振り返ると、ONIGIRIは以前からニューヨークで販売されていた、しかし、寿司ほどの注目を集めていなかった。そのため、今年に入ってから開催されているストリートフェアやイベントでONIGIRIを求めて並ぶ人々の姿には驚かされた。
このONIGIRIがニューヨークで注目を浴び始めたきっかけの一つに、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などのアニメがある。これらのアニメでONIGIRIの存在を知り、人々は「あれを食べてみたい!」という憧れが湧いたわけだ。
しかし、興味深いことに、ONIGIRIを購入した人々を観察していると、美味しそうに食べる人もいれば、2口ほど食べて捨ててしまう人もいた。また、海苔を食べない人も少なくない。原因の一つには、あの、食べるときにご飯に海苔を装着させる日本人にとっては当たり前かのように馴染みのあるビニールパッケージの外し方がわからないこと。ビニールパッケージを完全に開き、その上に乗っているご飯だけ食べ、ビニールパッケージの間に存在している海苔も合わせて外包みと勘違いしているのか、捨ててしまう人も少なくなかった。また、海苔を内側に巻くことで、黒い海苔のインパクトを少なくして、寿司を広く一般に浸透させたように、未だ海苔が苦手な人が一定数いることも示している。
こうした光景を見て、ふと思ったのは、日本人が海外の映画やTVドラマで見た食べ物を試してみたい、どんな味か?ではなく、あれを食べるという行為をしてみたいと、憧れる気持ちと全く一緒なのだ。例えば、『セックス・アンド・ザ・シティ』や『プラダを着た悪魔』で主人公が食べていたマグノリアベーカリーのカップケーキを試してみたいと思うのと同じだ。実際、マグノリアベーカリーのカップケーキは非常に甘く、日本人には一つ食べるのがきついかもしれないが、初体験とはそういうものだ。初体験があるからこそ、次のステップがある。食べ物を口に入れてみるという行為は、人間の選択と行動においてかなりハードルが高い。その行動を促すアニメの影響は、非常に強力だと改めて感じた。
また、ニューヨークは日本よりもヘルスコンシャスな人が多く、中でもグルテンフリー食を選択する人も多いことから、パンなどをはじめとした粉物よりも米を選び、それがONIGIRIブームを後押ししているとも考えられる。そして、既にシーウィードサラダ(海藻サラダ)が市民権を得ていることもあり、海苔がシーウィードであるとわかっている人にとっては、カロリーがほとんどなく、ミネラルが摂取できる食材ということで、尚更良いものと思っているかもしれない。
このように、健康志向のニューヨーカーにとって、おにぎりは手軽に食べられる健康的な日本食(スナック)として興味をもたれ始めているのだ。