【実例つき】就活生必見!「言葉ダイエット」でESはこんなに変わる

メール、企画書、エントリーシート(ES)、読みづらい文章の原因のほとんどは「書きすぎ」です——。『言葉ダイエット』は、短く伝わる文章を書くためのスキルを解説する書籍。本記事では、著者の橋口幸生さんが登壇した就活生向けセミナーをレポートします。受講生が書いた実際のESに、添削やアドバイスを行いました。ESが書けない、通らない…そんな悩みを持つ就活生の皆さん必見です。


イメージ バナー 『言葉ダイエット』

※本記事は2023年10月に開催されたマスナビセミナーの内容をダイジェスト収録したものです。

 
 

ボディコピーの技術を利用してエントリーシートを書く

実は私は就職活動にはすごく苦労した人間です。あらゆる会社に落ちて、恥ずかしながら告白すると、内定をもらえたのは今働いている1社だけ。自分がダメだったからこそ、就職活動がうまくいかない人の気持ちは誰よりもわかるつもりです。就活に前向きになれない人に向けて、明るい未来をつかむためのお話をしたいと思います。

私の仕事はコピーライターです。広告コピーの中でも、ボディコピー(キャッチコピーではない、広告の本文)はエントリーシートに似ています。基本的に自己紹介の文章だからです。ボディコピーの技術を利用すれば、読みやすく、印象に残るエントリーシートが書けると思います。

今日は、コピーライターのスキルを使って、エントリーシートはもちろん、社会人になってからの企画書やメールなど全てのビジネス文章を読みやすく書く技術=「言葉ダイエット」を学びます。

前半では言葉ダイエットの考え方を説明し、後半はESに特化した話をしていきます。

【後半】「就職活動」実践篇に飛びたい方はこちら

 
 

読みづらい文章は難しいのではない、ヘタクソなんだ

私たちの周りにある文章が読みにくいのはなぜでしょうか。それは、相手が一言一句漏らさず読んでくれるという前提に立っているからです。

人は、他人が書いた長文は読まないのに、自分が書いた途端に相手は読んでくれると思ってしまうもの。文章は、読まれない前提で書かなくてはいけません。

広告会社では、「広告を見たくて見る人はいない」と最初に教えらえます。つまり、読みたくない人に読んでもらうためのノウハウがコピーライティングです。

例えば、企業の書く文章って、こんな感じのものが多いですよね?


画像説明文

これはわざとオーバーに書いたものですが、社会人になりたての頃は、私も仕事の文章はこう書かないといけないのかと思っていました。普通に書けばいいのにわざわざこんな書き方をして、自分も面白くないし、企画も通らない。

でも、あるとき気づいたんです。読みにくい文章は、難しい文章ではない。ただ、ヘタクソな文章であると。だから、就活で何かの文章を読んでいて、読みにくいと思ったら、それは皆さんのせいではなく書いた人が下手なんです。

だからといって、あなたが読みにくい文章を書いてもいい理由にはなりません。就職して働き出した後のためにも、就活を機会に、読んでもらえる文章を書くスキルを身につけましょう。

 
 

「言葉ダイエット」3つの極意

ここからは「言葉ダイエット」の具体的な内容を紹介します。

その1「一文一意」

「一文一意」とは、ひとつの文章には、ひとつの内容、という意味です。これを覚えて帰るだけでも、皆さんの文章は劇的に良くなると思います。

例を見てみましょう。

例文(ダイエット前)

イメージ スライド ダイエット前例文
例文(ダイエット後)

イメージ スライド ダイエット後例文

どうですか?長い一文になっていたものを、内容ごとに3つの文章に分けました。これを徹底するだけでみなさんのエントリーシートは差がついて読みやすくなります。でも、驚くほど皆さんやらない。ぜひ実践してみてください。

その2「一文は40-60字以内」

先ほどの文章は、1つの文が90文字もありました。100字を超える文章を書く人は、実はたくさんいます。

僕は文章を書くとき、WORDの文字カウント機能でチェックしています。ESで「200字以内」と言われると、全体で200字以内に収まっているかは見ても、一文の文字数はそんな見ないと思うんです。そこをやりましょう、ということです。

その3「抽象論禁止」

ビジネス文章も、エントリーシートも抽象的になりやすい。それはなぜか。理由は「カッコつけるから」です。

エントリーシートは「オレ、イケてるぜ!」ということを言うための文章です。だから、カッコつけようとして抽象的になるんです。抽象的な文章は、いくらでも中身をふくらませられます。具体的な実績は中身がないと書けないけれど、「自分は優秀でイノベーティブな人間だ」みたいな話は中身がなくても書ける。自分を大きく見せようとするほど、文章は抽象的になります。

これは私が仮に書いた、スマートフォンの広告のボディコピーです。

例文(ダイエット前)

イメージ スライド スマートフォンの広告のボディコピー悪い例

この文章はなぜダメかというと、具体的なことが書いてないからです。「リーディング・ブランド」と言っても、技術がすごいのか、むちゃくちゃ売れているのか?「上質」「ダイナミック」「かつてない」「より良い広い」「パワーアップ」「圧倒的」…要は「なんかこのスマホいいですよ」ということを、広告コピーっぽい抽象的な飾り言葉で言っているだけ。だからこのスマホが何なのかわからない。


やるべきことはシンプルです。抽象的な言葉を書きたくなったら、具体的にどういうことかを書きましょう。

例文(ダイエット後)

イメージ スライド スマートフォンの広告のボディコピー改善例

これだとどうでしょう。「シェア1位」はわかりやすい。人気なんだ、ということですよね。「洗練されたボディデザイン」で思い浮かべる映像は100人が100人違うから、ここは「手からすべり落ちにくい」と言いましょう。解像度も「かつてない」よりも「50%上がった」と言った方がわかります。

大切なのは「具体性」です。読んで映像が思い浮かぶような文章を書きましょう。

本の中では、他にも「繰り返し禁止」「させていただきます禁止」「カタカナ語禁止」などを紹介しています。興味のある方は、ぜひ見てみてください。

 
 
 
 
 
 
 
 

「就職活動」実践篇〜型にハマった文章を書いていませんか?

ここから実践編として、就職活動の文章を見ていきます。まず、ダメな例を用意しました。

例(Before)

イメージ スライド 就職活動の文章ダメな例

就職活動をしている皆さんのESを見せてもらうと、99%くらいがこうなっています。それは、自分が勝手にイメージする「優秀な学生」の型に自分を当てはめているからだと思います。

それぞれ個性があるのに、「企業はこういう学生を求めているのではないか」「リーダーシップがある人を求めているんじゃないか」と勝手に想像して、その枠に自分を当てはめてしまうから、同じようなESが大量に出てきてしまうんです。

ですが、就職活動は受験勉強ではありません。模範解答はないんです。そこに自分を当てはめる必要はありません。

新卒採用の一番いいところって、誰も優秀なエリートを期待していないことだと僕は思っています。ESは「人格」を見たいんですよ。能力じゃなくて、どんな人かを見たいんです。なので、珍しい経験や武勇伝もなくてもいい。

皆さんの必ず持っている自分らしさを自分の言葉で表現する、それが一番大事だと思います。

 
 

学生時代に頑張った経験からの「発見」を表現しよう

「学生時代に頑張ったこと」のエピソードはどうしても似通りがちです。だから、そこから何を「発見」したかで表現しましょう。同じような経験をしても、発見は人によって違うからです。

例えばさっきのESをこう変えてみます。

例(After)

イメージ スライド 就職活動の文章良い例

まず、ESを受け取る側は「自分はこんなにすごい」という文章を読み疲れているので、「自分はこんな失敗をした」みたいな話が冒頭にあると、目を引きます。ただ、単に失敗談を語ればいいわけではありません。「人に教えることが自分の上達につながる」という気づきがあったと書いてあります。自分なりの経験があって、そこから何かを発見したというストーリーがあるから、最初より気を引く内容になっています。

 
 

志望動機は、なくていい。

志望動機は、なくていいと私は思います。なぜなら、日本の就活のシステムは、多くの企業にエントリーしなければいけないシステムになっているからです。第一志望はともかく、いちいち志望していられないですよね?それは皆さんのせいではありません。

とはいえ、

「御社の将来性に惹かれ、志望させていただきました」

こんな志望動機では、内定は出ません。

「志望動機 大企業だから」

自分の本音を書こうと言っても、これもダメですね。では、どうしたらいいかというと、企業と自分の接点を見つけるということです。

例えば、広告会社向けのESで、こんな志望動機があったとします。


イメージ スライド 広告会社向けのES志望動機ダメな例

これは、接点がない例です。「人を笑顔にする」というのも、どこかで見たような志望動機を借りてきているので、印象に残らない。

広告会社を受けるなら、広告とあなたの接点を探しましょう。こんな志望動機はどうでしょう。


イメージ スライド  広告会社向けのES志望動機良い例

最初のものより、こちらの方が印象に残るのではないでしょうか。それは、自分だけの経験を書いているからです。繰り返しになりますが、大切なのは「具体性」です。読んで情景が浮かぶ文章を書きましょう。

 
 

ESの実例を添削!〜「人格」「ロジック」「紋切り型」に気をつけよう

さて、今日は皆さんからESを送ってもらっています。いただいたもの、全て目を通しました。いくつかピックアップして話をしたいと思います。

まず、ひとつ目の例です。

ES実例①

イメージ スライド ES実例1

このES は、1.強み 2.強みの詳細 3.まとめという3幕構成で、ロジカルに書けています。最後まで読ませられるという点で、すごく良いと思います。

一方で良くないところは、実は99%のESがこの構成になっているので、他の学生と差別化できない点にあります。学生時代の社会人っぽいエピソードは、よほど突出したものでない限り、社会人からは「よくある話」に感じられてしまいます。

ただ、ロジカルに書けているのはいいので、そこに相手の気を引く要素を足していきましょう。具体的には、「人格」が感じられる文章にするといいと思います。人格が感じられないって、すごくコミュニケーションで不利なんですよ。

才能や実績も大切だけど、何より人格を伝えましょう。「こいつと働きたいな」と思わせたら勝ち、ということです。

例えばこんな文章を書いてきてくれた人がいました。

ES実例②

イメージ スライド ES実例2

このES、いいですよね。人格がすごく伝わります。

…なんですけれども、肝心のカフェのエピソードが書かれていないので、具体性に欠けるのがすごくもったいないと思います。

例えば最初の3つの文章。実は似たようなことを言っていて、後の2つの文章(思ったことは〜、必死さとどんな小さなことにも〜)はいらないかもしれない。2ヶ月で起業して2年間カフェを経営していたのは面白そうなのに、内容が全く書かれていないのがもったいないなと感じました。

ロジックだけでもよくないし、人格でもよくない。ということですね。

次の例に行きましょう。

ES実例③

イメージ スライド ES実例③

最初から面白そうだと感じさせるし、どの文章も具体的なのがいいですね。

ただ、要素を分析すると、お寺の話、バレエの話、キリスト系学校への進学、日本画、Z世代…と、話がバラバラでロジックがない。「知らないことに強烈な関心がある。だから、会社に入っても知らないことをやっていきたい」など、話を絞った方がいいと思いました。

話が具体的で人柄が出ていても、ロジックが全くないのも読みづらい、というお話でした。

次に行きましょう。

ES実例④

イメージ スライド ES実例4

このES、「私とは正反対な、陽気で誰からも好かれる兄に憧れを抱き」の部分はすごくいいです。でも、その次で急に紋切り型になってしまうんです。


イメージ スライドES実例4添削

きっと本当に思っていることなんだと思いますが、キツイ言い方をすると紋切り型に感じられます。すごくいい入り方だったのに、ESであることを意識して、借りてきたような言葉を使ってしまうのはすごくもったいないと思います。

ありがちな「優秀な学生」のイメージに自分を当てはめずに、自分の言葉で書きましょう。

恋愛リアリティ番組の『バチェラー・ジャパン』を見ていても、「どれだけ自分をさらけ出せるか」と言っています。自分をさらけだせた方がモテる。自分の言葉で自分をさらけ出すことが大事です。

まとめると、こうなります。

良いESとは、
・人格がある
・ロジックがある
・自分の言葉で書かれている(紋切り型NG)

 
 

ESは、「◯◯の人」と覚えてもらえれば勝ち

最後に、今回いただいたESの中でこの3つ満たしてすごくいいな、と思ったものを2つ紹介します。

ES実例⑤

イメージ スライド ES実例5

まず、入りがいいですよね。「私の長所はリーダーシップです」というような文章を長々読んでいる中でこういう文章に出会うと、人事の方もハッとなります。全体を通してみても、「人格」「ロジック」「自分の言葉」が全て入っている、すごくいいESだと思います。

ただ、2文目が少し長くて読みづらいです。例えばこんなふうに変えてはどうでしょうか。


イメージ スライド イメージ スライド ES実例5


イメージ スライド イメージ スライド ES実例5

「一文一意」、一つの文章は一つの内容に留める、ということですね。そして、最後の締めはこんな風に変えてみると、より「逆転勝利の開拓者」感が出るんじゃないかと思いました。

「私は一生涯、逆転勝利の開拓者であり続けたい。そのために、領域を問わずクライアントと生活者をワクワクさせるような大逆転を画策し、実行できることのできる貴社で、持ち前の行動力を活かした活躍をしたい。」

「私は一生涯、逆転勝利の開拓者であり続けたい。広告会社でも、業界1位のクライアントを担当するより、伸び悩んでいる会社を逆転大成功に導くような仕事をしてみたい。」

「この人は『逆転の人』なんだ」と印象に残せれば、ESはもう勝ったも同然です。

最後の例に行きましょう。

ES実例⑥(Before)

イメージ スライド ES実例6

「3幕構成」は守りながら、「幽体離脱」というギョッとする言葉で入ったり、「一度失敗して成長する人なんだ」という定義づけを最初にして、それに沿ったエピソードを挙げてくれています。締めの「他のどんな幽霊にも負けません」もすごくいいなと思いましたね。

こちらも少しだけ、読みやすくしてみます。

「いいものを生み出せた時はいつも満身創痍でした

「いいものを生み出せた時はいつも死にかけていました

頭で一度「死んだ」と言っているから、「死ぬ」という話に統一してはどうでしょう?

「思い切って全く新しい企画で進め直し、更にクオリティを上げるためにillustratorを練習しました」

「思い切ってその案は殺し、全く新しい企画に輪廻転生させました

ここも「殺す」「輪廻転生」という言葉を使って、よりキャッチーにしています。

「機転の良さと諦めの悪さなら、他のどんな幽霊にも負けません」

「諦めの悪さなら、他のどんな幽霊にも負けません」

どちらかというと諦めが悪いという話なので、こちらに統一しました。ちょっとした違いですが、そっちの方が「幽霊」感が出ますよね。

ES実例⑥(After)

イメージ スライド ES実例6

こうすることで、「幽霊の人」という印象を強く残すことができます。

 
 

言葉で自分を隠すのをやめれば、ESは良くなる

ここから、今日のまとめです。

「何文字以上書かないといけない」という忖度や、気遣い、保険、横槍…そういうものに影響されて、私たちの言葉はどんどん窮屈になっています。誰もが「言葉の鎧」をまとって自分を隠しているように思えます。

でも、すべての人生は面白いと私は思っています。魅力のない人なんていない。だから、それを文章に出した方が絶対にいい。仕事も就活もうまくいくようになるし、ESが皆さんを思いがけない場所に連れて行ってくれるはずです。

皆さんの就職活動の成功を祈って、このセミナーを終わります。今日はありがとうございました。

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橋口幸生(はしぐち・ゆきお)

電通 クリエーティブ・ディレクター、コピーライター。ソーシャルメディアで支持されるコピー、企画を得意とする。代表作はニデック「世界を動かす。未来を変える」、伊藤忠商事「キミのなりたいものっ展?」、アデカ「地味だけど、すごい」、鬼平犯科帳25周年ポスター、「世界ダウン症の日」新聞広告、貞子3D「世界でいちばん、3Dが似合う女」など。『言葉ダイエット』(宣伝会議刊)、『100案思考』(マガジンハウス刊)著者。TCC会員。Twitterフォロワー2万人超。趣味は映画観賞。

『言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術』 橋口幸生著/定価1,650円(本体1,500円+税)

なぜあなたの文章は読みづらいのか。理由は、ただひとつ。「書きすぎ」です。伝えたい内容をあれもこれも詰め込むのではなく、無駄な要素を削ぎ落とす、「言葉のダイエット」をはじめよう。すぐマネできる「文例」も多数収録。


 




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