ハードルの高い家電のサブスク 安定した長期利用につなげるパナソニックの戦略

家電量販店でもサブスクへの期待強まる

音楽や車など様々な定額利用(サブスクリプションサービス)が普及する中、家電業界も新しい売り方を取り入れている。メーカーではパナソニックが2020年にサブスクサービスを開始。家電量販店でもサブスクやレンタルサービスを展開するケースが増えている。顧客にとっては高額家電を利用しやすくなり、多様なライフスタイルに対応できるなどの利点がある。販売店やメーカー側にも、安定した収益やデータ収集、環境負荷軽減など様々なメリットが存在する。パナソニックのECサイト「Panasonic Store Plus」上でサブスクを展開しているパナソニックコンシューマーマーケティングジャパン本部と、調理家電のサブスクサービス「foodable(フーダブル)」を扱うパナソニック「くらしアプライアンス社」のキッチン空間事業部にそれぞれ取材した。

写真 人物 集合 「パナソニックストアプラス」を担当するコンシューマーマーケティングジャパン本部と、「フーダブル」を担当する分社「くらしアプライアンス社」キッチン空間事業部の関係者

「パナソニックストアプラス」を担当するコンシューマーマーケティングジャパン本部と、「フーダブル」を担当する分社「くらしアプライアンス社」キッチン空間事業部の関係者

パナソニックが提供しているサブスクリプションサービスは、理美容やキッチン家電など様々な商品を定額利用できる。高価格商品も手頃な価格で使い始めることができるほか、契約期間中は無償保証や様々な付帯サービスを受けることが可能。商品によっては利用中に買い取ることもできる。当初は「ペットカメラ」と「スチーマーナノケア」の2商品からスタート。現在は美顔器やドライヤー、食洗器など11商品(29品番)をラインナップしており、プラン数は34~35にも上る。

コンシューマーマーケティングジャパン本部の峯村和典係長は「世の中のニーズが『所有』から『利用』に移りつつあった」と当時の背景を語った。家電は「気にはなっているが、購入に踏み切れない」と考える人も多く、サブスクとの親和性が高かったという。特に理美容家電は継続的に利用することで効果を発揮するため、店頭での一度きりの体験では味わえない効果を実感できるなど利点が大きい。現在は置き場を選ばないタンク式の食器洗い乾燥機のプランが特に人気だ。

家電のサブスクはパナソニックとしても初の試みで、サービスからシステム設計まで、全て手探りの状態から始まった。当時猛威を振るっていた新型コロナ感染症の影響も大きく、在宅時間が伸長したことで「スチーマーナノケア」の需要が高まった一方、外出先からペットの様子を見守る機会が減ったことで「ペットカメラ」は解約が相次いだという。この経験も踏まえ、峯村氏は「サブスクはその時々にあった商品を提案しないといけない」とし、ライフスタイルの潮流に合わせてラインナップを展開することが長期利用につながると指摘した。

写真 人物 集合 峯村和典(右)

サブスクではドライヤーやスティック掃除機などをラインナップ。峯村氏(右)は「サブスクの循環の仕組みを通じて、環境負荷の軽減も合わせて取り組んでいきたい」と話した

動画や音楽などのサブスクは一般的と言えるほど普及しているが、家電のサブスクは事例が少ない。無形のデータをやり取りする配信サービスなどと異なり、実物を送る家電のサブスクでは、配送や返却時にかかる物流コストのほか、契約終了後に戻ってきた家電の利用方法など、様々なハードルが存在するからだという。解約を減らすための工夫も必要で、峯村氏は「サービス開始時はノウハウもスキームもなく、仕組みづくりが特に大変だった」と振り返る。アフターサービスの充実が、従来の売り切り型の商品提案以上に重要になるという。同社は契約後も様々なサポートを提供しており、美顔器の例では、効果的な使い方などを伝える美容セミナーやマンツーマンのカウンセリングなどを実施している。

「返却後の商品を循環させる仕組みも必要」と峯村氏。同社はメーカーが主体となって使用済み家電を改修した検査済み再生品「リファービッシュ品」を拡大しており、4月10日から「Panasonic Factory Refresh」という新名称で事業をスタート。サブスクではヘアドライヤー「ナノケア」などのリファービッシュ品を提供するプランを展開している。

サブスクは若者向けのイメージも強いが、同社によると「商品ごとのボリューム層とほとんど変わらない」としている。定額利用をきっかけにブランドや商品の魅力に触れてもらえる利点が、メーカーにとってサブスクの大きな意義だという。顧客との長期的な関係を築くことができる点も有用で、定期的なアンケートなどを通じて収集したデータをサービスに反映させている。

写真 人物 集合 森健太郎(右)

「フーダブル」では自動調理鍋「オートクッカー」などを提供。森氏(右)は「本当に大切なのは中身。より良いコンテンツを提供していきたい」と意気込みを語った

大切なのは商品ではなく「体験価値」

サブスク自体は目新しいものではなく、「本当に大切なのは、サブスクによって提供する中身だ」と話すのは、くらしアプライアンス社キッチン空間事業部ビジネス・インキュベーション課の森健太郎課長。家電そのものではなく、体験価値の訴求がサブスクに求められるとし、食材と調理家電をセットで提供するサブスクサービス「フーダブル」について話した。

フーダブルは2021年にスタート。自動調理鍋や炊飯器といった調理家電だけでなく、食材を定期的に届ける。前例のない取り組みだったが、「『所有』より『利用』」の傾向が強まっている若い世代とっては、食体験そのものが重要と考え、同サービスが誕生した。同社が2021年6月23日~30日に実施したインターネット調査では、10~60代男女の約7割がサブスクに興味を持っており、食材やお菓子への関心は音楽・動画配信サービスに次いで高いことが分かった。コロナ禍で外食機会が減ったことで、自宅で新たに料理を始めたり、栄養バランスを意識したりする人が増えたことが要因とみられる。

同社は食材を提供するパートナー企業との協業に力を入れ、ラインナップを拡充。現在は16コースを展開しており、最新モデルの調理家電を利用できる。50種類以上の銘柄米を毎月選び、可変圧力IHジャー炊飯器「ビストロ」で炊き上げるコースでは、銘柄米の性質に合わせて自動で炊き分ける「ビストロ匠技AI」の能力を実感できる。自動調理鍋「オートクッカービストロ」と調味料のセットでは、簡単操作で本格的な味を楽しめる。

利用者のボリュームゾーンは40~50代で、ファミリー層や夫婦の契約者が多い。具体的な契約数は公開していないが、昨年度の獲得件数は前年比200%以上。月によっては同500%以上の伸びを見せたという。コロナ禍でのサービス開始だったことから、外出自粛に伴う内食ニーズが普及を後押し。キッチン空間事業部の關智子係長は「コロナ収束後も自宅での調理習慣が定着したことで、継続して伸長している」と話した。解約率も想定以上に少なく、豊富な食材のバリエーションが長期利用につながっているとみている。

食材のサブスクサービスや家電のレンタルでは競合が存在するが、食材とのセット提案は同社ならでは強みとしている。在宅時間が伸びたコロナ禍では様々なサブスクが注目を集めたが、サービスを使いきれないというケースも見られた。一方、調理家電は日々の生活で使用する必需品のため、無理のない長期利用がしやすい利点がある。そのメリットを生かし、同社は定期的なレシピの提供やオンラインイベントによるコミュニケーションを通じて、顧客との関係構築につなげている。

グラフ その他 サブスクによる環境負荷軽減の取り組み

家電量販店も注目するサブスクによる環境負荷軽減の取り組み

家電量販店にも広がるサブスクサービス

環境負荷軽減の観点から、小売店でもサブスクリプションが注目されている。ヤマダデンキとみずほリースは3月29日、法人を対象とした家電のサブスクサービス「ヤマダビジネスレンタル」の開始に向けた業務提携契約を締結した。賃貸マンションやアパートなどが対象で、家具や家電付きの物件として付加価値を高めることができる。使用済み家電を回収してリユース・リサイクルを行う製品ライフサイクルをグループ内で完結するプラットフォームを構築し、社会全体の環境負荷低減に貢献する考えだ。

家電のレンタルについては、以前から多数の問い合わせがあったという。同社は家電の販売、設置、回収の仕組みを整備している一方で、法人向けの審査や料金回収の分野が未調整だったため、みずほリースと協業することでレンタル事業を実現した。

サブリースを希望する企業からの要望で、「液晶テレビ」「2ドア冷蔵庫」「全自動洗濯機」「単機能レンジ」の4種類を提供。今後は、新品家電については同社グループのCICが買い取りを行い、リユース可能であれば順次拡大していく予定だ。リユース家電のレンタルもニーズがあるとしており現在検討中。パソコンのレンタルについても事業化を検討している。

利用料金は、単身世帯向けのシンプルな家電製品を選定した場合、3年の利用期間で月々4980円(税別)をベースとしている。ターゲットは単身世帯向け賃貸を管理している不動産管理業をメインとしつつ、病院、社員寮、老人ホーム、住宅展示場なども視野に入れている。

独自の強みとして、広報担当者は「グループでサービス全般を提供可能で、新品家電であれば、店頭やWEBで好きな家電を選べる」と話した。全国に拠点がある法人営業担当が相談窓口となり、商品の検討から導入に至るまでサポートする。

ビックカメラも新品のカメラを店舗でレンタルできる「テイクアウトレンタル」のサービスを展開。同サービスはカメラレンタルを手掛ける「GOOPASS(グーパス)」が提供するサービスで2020年から実施している。店舗でサービスに登録することでレンタルでき、気に入った場合は購入も可能。その際はレンタルで支払った分だけ割引される。月額レンタル料は本体価格の10分の1で、最低レンタル期間は2カ月。対象店舗は一部を除く直営店で、対象商品はカメラやレンズなど約1720アイテム(2024年5月1日時点)となる。

レンタルサービスの意義について広報担当者は「性能が良い高価格帯のカメラ製品は購入のハードルが高く、使いたくても購入に踏み切れないお客さまは多い」と話した。「テイクアウトレンタル」を利用することで購入ハードルが低減するほか、購入までの選択肢を増やすことで顧客満足度向上につながるとしている。運動会や入学式など、短期使用を前提としたニーズも想定している。

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