赤松隆一郎さんに聞く音楽とAI  AIを活用すればするほど、クリエイターとしての本質が見えてくる

コピーを書くことが本当に好きな人は、絶対にそのプロセスを手放さない

赤松:昨年、芥川賞を受賞した『東京都同情塔』(九段理江著)では、ChatGPTを使って執筆したことが話題になりましたよね。具体的には、作者がインタビューで発言していたように「全体の5%」程度だから、全部というわけではないのだけれど。この発言も物議をかもしていましたが、実際に読んでみたら全然いやじゃない。物語自体が面白いというのが何よりも大きいのだけれど、その中の一部をたとえAIが書いていたとしても、そこには必然性があるし、これは間違いなく作者の中から出てきた物語であり、言葉であると感じられたんです。「この仕事の何%かはAIがやっています」と堂々と公言されても、全然いやじゃなかった。

石川:やはり活用の仕方ですね。堂々と使った場合こそ、いかにそこからジャンプアップできるかが大事ですね。ちなみに広告でもすでに、AIが書いたコピーがプレゼンで通って、そのまま世の中に出たという事例もあると聞きます。

赤松:仮に、大きなプロジェクトであるクリエイターがコピーを書くことになったとします。その人はAIの力を借りてもよいと判断し、そこで生成されたコピーをそのまま掲出し、そのプロジェクトが大きな成果を上げたとする。そのときに、「自分はコピー書かなかったな」という後悔もなく、いいコピーが書けたということに興奮したいという気持ちもなく、結果としてプロジェクトが大きく動いたのであればAIが書いたものでも構わない、という気持ちを持っている人にとっては、それでいいと思います。コピーを書くことに自分の時間を割けないからそれでよし、と割り切っているのであれば。それも一つの考え方だから。それについて「どうなんだ?」と疑問を投げかけるのは違う気がしています。

石川:確かに。AIに任せることで自らつくることへの喜びがないと感じてしまう人がいる一方で、それで効率的に仕事が進めばそれが喜びになる人もいる、ということですよね。

赤松:音楽でも同じことが言えます。AIを駆使して曲をつくってそれが評価を得たり、お金になることだってあるでしょう。でも、僕の場合は自分で歌詞を書き、曲をつくることに一番の喜びを見出しているから、そこを全部AIにやってもらって、その喜びを自ら捨てることはないし、もし「君の曲よりAIの曲のほうがよかったよ」と言われたとしても、「あ、そうですか」くらいにしか思わないです。

石川:僕は最近、エンジニアという立場よりプランナーとして仕事をすることが増え、アイデアに行き詰ったときにChat GPTをブレスト相手として考えることもあります。それで赤松さんのお話を聞いて思ったのが、ChatGPTが出した言葉を面白いと思ったり、いいなという判断はやはりある程度キャリアのある人でないと難しいだろうなということ。例えば仕事経験の少ないプランナーやコピーライターが同じことをしても、気づきは少ないだろうし、判断の良しあしがつかない。場合によっては出てきたものをそのまま使ってしまう可能性があるのではないかなと。逆に若い世代にとって、AIは成長を停滞させるものになってしまうのではないかと思ったり。

そして僕も以前は音楽をつくる立場だったのですが、音楽って自分が過去に聴いてきたものの中から、新たなものを自分の中からひねり出す作業でもある。だから、新しく出てきた音楽の面白さや新しさがわかるようになってくると思うんです。最初からAIを使ってしまうと考えたり、つくる能力を発揮する機会がなくなるのではないかなと。

赤松:難しいところだけど。SOUNDRAWのサービスでは、例えばロックで、ハードな感じで、情熱的に…と打ち込めば、すぐに曲ができて、それをBGMとして映像に当てれば、あっという間に動画が完成してしまう。それを否定するわけではなくて、「それでいい」という人たちもいる。ある意味、効率に向かうわけですよね。同様に、もし若手のコピーライターがAIを使った企画やコピーを出してしまうとしても、それはある意味、効率に向かっているということでもあるのかなと。それによって時短になり、いやらしい言い方をすると、お金が簡単に稼げてしまう。

でも、僕もそうですが、ミュージシャンやシンガーソングライターという人たちは、自分で曲をつくって、歌詞を書いて歌うということがやりたい人たちで、そこに喜びを見出している。それと同じように企画を考えたり、コピーを書くことに喜びを見出しているプランナーやコピーライターもいる。彼らはたとえ自分がつくったものが仮にAIに及ばないことがあったとしても、企画することやコピーを書くという行為を簡単に手放すことはしないと思うんです。AIがつくったもののほうが結果としていいものができる時代が意外とすぐに来てしまうかもしれない、なかなかな局面ではあるけれど、本当に企画をしたり、コピーを書くのが好きな人だったら、絶対にその部分を手放すことはないかなと。

石川:確かにそうかもしれないですね。

赤松:だからもし、若手のプランナーやコピーライターがAIを使って制作したとしても、そこに喜びがあるのであれば、それでいいと僕は思います。

石川:喜び…仕事って本来はそれがないと、ですよね。

赤松:そう、仕事ってそこに向かっていくものだから、AIを使っても使わなくても、喜びがないままに生み出したものを世に出してしまったら、企画者としての魂やミュージシャンとしての魂がどんどん死んでいくような気がしてしまいます。

石川:人形みたいに中身がないものになってしまう。

赤松:だから、AIを使ったとしても、そのプロセスに自分が喜びを見出すことができるなら、そのことを堂々と言ってしまっていいと思います。でも、AIがつくったものをそのまま出した人には、その喜びはなかなか訪れない気もします。なんというかある種の後ろめたさみたいなものは残るんじゃないかな。後ろめたさを全く感じずにそれができる人は、企画やコピーを使ってお金儲けをしたり、話題になりたい人であって、企画をやりたい人じゃないでしょう、おそらく。ミュージシャンも同じで、お金儲けや効率を重視するなら、ミュージシャンなんてやってられないと思います。

石川:喜びって、このテーマにおいて大きなキーワードですね。

赤松:歌詞を書いて、それにAIで曲をつけたとして、その曲を聴いた人たちに「AIがつくった曲のほうが今までのよりいいね」と言われたとしても、自分の中にそれほど後ろめたさもなく、「書けた」「できた」「喜べた」といったなんらかの達成感が残っているのであれば別にいいと思います。まあ、「AIがつくった曲のほうがいいね」と面と向かって言われたら、ちょっと腹は立つかもしれないけど(笑)。


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石川隆一
石川隆一

2018年電通デジタルに中途入社。音楽大学卒業後、レコード会社勤務を経て、AIエンジニア/プランナーとして入社。データ分析、画像処理、自然言語処理などにおけるAIのクリエイティブ応用を研究している。日本に200人しかいないkaggle Masterの一人。

石川隆一

2018年電通デジタルに中途入社。音楽大学卒業後、レコード会社勤務を経て、AIエンジニア/プランナーとして入社。データ分析、画像処理、自然言語処理などにおけるAIのクリエイティブ応用を研究している。日本に200人しかいないkaggle Masterの一人。

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