ジャーナリズム界の最高権威「ピュリッツァー賞」を創設
ジョーゼフ・ピュリッツァーは、アメリカ合衆国の著名な新聞発行者およびジャーナリストであり、ジャーナリズム界の最高権威として今日でもその名が残る「ピュリッツァー賞」を創設した人物として知られています。
ハンガリーのユダヤ系の名家に生まれたピュリッツァーがアメリカに来たのは、南北戦争の義勇軍に参加するためでした。北軍の騎兵隊に雇われましたが、戦争はすぐに終わり、英語が話せない彼はドイツ人移民が多かったミズーリ州のセントルイスに移ります。
セントルイスに定住後、彼はドイツ語新聞『ヴェストリヒェ・ポスト』で働き始めました。その後、英語新聞『セントルイス・ディスパッチ』と『セントルイス・ポスト』を買収・統合して『ポスト・ディスパッチ』を創刊し、編集者および発行人となりました。
セントルイスは、ミズーリ、ミシシッピ両川の合流地点の交通の要所であり、大陸中西部の玄関商業都市として発展していました。その結果、行政をはじめ上流階級に汚職や偽善がまん延し、一般大衆の不満は高まるばかりでした。
ピュリッツァーの新聞は、そうした社会問題を大々的に取り上げ、読者の支持を集めた結果、発行部数を大いに伸ばしました。
この成功を元に、彼は経営難に陥っていた『ニューヨーク・ワールド』を買収してニューヨークに進出。セントルイスでの成功体験を元に、「私は自分の読者としていかなる人々も排除しない」という編集方針の下、暴露記事を中心としたセンセーショナルな紙面が読者の支持を集めました。
彼は夕刊紙『イブニング・ワールド』も創刊し、19世紀末には2紙あわせて37万部以上という、全米有数の発行部数を誇る新聞に成長させました。
ハーストとの戦いから生まれた「イエロージャーナリズム」
ピュリッツァーを有名にしたスキャンダルといえば、1890年代に起きた彼の『ニューヨーク・ワールド』とウィリアム・ハーストが所有する『ニューヨーク・ジャーナル』両紙の販売合戦です。
両紙は販売部数を伸ばすために、センセーショナルな報道を競い合いました。ハーストはワールド紙で連載されていた漫画『イエロー・キッド』の作者を引き抜き、彼のジャーナル紙で掲載を始めます。
ピュリッツァーも負けじと、大金で作者を引き抜き返し、一時期両紙に同じ漫画が掲載されるなど、その引き抜き合戦が両紙の販売競争と共に、過激なものとなっていきます。この泥沼的な販売競争や編集方針が、イエロー・キッドの主人公の名前(黄色のシャツを着ているところから名付けられる)から、「イエロージャーナリズム」という言葉を生むきっかけとなりました。
ピュリッツァーは1911年に亡くなりましたが、生前コロンビア大学に200万ドルを寄贈する協定に署名しており、それを元に同大学にジャーナリズム大学院が創設されました。
1917年には「ピュリッツァー賞」が創設され、彼の功績をたたえると共に、優れた業績を残したジャーナリストを賞することになりました。
ピュリッツァーは、派手な見出しや感情的な物語で汚職や不正を暴く調査報道を重視し、読者を引きつける「大衆ジャーナリズム」を編集方針として、新聞の販売数を大幅に増加させました。彼は、自身の編集方針が一般大衆にとって公共の利益を追求する役割を果たすものだと信じ、そのために新聞を活用しました。
ピュリッツァーは、ジャーナリズムの発展に大きく貢献し、その影響は今日でも続いています。彼の業績と理念は、ピュリッツァー賞を通じて現代の報道や文化に影響を及ぼし続けています。
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イエロージャーナリズム
イエロージャーナリズム(Yellow Journalism)とは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、特にアメリカ合衆国において広まった報道スタイルのこと。イエロージャーナリズムは、センセーショナルな見出しや誇張された内容、感情的な報道を特徴とし、読者の関心を引くために事実の正確性よりもエンターテインメント性を重視した。
「イエロージャーナリズム」という名称は、リチャード・F・アウトコルトの漫画『イエロー・キッド』(The Yellow Kid)に由来する。この漫画が『ニューヨーク・ワールド』に掲載され、その人気に嫉妬したハーストが作者をジャーナル紙に引き抜き、それに対抗してピュリッツァーのワールド紙がまた引き抜きを繰り返した。
『イエロー・キッド』は、大衆紙として派手な見出しや内容で販売部数を競い合う両紙の象徴となり、漫画の主人公が着る黄色い服装から両紙のセンセーショナルな内容をイエロージャーナリズムと呼ぶようになった。
現代のタブロイド紙や一部のオンラインニュースメディアは、イエロージャーナリズムの手法を受け継いでいる。インターネットやソーシャルメディアの普及により、センセーショナルなニュースが迅速かつ広範に拡散されることが多く、情報の信憑性がしばしば問題となっている。