いま、comboという会社を経営している。PARTYのR&Dからスピンアウトした子会社として、2021年から粛々とビジネスモデルをつくってきた。スタートアップスタジオという業態である。同時に複数のスタートアップ企業を立ち上げる組織のことだ。迂闊で、多動症のぼくにふさわしい。
なぜこんなことをはじめたのか?
いきなり思いつきではじめたわけでない。2つ理由がある。
1つは、スタートアップ業界の魅力。
出会いのきっかけは、広告業界の住人であったぼくが、Infinity Ventures Summit (IVS) 2013の基調講演をやらせていただいたことだ。もともとしゃべるはずだった現Whateverの川村真司くんが急遽登壇できなくなって、代打ちを頼まれた。
ぼくは迂闊にも北海道に出張と聞き、
「川村のかわりに中村になっても、あまり気づかれないかもね。ウニイクラ丼食べたいかもね」などと二つ返事で受けた。
しかしこれがとんでもないイベントで、プログラムをよくよく読むと楽天の三木谷さん、孫泰蔵さん、CAの藤田さんといった錚々たる顔ぶれが普通に登壇するイベントの基調講演、つまりもっとも大きいホールでのキーノートスピーチではないか!!!
いきなり吐くほど緊張した。
しかし、嗚咽まみれの中何度もプレゼンを練習して臨んだところ、このスピーチがけっこうウケた。
内心心臓バクバクで死にそうになっている
何を話したかまったく覚えていないが、なんか3つ話したらしい
これを皮切りに、スタートアップコミュニティの端っこに入らせていただき、エコシステムやビジネスモデルを学ばせていただくことになった。
これを機に、PARTYにスタートアップからのお仕事がけっこう増えた。
タクシーCM、WebCM、アプリ、UI/UX、Webサイト制作など。
ただ、スタートアップの広告の仕事は100%プロモーション。面白いことや話題になりそうなことを言う余裕はまったくなく、おまけに制作予算も足りない、というあまりクリエイターにとってよい条件のものではなかった。しかし、スタートアップの経営者や事業そのものはとても魅力的で、ぜひご一緒したい……。
そこで、出資をして足りない製作費分を補う、という「取引出資」のようなスタイルが生まれた。
実際、200以上のスタートアップ経営者にアンケートを取ったところ、法務・人事・ファイナンスに比べて、97%が「マーケティング・UI/UXに課題感がある」と答えた。VCやエンジェル投資家は、ファイナンスや人事面でのネットワークは支援するが、そういった「顔となる面」「実業を伸ばす面」を支援するアセットは目にしたことがない。
基本的に、広告の仕事は一期一会で、ずっとご一緒できるようなクライアントは極めて少ない。しかし以前も書いたように、クライアントの広告をつくるために、マジメに考えているうち、作り手はその事業のことが大好きになっている。
広告代理店は本来、「広告で商品が売れなくても納品したら終わり」であるが、よりシビアな条件に自分たちを置くことによって、ちゃんとクライアントの売上や成長にコミットしたい。出資をするということは、目先の利益を損なう代わりに、その事業を伸ばす同じ船に乗るメンバーになることになる。
そういう考えで、comboでは魅力的なスタートアップに出資し、広告やマーケティングの支援に携わらせていただく「アクセラレーション事業」が生まれた。