クライアントとして登壇したエンハンス代表 水口哲也氏は「あるフェスでこのデモ映像を見て忘れられなくなり、中村さんに連絡をした」という。「このゲームにはHUMANITYというタイトルにこめられた人間性など、さまざまな人間の内面を感じるストーリーやシーンが出てきます。そして世界中のあらゆる人がこのゲームで遊んだときに、人種や年齢、性別を超えて自分ごと化できる体験設計を、中村さんは最後までつくりあげてくれました。その一貫したアートディレクションが、まさに中村勇吾だと思います」。
水口哲也氏
そして授賞式後、ADC HALL OF FAMEの表彰式が行われた。
HALL OF FAMEに選ばれたのは、アートディレクター 副田高行氏。これまでにサントリー、トヨタ、宝島社をはじめとする数々の企業広告で時代の風景を表現。中でも新聞広告を多く手がけ、企業のメッセージを見る人ひとり一人に手紙を送るようにデザインし、時にユーモラスに、時に温かく、人々の心に残る広告をつくり続けてきた。日本の広告界に大きく貢献してきた栄誉を称え、細谷巖ADC会長からHALL OF FAMEが表彰された。
細谷会長からトロフィーを受け取る副田氏。
表彰を受けた副田氏は、スピーチが長いことで知られている。そのため「スピーチが長いと怒られるんで」と前置きしたうえで、今回は漫才のような二人のかけあいを1人で演じるかたちでスピーチを開始した。
「HALL OF FAMEとは何か」の説明から始まり、若かりし日のデザインとの出会い、コピーライター 仲畑貴志氏との運命的な出会い、はじめてのADC賞受賞など、これまでの仕事や出来事を振り返った。
「人の一生は偶然に満ちている、と誰が言ったか知らないけれど、偶然と運だけでここまできてしまった。気づいたら学校を出て56年経ってしまった。その間、仕事一筋。『近道なんか、なかったぜ。』、河井寛次郎の『新しい自分が見たいのだ──仕事する』という感じです。
今も気持ちだけは若い。青い、成長していないというか。自分は誰でもつくれるものを、誰もつくらなかったものをこつこつとつくってきただけ。それで今日は運よく殿堂入りさせもらい、つくづくラッキーな人生だと思います。それもこれも周りの優秀な制作者、スタッフ、理解あるクライアントと出会えたおかげ、そして家族のおかげ。本当に感謝です」
「愛とか、勇気とか、見えないものも乗せている。」「時代なんかパッと変わる。」「近道なんか、なかったぜ。」「私は、あなたの、おかげです。」といった名作コピーを織り込む、まさに副田氏ならではのスピーチとなった。
本年度の受賞作品を収めたADC年鑑は、6月27日に発売される。