『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回、取り上げるのは、松井正徳による『クリエイティブ・サイエンス ココロを動かす11の手法』。かつて松井氏と一緒に仕事をしていた原田朋氏が本書について紹介します。
効率的なマーケティング戦略を策定し、ABテストを繰り返しても、最後にオーディエンスの心が動かなければ、乾いた雑巾を絞ったくらいの結果しか得られない。だが反対に、なぜこんな大きな反応が!?という結果が得られることも時々ある。それは「異常値」として再現できない特異な例と片づけられてしまうことが多い。筆者の言う「サイエンス」は、ヒット広告の例を通して、この「異常値」を論理的に説明することに挑戦し、再現性のある形で、多くの人が共有できるようにしようというものなのだ。それはクリエイティブとは何かを明らかにすることであり、同時に人の心を明らかにすることでもある。
広告会社にいた私自身の経験でも「考え抜いた末にこのアイデアが良いと確信しているのだが、それをうまくクライアント担当者と、その先のクライアント社内に説明することができない」という事態に直面したことが何度もあった。事業会社のマーケティング担当者の方にも「自分が信じている”良さ”を社内にうまく説明できない」という方は多いのではないだろうか。『クリエイティブ・サイエンス』はそんなクリエイター、マーケターの方々に一筋の光を見せてくれる本であり、京都大学理学部で物理学を専攻した著者だからこそのサイエンス思考を通して、人の心が動く(著者の用語では「グッとくる」)ことの面白さに触れられる、心理学の本なのである。
『クリエイティブ・サイエンス ココロを動かす11の手法』
松井正徳著
定価:2200円(税込み)
本書は、現在クリエイティブディレクターとして活躍する著者が、若手の頃に経験したことに端を発しています。広告制作の現場で、先輩それぞれが語る「正しい広告とはこうである」というメソッド。それぞれが全く違うことを話しているにもかかわらず、そのどれも世の中で話題になったり、面白い広告をつくっている。「これは自分には見えてないだけで、その全ての根源のところで、もととなる統一理論があるのでは」。そう思い立ち、著者が独自に広告を分析し、考察を続ける中で編み出したのが「クリエイティブ・サイエンス」と名づけた「人のココロを動かす」11の手法です。著者は自分が「よいと思う広告」を分析・体系化して、11の模式図に落とし込みました。「感性」や「なんとなく」ではなく、「論理的な説明」と「明確な効果」を目指したい。本書は、そう考える人に贈る表現の実践書です。