5月30日、東京・帝国ホテルにて、東京アートディレクターズクラブによる2023年度ADC賞の授賞式が行われた。
式の冒頭では、会場に参加できなかった原研哉審査委員長よりビデオメッセージにて審査講評が伝えられた。
「2023年度は昨年より作品応募数が増加。CI、マークロゴが特に多く、CM、グラフィックなど従来のメディアが減少する中で、新しい技術で工夫された表現、リバイバル風の作品など入り乱れて混とんとした1年でした」
2023年度のADC賞は昨年11月に発表されており、グランプリを受賞したのは、中村勇吾氏によるPlayStation、Steamのビデオゲーム「HUMANITY」。
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原氏はグランプリを受賞した本作について「世界観の構築が抜きんでていた。このゲームにおいてはあらゆる局面、あらゆる瞬間、あらゆるディテールに至るまで、作者のゲームに対する美意識が隅々まで行きわたっている。膨大なエネルギーの投入とエネルギーの結晶を感じる作品で高い評価を得た」と話した。
「HUMANITY」トレーラー
「HUMANITY」は、すべての人類から自我が失われた世界の中で、唯一、理性と意思を保ち続け、最後の指導者となった柴犬が群衆を「光の柱」というゴールへ導いていくパズルゲーム。中村氏は旧約聖書のエクソダスをモチーフに制作を開始し、完成までに5年を要したという。
「これまでにないくらい大量の群衆が驚くほど滑らかに動く特殊なシステムでビデオゲームをつくり、ネットで公開しました。公開したのは、ゲームとして完成させる予算がなく、ビジネスとして世の中に出す手立てがわからなかったので、パブリッシャーに声をかけてもらえたらと考えたことから。そしてある日、水口哲也さんに声をかけていただいた。
水口さんは僕が若いときに夢中になったゲームを数多く手がけた人で、ゲームの世界ではヒーロー。そんな人から声がかかって、驚きながらも絶対にやりますと動き始めました。僕らはシステムや世界観をつくるのは得意ですが、ゲームとして面白いものを成立させるのが未経験で、時間をかけてゲームのいろはをレクチャーしてもらいながらなんとか完成にこぎつけました。せっかくつくったのでADC賞に応募させてもらったら、グランプリをいただくことができました。会員の皆さんに勇気をもって審査をしていただいたのかなと思っています」と、中村氏は受賞の言葉を述べた。