羽曳野市 辻村真輝さんからバトンを受け取り、登場いただくのは、岐阜県瑞浪市みずなみ未来部シティプロモーション課魅力発信係長 伊藤 允一さんです。
Q1:現在の仕事内容について教えてください。
まずは瑞浪市の紹介をさせてください。瑞浪市は、岐阜県の南東部に位置しており、中心部を土岐川が流れ、市域の70%を森林が占めるなど、緑豊かな自然環境を有しています。この緑豊かな自然に包まれたこの地も、実は太古の昔は海の底でした。そうしたこともあって、まちのあちこちからクジラや海獣、ゾウやウマ、貝類などの化石が出土し、「化石のまち」としても全国的に知られています。
市の北部を通る旧中山道には、現在もところどころに石畳の道や一里塚が残されており、かつての宿場町「大湫宿」・「細久手宿」の古びた格子戸の家並みと共に、往時のにぎわいを感じることができます。また、室町時代の創業といわれる美濃焼を中心に発展してきた「陶磁器のまち」でもあります。
2022年6月に瑞浪市の河川敷で発見されたパレオパラドキシアの全身骨格の化石(レプリカ)。
現在、私が所属するシティプロモーション課は、第7次瑞浪市総合計画において、子育て支援とシティプロモーションが重点施策として位置づけられため、行政組織の再編により2024年4月1日に新設された部署です。
課のメンバーは、課長以下、シティプロモーションの推進、移住定住施策、空き家対策、ふるさと納税、域学連携を行う魅力発信係が私を含む3名と、広報紙の発行や広聴関係を行う広聴広報係が2名、会計年度任用職員1名の計7名体制で業務を行っています。
Q2:貴組織における広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。
私が担当するシティプロモーション課の魅力発信係では、情報発信の強化、認知度・都市イメージの向上、シビックプライドの醸成に伴う定住人口・関係人口の増加させることがミッションです。
市民協働課から引き継いで実施している業務は、主に4つあります。1つ目は、「移住定住施策」として、移住相談、移住支援金の交付、移住定住ポータルサイトやSNS等を活用した情報発信、お試し移住体験施策等の実施です。2つ目は「ふるさと納税業務」で、寄附金の受付、ふるさと納税ポータルサイトの運営、魅力ある返礼品の開発、寄付者向けイベントの出展など、ふるさと納税全般の業務を行っています。3つ目は「空き家対策」で、市内の不動産事業者と連携しながら、空き家バンクの運営、物件のマッチングを行っています。4つ目は「域学連携」で、地域の高校や大学と連携して、市民の方々と一緒に地域の課題解決や活性化を図る事業を行っています。
今年度からは、上記に加え「シティプロモーション施策」が加わり、定住人口・関係人口の増加を図るために、新たな企画を思案中です。
Q3:ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。
シティプロモーションの担当として、常に心掛けているのは、実施する施策が、「自治体の独り善がりではなく、市民を巻き込んでできているか」と、「シティプロモーションを通じて、市民が瑞浪市に関心や誇りをもってもらえるか」の2点です。
認知度向上のため「地域外」に向けてのシティプロモーションも必要だとは思いますが、私はそれよりも「地域に住む人」に向けてシティプロモーションを行うことで、自分の住むまちに関心を持ち好きになってもらうことが、何よりも重要であると考えています。
ここで、市民協働課在籍時から取り組んできたシティプロモーション施策を例にお話させてください。
まず、市民協働課に配属になった2021年、当時は、新型コロナウイルス感染症の影響で、遠方への外出が難しい状況でした。そこで任天堂ゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」を活用して、ゲーム内に瑞浪市オリジナルの「みずなみ島」を制作して、気軽に瑞浪市の観光名所や街並みなどをリモートで訪れてもらうことで、市の魅力をPRしてもらう企画を立ち上げました。
実はこの企画、私が市役所の若手職員からメンバーを募り、勤務時間外に自主的行っていたもので、「みずなみ島」完成後、職員提案制度を活用して市長にプレゼンを行い、公式化してもらった経緯があります。
本企画には、私を含む職員の5人ほか、域学連携事業として、市内の高校等にも声をかけ、学生23人も参画しています。地域の学生を巻き込んで取り組んだことで、学生たちが楽しく本市の魅力を知ってもらうことができ、シビックプライドの醸成を図ることができました。
次に、ふるさと納税の担当として行っている事業として、国内外でセレクトショップを展開している株式会社ビームスが運営する「ビームス ジャパン」に、本市の地場産品の監修を委託し、魅力ある新たな産品の開発やブラッシュアップ(商品改良)する事業を2022年から継続して実施しています。本事業の実施により、新しい顧客(主に若年層)の獲得による市内産業の活性化と監修した商品をふるさと納税返礼品として活用することで、寄附金や寄附件数の増加を図ることを目的としています。
また、市内外に暮らす人たちに、改めて瑞浪市の魅力に気づいてもらうことや、魅力ある産品を通じて地域の誇りを感じてもらうなど、市民のシビックプライドの醸成に繋げていくことを目標として実施しています。
本事業には2年間で市内事業者13社が参画し、100品目以上のビームス監修商品が誕生し、監修を受けた事業者のふるさと納税返礼品に対する寄付額が、事業参画前に比べ6倍となったケースもあり、市内産業の活性化に寄与することができました。
また、20代~40代のふるさと納税の寄附者が、事業実施前に比べ約1.5倍になるなど、寄附者の若年層の獲得にも寄与することもできました。
ビームス ジャパン監修の商品の一部。
続いての取り組みですが、瑞浪市内にある地域資源(風景・風土、歴史、生活習慣、住民、方言等)を発信することで、市民のシビックプライドの醸成と、本市の認知度向上を図り、交流人口及び関係人口の拡大と、定住人口の増加に繋げることを目的に、2022年にシティプロモーション動画の制作を行いました。
動画の内容は、将来を担う若い世代が関心を持ち、共感を抱くものとするため、動画の原案については、市内の若者(10代~30代)を対象とした市民参加型ワークショップで、市民の方が決定する手法を取りました。
結果、「化石がミュージカルをする」というぶっ飛んだ原案(笑)となり、それを基にシティプロモーション動画「奇跡の化石」が製作されました。動画には、ワークショップに参加した市民の他にも、地元の高校生など、総勢50名以上がエキストラとして出演しています。現在、瑞浪市公式YouTubeチャンネルにて公開中で、58万回以上視聴されています。
最後に瑞浪市役所「ミライ創ろまい課」の取り組みです。
若者のシビックプライドの醸成を図り、域学連携活動を実効性のあるものとするため、学校の枠を超えたまちづくりチーム、瑞浪市役所「ミライ創ろまい課」を2022年6月に結成しました。
ミライ創ろまい課では、学生が主体となり、自らが企画した地域活動に大人を巻き込みながら実践することを通じ、若者が進んでまちづくりに参画し、まちに”にぎわい”を創出することを目指して活動しています。活動は月2回、3チームに分かれて、市内事業者や市役所の若手職員、専門家を交えたワークショップを重ね、白熱した議論を行っています。これまで、日本初の「化石検定」の開催や、ビールの麦芽粕をアップサイクルしたパンやお菓子の開発(実際に店舗で販売)など、様々なプロジェクトを学生主体で実施しています。
今年度で結成3年目となり、現在、市内3つ高校から総勢72名がこの活動に参加しています。
Q4:自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。
苦労する点は、シティプロモーションは、何をもって成功なのか成果指標が分かりづらいことです。単純に人口増加や減少の抑制を成果指標にしてしまえば分かりやすいのですが、シティプロモーションのみで人口減少の課題を解決することは困難だと思います。
シティプロモーションを行う場合、現状を分析して課題を把握した上で、ターゲットをできるだけ細かく設定し、そのターゲットに向けての具体的な企画を立案することが必要であり、そうすることで、論理的で説得力のある企画の立案ができます。
瑞浪市では、市民アンケートで「これからも瑞浪市に住み続けたいと思いますか」の問いに対し、“住み続けたい”と答えた人が、20代や30代の若い世代では、全体に比べて5%ほど低い傾向でした。よって、本市の成果指標(KPI)には、20代・30代のこれからも瑞浪市に住み続けたいと思う市民の割合を3年間で10%増加させるという目標を掲げ、若者が瑞浪市に愛着がわき、誇りに思えるよう事業を企画・実施をしています。
やりがいとしては、シティプロモーションって、目標達成に向けての手段に決まった正解があるわけではないため、予算の都合などはありますが、ある程度自由に企画立案ができることでしょうか。その分大変なのですが…(笑)
Q5:次のご回答者となる他の自治体の広報担当者の方のご紹介
埼玉県本庄市 企画財政部 広報課 課長の高柳一美さんです。