「向いていない」と言われた過去が「成仏」した瞬間
谷山:次は、僕から木下くんへの質問です。
木下:先日、宣伝会議賞の中高生部門の審査員をさせてもらったんです。その時は、今のコピーは洗練されていて遊びが少ないな…と感じました。コピーは「解決の言葉」だと考えれば、ストレートに差し出す方がいいのかもしれないですけど。ふだん短歌で色々とひねりのあるものやあっと驚くものを見ているので、もっと遊んだらいいのにな、と。
谷山:ひょっとしたら、そうなった責任の一端は僕にもあるかもしれないね。広告というのは広告主の都合のいいことを伝えるわけだから、せめて楽しませてあげる「サービス精神」がないと見てもらえない。ただ、この本を書いた17年前は「サービス精神さえあればいいじゃないか」みたいな広告が多かった。だから、「広告なんだから、解決しないと意味がないですよね」と言ったんです。もしかしたら、いまはもう一度「サービス精神こそが大事だ」と言った方がいいタイミングかもしれないですね。
次に行きましょう。
いや、もう62歳だからさ。朝起きても体がだるいとか…そんなことくらいですよ(笑)。はい、次に行きましょう。
木下:これは、コピーの役割を短歌で取って代わる、というわけではなく、ふつうにコピーを書く仕事ということですか?
谷山:そうそう。
木下:ぜひ。ご依頼いただければ…(笑)。
谷山:そうだよね。コピーは「ご依頼いただければ」だからね。ただ、今なら木下くんはコピーライターができるんじゃないかな、と思うんですよ。しかも、結構いい広告をつくれるんじゃないかと。あの時は、僕が推薦文を書いてどこかの会社に入ったら、並のコピーライターになってしまうのでは…と心配したけど、今の木下くんは歌人として成功を収めているわけだから、周りの人も評価してくれやすくはある。それなら、短歌出身とか関係なく、純粋に良いコピーや広告をつくれるかもな、と思います。
木下:それって「就職しろ」ってことですか?
谷山:(笑)就職しろとは言わないけど、「今だったらコピーライターができると思う」ということを言いたかったんですよ。
木下:今、そう言っていただけて、何かが閉じたような気がします…。「コピーライターに向いていない」と言われた過去が、終わったのかな。
谷山:それはどういう意味?
木下:「成仏した」というか。
谷山:いやいや、僕は糸井重里さんに対談で「木下くんみたいな人は、コピーライターをやったほうがよかったんでしょうか?」って聞いたぐらい、気にはなっていたんですよ。
木下:何ですか、ツンデレじゃないですか(笑)。
谷山:はい、では次の質問。
ははは。僕の方こそ、木下くんに今後どうしたらいいか聞きたいぐらいですよ。
木下:谷山さんは、「谷山イズム」をいろんなところにばらまいてもらって、実はいろんな業界に谷山イズムを埋め込まれた人がいる、というフリーメーソンのような存在になっていただけると…。
谷山:僕はね、大学を出て以来42年間、コピーライターの仕事しかしていないんですよ。広告をつくることと広告を教えること以外でお金をもらったことがほとんどない。まあ、いろいろ考えたけど、やっぱり広告をつくることと広告を教えることしかできないから、「もう必要ありません」と言われるまでやるしかないと思いますね。
トーク後も会場から寄せられた質問に、時間いっぱいまで答えていただきました。おつかれさまでした!
定価2,200円(税込)
『広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉』 (谷山雅計著)
2007年に発売された広告コピーのロングセラー書籍『広告コピーってこう書くんだ!読本』が、増補新版になって新登場。デジタルやSNS時代のコピーのあり方についても言及した、約2万5000字の新テキストを収録しました。「人に伝わる」「伝える」広告コピーを書くためのプロのエッセンスを学べる一冊。