが多いです。また、予算や人員が限られているため、効果的な広報活動を行うリソースが不足しています。広報は特殊な業務であり、専門のスタッフや最新のツールを導入するための予算がもっとあればと日々感じています。

一方、「魅力発信・プロモーション」に関しては、オススメの情報を特定のターゲットに向けて発信できるため、全体のバランスを考えずに済む点がやりやすいと感じています。「これを推したい」という情報をタイミングを逃さずに発信することが重要です。

広報やプロモーションの業務は、住民や事業者と直接つながり、協働しながら地域の発展を支えることができる点が魅力です。今すぐ結果はでないかもしれませんが、人口減少社会の中で、選ばれる自治体になるためには欠かせない業務だと思っています。これに携われることを幸せに感じつつ、今後も目一杯楽しみながら取り組んでいきたいと思っています。

【次回のコラムの担当は?】

岐阜県瑞浪市 みずなみ未来部 シティプロモーション課 魅力発信係長の伊藤允一さんです。

advertimes_endmark




この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ