石川:広告であっても、音楽であっても何かをつくったり、考えたり、そのプロセスを面白い、幸せだと感じられることが本当に大切。それはすごくよくわかります。
でも一方で、AIは自分が煮詰まってモヤモヤしているときに、その正解を一瞬で出してくれることがあります。レコードがCDになってサブスクリプションになったように、あらゆる機器は進化して楽な方向に進んでいます。それゆえに目の前に楽なものがあったら、人間はそれを使ってしまうのではと、僕は思うんです。そして、あるときに、あれ、ChatGPTでいつも企画を考えている自分に気づく…みたいな恐怖心があります。
赤松:そういう状況に慣れていくしかないんじゃないかな。僕はAIのブームは意外と早く鎮静化するような気がしています。実際に、いまAIは表には出ないところで活用されていることも多いじゃないですか。極端なことを言うと、知らない間に僕らはAIを使っている。だからそこに対する恐怖心は無くなると思います。
あと、作詞・作曲も企画もそうだけど、AIを活用して、何か断片をもらって企画したとしても、そこからジャンプしたときの「跳べたな」という感覚をAI主導で得るのって、すごく難しいと思うんですよ。
石川:それはおそらく難しいですよね。現状のAIはやはり入り口を見つけることに長けているので。
赤松:AIが入り口やジャンプ台をつくってくれたとしても、結局最後ジャンプするのは自分だから。そこに喜びがあればいいんじゃないかな。現状だと、入り口はいいけどジャンプ台までAIにつくってもらうのはまだ難しい感じがしていますが。学習が進めばそのあたりも変わってくるのではないかと。
それから、アイデアを思いつくとか、曲を書ききることに喜びがあるという話と関係するのですが。もし「Suno AI」のようなものを使って曲を世にどんどん出したとしても、自分のイメージや世界観に近いものができているかもしれないけれど、同じではないということは、それはやっぱり離れているというか。触れているのに触れてないみたいな感覚で。そういう感覚が積み重なった先に、意外と早く「つまらないかも」と思う人も出てくるんじゃないかな。だから、人間がAIに慣れて、共存できるようになったとしても、その力を借りずに、あえてゼロから自力100%で何かをつくってみよう、と思ったときにそれができる筋力はなくさないようにしておきたいと思うんです。
石川:僕が恐怖に感じていたのは、まさにそこかもしれないです。AIに慣れてしまうことで、自力で何かすることができなくなってしまうのではないかという。
赤松:ぬるま湯のようなところで、うまいことフワフワ浮いている時期が続いて、そこから上がったときに、もう自分にはできない、ってなるのが一番寂しい気がします。だから、ゼロから立ち上げる力は、常に自分の中に蓄えておきたいですね。
赤松隆一郎
シンガーソングライター/クリエイティブディレクター
愛媛県出身。2008年にアルバム「THE SWING OF THE PENDULUM」でデビュー。音楽活動と並行して広告のクリエイティブディレクター、CMプランナーとしても活動する兼業ミュージシャンである。オリジナル作品とあわせて、自身が企画する広告キャンペーンやCMソングの作詞・作曲、他アーティストやNHK「みんなのうた」への楽曲提供など、音楽と広告のフィールドをまたぐ独自の制作スタイルを持つ。
2012年にギタリストの井上央一とともにアコースティックユニット「アンチモン」を結成。リーダーにカンガルーがいるというユニークなメンバー構成とキャッチーなメロディー、日本語にこだわった歌詞でこれまでに3枚のアルバムを発表。
「疲れたら、愛媛。」「道後のワルツ」興居島〜高浜港を結ぶフェリー「しとらす」「ミソラ」のイメージソング等、地元・愛媛をPRするための楽曲制作も積極的に行なっている。
2022年8月、自身14年ぶりとなるフルアルバム「祝祭」をリリース。