「広告換算」は“なしではない”
まず、大前提として、私は広告換算を広報活動の成果指標として採用したことはありませんが、皆さんが一様におっしゃられるように「広告換算=ナンセンス」だとは思いません。
ただし、特定の状況・目的下においては有効になりえる、という解釈です。
たとえば、飲料や食品、消費財などマス商材かつ商品サイクルが早く市場のパイが一定決まっていて、その限られたパイの中でシェアを奪い合う構造の業界の場合。
不特定多数(=マス)に対して自社製品・サービスの認知を高め、(同業他社に対して)相対的に高い認知・マインドシェアをキープすることが勝利条件となる場合は、露出内容・質を問わず、とにかく露出の「量」を取りに行くことが重要になります。
新製品ローンチなどの際にテレビCMなどの出稿計画と併せてパブリシティキャンペーンを展開し、その活動目標の設定および振り返りとしての成果報告の際に広告換算を活用する、というようなケースにおいては有効ではないでしょうか。
上記は広告代理店やPR会社においては自分たちの活動成果を大きく見せるには使い勝手の良い指標ですし、広報に詳しくない経営や事業部門の方からすると、絶対的な金額の多寡・妥当性はともかく、わかりやすさはあります。
あるいはインハウスの事業会社の広報部門においても、時系列での活動実績を示す指標として、前年同期比や前期比などを同一条件下で比べることにより、「前期に比べて露出量が減ったので、来期は活動ボリュームを増やしましょう」といった示唆が何らか得られるかもしれません。
……いずれにしても、露出実績・ボリュームを見るための「参考指標」として一定程度は有効である、ということかなと思います。
他方、裏を返せば露出実績・ボリューム「しか」わからないので、これを単一の成果指標としてしまうと次のような考え方になりがちです。
・掲載数・換算額を稼ぐために、本質的に事業や経営に資するような内容でなくても、プレスリリースの転載記事含め、とにかく発信・露出すれば良い
・経営や事業のモメンタムが無くても、短期的な「足もとのメディアニーズ」に応じてとにかく定常的に露出させれば良い
といったように、事業課題やあるべき姿からの逆算ではなく、短期偏重のパブリシティ積み上げ思考に陥りやすくなる危険性があります。
勘の良い方はお気づきかもしれませんが、これ、第3回コラムでご紹介した「頑張っているのに評価されない…」という広報の悪循環のケースそのものです。
先に挙げた飲料や食品、消費財などマス商材の例のように、とにかく短期的に認知(名称認知)を上げることが善の場合はこれでも良いかもしれませんが、企業活動というものは持続的なものであり、会社・事業として取り組んでいる内容やメッセージの一貫性や継続性こそが中長期的な信頼性や共感性に繋がると私は考えています。
「メディアニーズが高いから」という理由で、目先の露出・掲載を追いかけることに終始してしまうと、企業価値の向上や事業機会の最大化といった広報活動の本質的なゴールを見失いかねません。
これに加えて、広告換算の算出には一定のコスト(手間・費用)がかかります。
プレスリリース配信サービスなどでも簡易的に広告換算費を算出するサービスがあるようですが、限られた人員・予算のなか、良くも悪くも「参考指標」に過ぎない広告換算に対して、どこまでコストを投下すべきかはフラットに考えてみても良いのではないでしょうか。