谷山雅計×木下龍也「僕の短歌の下地には『谷山イズム』みたいなものがあるんです」

木下くんは「他の人が気づかない面白さ」を見つけてしまう人

谷山:次は木下くんからの質問ですね。

スライド 木下さん→谷山さんへの質問

僕が「木下くんは、言葉でストーリーみたいなものをつくったりするほうが向いていると思う」と言った本当の理由。それが、第一歌集『つむじ風、ここにあります』を読んだときに、ちょっとわかった気がしたんです。この歌集の中でも僕は特に以下の二首が好きです。

パース・イメージ 商品・製品 木下龍也著『つむじ風、ここにあります』(書肆侃侃房刊)

木下龍也著『つむじ風、ここにあります』(書肆侃侃房刊)

つむじ風、ここにあります 菓子パンの袋がそっと教えてくれる

全部屋の全室外機稼働してこのアパートは発進しない

コピーライターというのは、世の中の人が「面白いな」と感じたことについてその理由を考えて、その原理原則を別の場面に応用します。その「面白さ」というのは、たいていの場合、世の中の7〜8割の人が思っていることです。

ところが、木下くんはそもそも「他の人が気づかない面白さ」を見つけちゃっているんですよ。そして大切なことは、木下くんがそれを言葉にした途端、世の中の何割かの人間がその面白さに気づく、ということ。そういう意味で、あの時僕が告げるべきだったのは「みんなが気づいていない面白さを見つける人になった方がいい」だったんだな、と。この歌集を読んで、そんなことを思いました。

写真 人物 複数スナップ 木下龍也 谷山雅計

木下:短歌というものは、31音を使って1人でつくれます。ただ、そこに入れるものはサイズ(文字数)の都合上、あまりデカいものは入らない。だから、ちっちゃいものを見つけてそれを歌にすることになるんです。

谷山:一方で、僕はこの歌集を読んで、やっぱり広告を学んだ人の視点があるな、とも思いました。例えば「対佐藤シリーズ」と題された歌がありますよね。これも少し紹介しましょう。

全国の佐藤を線で結んだら日本の地図になりませんかね

一斉に佐藤が蜂起した夏のことをあなたは忘れないでね

警視庁佐藤対策班始動 佐藤今夜は震えて眠れ

ここで木下くんは、自分自身をディレクションしているんだと思う。こういうのは、かなり広告のキャンペーンづくりに近いんですね。

ちなみに、僕は詩とか短歌には疎い人間です。正直言うと、特に言葉が好きというわけでもないんです。僕が好きなのは、人やものごとを動かす知恵やアイデアです。ただ、そういう人間がコピーライターになったばかりの20代前半、あるものを繰り返し読んでいた。それが、谷川俊太郎さんの「マザーグース」の翻訳本でした。

とても簡単な言葉を使っているのに、本当に伝わってくるものがある。簡単なのに、薄っぺらくないんですよ。この本こそがコピーの理想に近いと感じて、繰り返し読みました。そして、いまやそんな谷川俊太郎さんと、木下くんが共著で本を出している(笑)。

木下:(笑)でも、僕も言葉マニアではなくて、言葉は道具だと考えている人間です。

谷山:そうなんだよね。言葉が好きすぎると、意外とコピーライターって辛いんですよ。優秀なコピーライターは、どこかで言葉にできることとできないことを見切っていて、言葉がすべてを変えられるとは思っていないものです。

写真 人物 個人 谷山雅計


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