NYでONIGIRI大人気!憧れこそが購買促進、日本の常識を切り離すことが必要な理由

昨今、日本でもおにぎりの人気が高まっているようだが、ここニューヨークでも、ONIGIRIが大きな注目を集めている。最近では、ストリートフェアやイベントでONIGIRIを求める人々の姿を多く見かけるようになった。
ニューヨークでは、気候が良くなる春から夏にかけて、毎週末どこかでストリートフェアやイベントが開催されている。これらのイベントには必ずフードベンダーが出展しており、その中でも特に日本のフードベンダーが大きな賑わいを見せているのだ。

写真 ニューヨークのストリートフェアやイベント
Photo credit: Niena Etsuko Hino
Japan Fes

その中でもONIGIRIは特に人気で、多くのベンダーが販売している。4月初旬に視察したジャパン・フェスでは、2ブロックという限られた場所の中で、約10か所でONIGIRIが販売されており、それぞれに長い列ができるほどの人気だった。興味深いのは、購入者の多くが在米日本人ではなく、非日本人(アメリカ人とは限らない)だったことだ。
おにぎりの種類は、シンプルな梅や昆布から、ご飯に味がついたものやボリュームのある具材が特徴のものまで多岐にわたっている。

写真 ニューヨークで販売されているONIGIRI
Photo credit: Niena Etsuko Hino
Japan Fes

振り返ると、ONIGIRIは以前からニューヨークで販売されていた、しかし、寿司ほどの注目を集めていなかった。そのため、今年に入ってから開催されているストリートフェアやイベントでONIGIRIを求めて並ぶ人々の姿には驚かされた。
このONIGIRIがニューヨークで注目を浴び始めたきっかけの一つに、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などのアニメがある。これらのアニメでONIGIRIの存在を知り、人々は「あれを食べてみたい!」という憧れが湧いたわけだ。
しかし、興味深いことに、ONIGIRIを購入した人々を観察していると、美味しそうに食べる人もいれば、2口ほど食べて捨ててしまう人もいた。また、海苔を食べない人も少なくない。原因の一つには、あの、食べるときにご飯に海苔を装着させる日本人にとっては当たり前かのように馴染みのあるビニールパッケージの外し方がわからないこと。ビニールパッケージを完全に開き、その上に乗っているご飯だけ食べ、ビニールパッケージの間に存在している海苔も合わせて外包みと勘違いしているのか、捨ててしまう人も少なくなかった。また、海苔を内側に巻くことで、黒い海苔のインパクトを少なくして、寿司を広く一般に浸透させたように、未だ海苔が苦手な人が一定数いることも示している。

こうした光景を見て、ふと思ったのは、日本人が海外の映画やTVドラマで見た食べ物を試してみたい、どんな味か?ではなく、あれを食べるという行為をしてみたいと、憧れる気持ちと全く一緒なのだ。例えば、『セックス・アンド・ザ・シティ』や『プラダを着た悪魔』で主人公が食べていたマグノリアベーカリーのカップケーキを試してみたいと思うのと同じだ。実際、マグノリアベーカリーのカップケーキは非常に甘く、日本人には一つ食べるのがきついかもしれないが、初体験とはそういうものだ。初体験があるからこそ、次のステップがある。食べ物を口に入れてみるという行為は、人間の選択と行動においてかなりハードルが高い。その行動を促すアニメの影響は、非常に強力だと改めて感じた。

また、ニューヨークは日本よりもヘルスコンシャスな人が多く、中でもグルテンフリー食を選択する人も多いことから、パンなどをはじめとした粉物よりも米を選び、それがONIGIRIブームを後押ししているとも考えられる。そして、既にシーウィードサラダ(海藻サラダ)が市民権を得ていることもあり、海苔がシーウィードであるとわかっている人にとっては、カロリーがほとんどなく、ミネラルが摂取できる食材ということで、尚更良いものと思っているかもしれない。
このように、健康志向のニューヨーカーにとって、おにぎりは手軽に食べられる健康的な日本食(スナック)として興味をもたれ始めているのだ。

写真 ニューヨークのONIGIRI
Photo credit: Niena Etsuko Hino
BentOn booth @Japan Parade

先週末にブルックリンで開催された、ストリートファッションマガジン『Hypebeast』主催のイベント「Hypebeast Flea」でも、フードベンダーでONIGIRIが販売されていた。ストリートフェアのような“みんなの露天”とは違い、ブルックリンという場所柄も手伝って、スタイリッシュで緩い雰囲気の人々が集まる大盛況の場。思い思いのオシャレをして集ってきた人々がONIGIRIを食べている姿を見ることができた。

写真 ストリートファッションマガジン『Hypebeast』主催のイベント「Hypebeast Flea」
Photo credit: Niena Etsuko Hino
@HypeBeast Flea
写真 ストリートファッションマガジン『Hypebeast』主催のイベント「Hypebeast Flea」
Photo credit: Niena Etsuko Hino
Mama Yoshi Mini Mart のONIGIRI @HypeBeast Flea

さて、このONIGIRIの価格だが、ストリートフェアで販売されているものは総じて6ドル以上。サイズは日本のコンビニで売られているおにぎりよりも一回り大きいか?という程度だが、露天で販売されているため、通常店舗での価格より割高。それでも、飛ぶように売れているのは驚きだ。

ここまで読んだ方は、「美味しいご飯を炊いて自分で作れば、もっと安く食べられるのでは?」と考えるかもしれない。実際、NYでのONIGIRIの話をしたところ、「うちでは、美味しいご飯を炊ける鍋があるんです!それを売れるのでは!」とおっしゃった企業があった。しかし、ニューヨークの非日本人消費者はONIGIRIを食べてみたいのであって、美味しいご飯が食べたいわけではない。ここが非常に大事。従って、自分で作ろうと思う人も当然ながら少ないだろう。この点を考慮すると、日本の常識をそのまま持ち込むのではなく、やはりアメリカそして、アメリカでもその都市毎の生活背景や文化、消費者のニーズをしっかり把握し、それに合わせたブランディングとマーケティングをすることが必須なのだ。
また、日本人は興味を持ったものを試し、自分で作ってみようとする傾向が強いが、アメリカ人はそうではない。だからこそ彼らは、作られたものや提供されるサービスに対価を支払う訳だ。当たり前の基準に存在するこの違いも踏まえ、ビジネスに活かせるかどうかが上手くいくかどうかの分かれ道だ。

ONIGIRIがニューヨークでここまで注目を集め、クールな人たちが立ち食いする姿がある。ニューヨークでのONIGIRIの進化がどのようになっていくのか楽しみだ。

advertimes_endmark


日野江都子(企業ブランディング・プロデューサー/ 国際イメージコンサルタント)
日野江都子(企業ブランディング・プロデューサー/ 国際イメージコンサルタント)

東京生まれ、ニューヨーク在住。フリーランスを経て、2004年、ニューヨークでリアル コスモポリタンを設立。日欧米亜合わせ数千人のハイプロファイリング・クライアント(日系企業や外資企業日本法人の経営層、政治家、財界人、セレブリティーなど)の包括的なブランディングを手がけてきた。施策提案など総合的なコンサルティングを実施し、高い評価を得ている。主な著書『仕事力をアップする身だしなみ 40のルール』(日本経済新聞出版社) 、『Premium Image Management for Men』DVD監修(SONY PCL)、『NY流 魅せる外見のルール』(秀和システム) など。

日野江都子(企業ブランディング・プロデューサー/ 国際イメージコンサルタント)

東京生まれ、ニューヨーク在住。フリーランスを経て、2004年、ニューヨークでリアル コスモポリタンを設立。日欧米亜合わせ数千人のハイプロファイリング・クライアント(日系企業や外資企業日本法人の経営層、政治家、財界人、セレブリティーなど)の包括的なブランディングを手がけてきた。施策提案など総合的なコンサルティングを実施し、高い評価を得ている。主な著書『仕事力をアップする身だしなみ 40のルール』(日本経済新聞出版社) 、『Premium Image Management for Men』DVD監修(SONY PCL)、『NY流 魅せる外見のルール』(秀和システム) など。

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

このコラムを読んだ方におススメのコラム